洞窟からの脱出――海斗の暴走? 爆走!?
「アリシア、結衣がやられた。今すぐ助けに行かないと!」
海斗は結衣のところへ向かおうとするが、敵兵が立ちふさがる。焦る海斗。
「そんなことを言っても、こちらは取り囲まれているんだ、どうしようもないだろう!」
結衣のことだからか、現実的だからかわからないが、アリシアはいたって冷徹だ。
「しかし……」
敵と対峙しながら、必死に知恵を絞っていた。
「……ん、この取り囲まれている状況を打開する策が一つだけあるぞ」
「ダーリン、ひょっとして滅茶苦茶ヤバいこと、考えていないか?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、危ない橋も一度は渡れ、危ない所に登らねば熟柿は食えぬってね」
「嫌な予感しかしない……。一応言っておくけど、『命あっての物種』とも言うぞ……」
「だから、死中に活を求めるんだよ! 風の精霊よ、我が剣に刃と化す……」
「やっぱり!」
大司教らしき男性も
「やめろ! やめてくれ!」
と叫ぶ。
部下の敵兵に向かっても
「お前達もこれ以上、kaitoを刺激するんじゃない!」
と叫ぶ。
しかし、敵兵は「呪文を詠唱する前にやってしまえ!」と一気に距離を詰めてきた。が、それより先に、海斗が
「真空の牙を授け給え、カマイタチ!」
と詠唱すると、突風が渦巻き、敵兵たちが悲鳴を上げながら空中へと舞い上がる。その勢いで天井にヒビが入り、砂や小石が次々と降り注いだ。
海斗が叫ぶ。
「皆、入り口まで走れ!」
最初、何が起きているのかわからなかったレイナとエリザベスもことの重大性に気がついたようだ。エリザベスは普段出したことがないような大声で
「結衣さんと猫はどうします?」
と指示を仰いだ。
「結衣は俺が助ける。猫はアリシアがアンジェリカに渡せ!」
結衣の近くまで来ると、海斗は結衣を背負い、アリシアはキャリーバッグを拾った。
未だ呆然としているアンジェリカのところに、アリシアが来てキャリーバッグを近くに置いた。そして、アンジェリカの頬をビンタした。
「ほら、ご注文の猫だ。自分自身と猫を助けたければ、一生懸命洞窟の入り口まで走るんだな」
と言い残すと、一目散に入り口へ駆け出した。すると、アンジェリカの目の前で巨大な岩が崩れ落ち、大司教らしき男の絶叫が洞窟内に響き渡った。その瞬間、アンジェリカはハッと正気を取り戻し、ようやく事態の深刻さを悟った。
「ちょっと待って! 何これ? 冗談でしょ!? 何が起きてるのよ――っ!」
アンジェリカは慌ててキャリーバッグを拾うと、入り口に向かって走り始めた。
一方アリシアは、結衣を背負って走っている海斗に追いついた。レイナもエリザベスも息を切らして爆走している。背に弓もしくは杖を背負い、指先をピンと伸ばした腕を大きく振って、まるでウサイン・ボルトのようだ。
「もっと穏当なやり方はなかったんですか、海斗!」
「すみません、私が原因です……。でも、これはいくら何でも乱暴すぎます!!」
「ダーリン、さすがにこれは『借りひとつ』とさせてもらうからな!」
すると、後ろから「死ぬ、死ぬ、死ぬぅ!」と叫びながら、キャリーバッグを持ったアンジェリカが迫ってきた。目の幅ほどの涙が頬を伝っている。
「誰よ、こんなことをしたのは! 一生恨んでやるんだから!」
と言い放つと海斗達を追い抜いていった。
「は、速い……」
皆一様に、アンジェリカの逃げ足の速さに驚いた。が、今はそんなことに驚いている場合ではない! 後ろから次々と天井の崩落が起き、海斗たちに追いつこうとしていた。
「結衣、必ず助けてやるからな!」
海斗は青白い顔色の結衣を覗き込みながら、心の中でそうつぶやいた。たとえ、すれ違いや理解できない部分があっても海斗にとって『結衣』は幼馴染の、そして異性として意識している『結衣』に違いなかった。
「教皇国まで行って『えん罪』を晴らす! こんなところで死んでたまるか!」
海斗は降ってくる砂塵を浴びながら、息を切らして走る! 走る!
洞窟の外では、アンジェリカがキャリーバッグを置いて、息も荒いまま大の字になって寝ていた。
「そういや、アイツら、どうなったのよ」
アリシアは起き上がって、洞窟の入り口の方を見た。
すると、洞窟の入り口は崩落の影響で砂煙が激しく舞い、視界が遮られている。奥から轟音が響き、次の瞬間、岩がずしりと入り口を塞いだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
魔法の腕前は相変わらず謎なアンジェリカですが、逃げ足だけは一級品だと証明されました。
海斗たちは崩落から無事に脱出できたのか?
毒矢を受けた結衣の容態は?
そして、わだかまりを残したままのエリザベスと結衣の関係は……。
次回もよろしくお願いします。




