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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第五章 魔法研究家・アンジェリカ

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崩落の余韻――わだかまりと新たな導き手

 洞窟の入り口から吐き出された砂煙が収まると、海斗達は洞窟の入り口付近で膝に手をつき、肩を大きく上下させながら荒い息を吐いていた。

「ダーリン、フェルノスの、時とは、また違った、意味で、死ぬかと、思ったぞ!」

「寿命が、十年は、縮み、ました」

「元々は、私の、責任、ですけど、もう、こんな目には、二度と、遭いたく、ありません!」

 口々に海斗に文句を言う仲間達に海斗は、背から結衣を下ろしながら、

「すまん、すまん。今度から、こんなことは、控える、からさ……」

と答えた。

「そこは、『こんなことは、二度と、しないから』じゃ、ないのかい!」

 とアリシアがツッコんだ。

「ハハハ、まあまあ、今は、そのくらいに、してくれ。エリザベス、息が切れている、ところで、悪いが、結衣の治療を、してくれるか?」

「わ、わかり、ました」

 エリザベスは背負っていた杖を手に持つと、

「いと慈悲深き神よ、敬虔なる者を、傷めし毒を、浄化し給え、リムーブ・ザ・ポイズン!」

 と息も絶え絶えに、震える声で呪文を絞り出した。すると、真っ青だった結衣の顔色は、徐々に赤みを帯びてきた。海斗は心配そうに見守った。


 ようやく息が普通に戻ってきたエリザベスは

「どうやら、毒が全身に回る前に解毒できたみたいです。これで結衣さんは助かると思います」

 と海斗に向かって安心するよう言った。続けて鏃の傷を癒やすためにヒールの呪文を唱えた。

 そこへ気まずそうにアンジェリカが海斗達に近づいてきた。

「ごめんなさいね、人質のこと黙っていて……」

「まあ、そのことについてはもういい。それより、猫は大丈夫なのか?」

「それが、ね」

 アンジェリカがキャリーバッグから、目を回している猫を取り出した。洞窟をアンジェリカが爆走している間、振りまわされて三半規管が発達している猫でも耐えられなかったのであろう。

「少し、放っておいて様子を見た方が良い」

「ありがとう。で、そちらは大丈夫なの?」

と言いながら、アンジェリカは、草の生えている柔らかそうなところへ、猫をそうっと置いた。

「ああ、結衣も大丈夫そうだ」

「そう、良かった……」

 さすがのアンジェリカも、今回は良心の呵責があったようだ。

 すると、猫を置いた後ろの方から、アリシアの声が聞こえてきた。

「オイ、どうした? 起きろ、猫」

と猫の頬をペシペシと手で軽く叩いていた。

「キャー何すんのよ! 動物虐待よ、虐待ぃ!」

とアンジェリカは猫を奪い返すかのように抱きかかえた。

「さすがに今のはちょっとまずかったですよ、アリシアさん」

とレイナもアリシアをたしなめた。

「悪い、悪い。もう死んじゃったのかな、と思ってさ」

「死んでるわけないでしょう!! アンタとはもう、一生口を聞いてやんないんだから!」

とアンジェリカは叫んだ。

 エリザベスは、仕方がないなと言った表情で仲間の失態をフォローするため、猫にヒールを施した。

 すると、猫は正気を取り戻したようで、ミャーと鳴いた瞬間、アンジェリカの腕の中で身をよじらせ、するりと抜け落ちた。

「それで、アンジェリカ、猫を助けた対価の情報だが……」

と、海斗が切り出した次の瞬間、

「取り込んでいるところ申し訳ないけど、皆、ちょっとオイラに付いてきてくれない?」

と足元の方から声が聞こえてきた。

「「「「猫が喋った!」」」」

 皆は一様に驚いた。

「使い魔なんだもの、喋るぐらい当然でしょ」

と、そんなことも知らないの、と言った表情でアンジェリカは呆れていた。

 すると、後ろから頭を抱えながら意識を取り戻した結衣も海斗達に近づいてきた。

「結衣、大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫」

 エリザベスは、ばつが悪そうに結衣を見ながら

「結衣さん、ごめんなさい。光の矢が結衣さんの足下に刺さったのは、事故であって決してわざとではないんです……。信じてもらえるでしょうか?」

と尋ねた。

 結衣はじろりとエリザベスの顔を凝視した。それは、しこりが残っているようにも、言葉を探しているようにも見えた。少し嫌な沈黙が流れたが、結衣はそれすら厭わなかった。

 海斗は、

「エリザベスが毒と傷の治療をしてくれたんだ。信じてやれよ」

とフォローした。

 すると、結衣は少し投げやりな態度で

「もう、そのことはいいわ。忘れてくれて結構よ。私も忘れるから」

と信じているのか疑っているのかを明らかにせず、うやむやのうちに会話を終わらせた。エリザベスは複雑そうな表情を見せた。結衣はエリザベスにそう言うと、背を向けて歩き始めた。その背中が何か悲しそうに見えたのは、海斗の思い過ごしであったのであろうか?

「で、オイラに付いてきてくれるの? くれないの?」と猫、いや使い魔は返事を促してきた。

「それってアンジェリカが持っている情報を聞くよりも先に優先しなければいけないことなのか?」

「それは付いてきてくれれば、わかるよ!」

「私だって、今さら約束を反故にしたりしないわよ。いつだってあなた方の欲しい情報を教えるわ」

「まあ情報が手に入るなら、別に俺は構わないが……」

と、海斗。他の仲間もアリシアを除いて、構わないとの返事をした。ただ、アリシアは

「そんなことを言って、ささ身を売っている肉屋か何かに連れて行って『買っておくれよ』とか言うんじゃないだろうな?」

と本気とも冗談とも言えないような調子で言った。

「そんな訳ないだろう、オイラに優しくないおばさん!」

 それを聞いたアリシアはムカッとして

「誰がおばさんだ、誰が! 私はまだ25だぞ。やるか、この猫野郎!」

とたんかを切った。

「さすがに、猫相手に大人げないですよ、アリシアさん」

とレイナがたしなめる。

「オイラは単なる猫じゃないよ、使い魔だよ!」

「何が使い魔だ! 飼い主も飼い主なら猫も猫だな!」

 海斗はやれやれといった様子で

「まあまあ、アリシアもその辺にしておけよ」

と仲裁に入った。

 まあダーリンがそう言うならとアリシアもしぶしぶ矛を収めた。

「それじゃあ案内を頼む、ミーちゃん」

 海斗がそう言うと、わかったと使い魔は洞窟の上に位置する山の森めがけて歩き始めた。


 十五分ぐらい森の中を歩いたであろうか。森から抜け出て、視界が広がった。

「あれだよ!」

 使い魔の視線の先には、風雨にさらされ黒ずんだ石壁に蔦が絡まった修道院らしき建物があった。丘の上に建つその建物は、人を拒むかのような静けさと薄気味の悪さを漂わせていた。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 崩落からどうにか生還した海斗たちですが、

結衣とエリザベスの間には、まだ小さな『わだかまり』が残ったままです。

 一方で、アリシアとアンジェリカの使い魔「ミーちゃん」の間には、

どうやら大きな『わだかまり』が勃発したようで……。


 そして、使い魔の案内で向かった先には、人を拒むような静けさをまとった修道院が──果たして、これは何を意味するのでしょうか。


 次回もよろしくお願いします。

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