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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第五章 魔法研究家・アンジェリカ

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沈黙の理由――結衣に潜む影

 宿屋に戻った海斗と結衣は、アンジェリカとのやりとりを他の仲間たちに説明した。

「……そういうわけで、その西の洞窟で人質を奪還しなければならなくなった。皆も協力してくれるか?」

「私は普段から、ダーリンのすることなら喜んで協力させてもらう、って言っているだろう」

とアリシアは当たり前だろ、何をいまさら、と言った感じで即答した。

「狭い洞窟の中で弓矢がどのくらい役に立つのか、わかりませんが、戦力になると思って下さるなら、私も協力させて下さい」

「洞窟の中では、引き返すのも困難なはず。怪我をした時は特にそうでしょう。そういう時こそ、ヒーラーの出番です。私もついていきます」

 レイナやエリザベスからもそれぞれ自身の役割を果たしたいという思いが伝わってきた。

「私は言わずもがな、ね」

 最後に結衣が締めくくった。

「皆、ありがとう。では明朝七時出発、その後アンジェリカと合流して西の洞窟に向かう、それでいいか?」

 アリシアら全員がうなずいた。

「それと、結衣。話がある。後で俺の部屋に来てくれないか」

 と、海斗はいつになく厳しい面持ちで言った。


「……アンジェリカから逃げる途中で『聞きたいことがあるのなら、後で答えてあげるから』って言ったよな――だから、今聞く。どうして今まで、戦えることを隠していた!」

 海斗は珍しく結衣を厳しく詰問した。結衣は唇を噛みしめて黙っている。海斗は

「もし、結衣が戦えることがわかっていたなら、エルダー村を出た後での戦いでも、あんなギリギリの戦いにはならなかった。ましてやフェルノスの戦いではパーティが全滅していても全然不思議じゃなかった。どういうつもりだったんだ!」と迫った。結衣はたどたどしく

「……私の職業(ジョブ)盗賊(シーフ)。戦闘には向いていないわ」

とかすれるような声で答えた。

「それでもだ。少なくとも戦闘において足手まといにはならなかったはずだ。それによって、選択できる戦術も変わってくる。パーティの生存率にも関わってくる問題だ――それに牢獄でのピンチも、あれも演技だったのか?」

 結衣はしばらく黙って考えていた。いやな沈黙が二人の空気を重くする。が、結論が出たのであろうか、その答えはこうであった。

「今、戦えることを隠していた理由は悪いけど喋れない。でも、サンクト・ルミナス大聖堂で教皇に会った後なら喋れる。それと、しびれ薬の件は演技じゃない。……これで勘弁してくれないかしら?」

と少し開き直ったように言った。

 海斗は眉毛をピクッと動かし、不快な表情を隠さなかった。

「結衣、……変わったな」

 海斗はそう言いながら、自分の目には知らず知らずのうちに涙が溜まっていることに気がついた。

「そうよ、人間、いろいろと経験してくると、自然と変わってくるものよ」

とあなたにはわからないだろうけど、といった感じで、結衣は海斗に言葉を返した。ただ、少し寂しげに瞬きをしたように見えたのは気のせいだったのであろうか?

「俺は納得できないが、結衣が教皇に会うまで喋れないというなら仕方がない。ただし、今後は戦力として考えさせてもらう。いいな」

 海斗が言えたのはこれぐらいだった。これ以上は踏み込まない方がいい……結衣との関係が完全に破綻する。――海斗の勘がそう言っていた。

「わかったわよ」

 結衣は自分の髪をいじりながら、そう答えた。その仕草は、昔から『自分を守るための言い訳をする時の癖』だった。……もう完全に開き直っている。もう、俺の知っている結衣ではないのか? 海斗は寂しく感じた。最後に海斗は

「それと、結衣が盗賊の能力を持っていたことは俺から皆に話しておく。それでいいな?」

と気を使った。

「私の口から説明をしてもいいけど、どうせアリシアあたりと口論になるんだろうから、海斗が自分の口で言うというなら、それでいいわ」

 もう、どっちでもいい、と言った口調だった。しかし、普段の健康的な紅頬の結衣の顔色が白く見えたのは、気のせいだったのであろうか。

「わかった。明日は頼む。……おやすみ」

 結衣はおやすみと言って、何もなかったかのように、淡々と海斗の部屋を出て行った。扉の音だけが、海斗の耳に残った。


 その晩海斗はベッドに入りながら、翌朝どのようにアリシアたちに説明しようか、思い悩んだ。そして、海斗が選んだのは、どうにも歯切れの悪い説明だった。


 朝食後、宿屋の食堂で、結衣以外のメンバーを集めて、海斗はこう切り出した。

「皆、いいか。結衣が盗賊としてのスキルと戦闘力に、突然目覚めたらしい」

「本当かよ、ダーリン。あのタダ飯食らいが?」

 アリシアは信じられん、といった様子だった。

「だったら、今後戦力として考えられますね。洞窟に入るのなら、宝箱や罠もあるかもしれませんし」

 レイナはいつものように前向きだ。

 ただしエリザベスは少し疑念を持っているのか、

「それにしても急な話ですね。何か盗賊として目覚めるきっかけでもあったのですか?」

と聞いてきた。

「ごめん、それについては、今は言えない。サンクト・ルミナス大聖堂で教皇に会った後に結衣から直接説明させる。それで今は許してくれないか?」

 エリザベスは何か思うところがあったのか、しばらく考えていたが

「わかりました。そういうことでしたら、今はいいです」

と答えた。

 そこでアリシアがさっそく茶々を入れる。

「それにしてもエリザベス、さりげない会話の中で『恋敵』の結衣のイメージダウンを図ろうとしている? だとしたら、なかなかの策士よ、のう」

「べ、別にライバルの結衣さんを蹴落とそうとしているわけではないのですからね! いえ、そもそも結衣さんがライバルって、私は海斗さんのことなんか異性として全然意識なんかしていませんから!」

「でたよ、ツンデレキャラ」

と予想通りのリアクションが返ってきて、満足そうなアリシアは笑った。

 レイナも笑って

「そうですね、エリザベスさんのツンデレキャラですね」

と呼応した。エリザベスは

「わ、私はツンデレキャラではありません!」

と、海斗の胸をグーの手でポコポコ叩いてくる。

「わかったから、俺の胸を叩くのはもう止めてくれ!」

 一同、笑いが起きた。

 そこに無表情の結衣が現われた。それは、感情を押し殺した能面のようにも見えた。何か言いたげだが、誤解されても構わない、沈黙を守る。結衣の態度からはある種の覚悟が見て取れたように、海斗は感じた。

 ……微妙な空気が流れる。海斗は咳払いをして

「それでは全員揃ったことだし、西の洞窟に行くぞ!」

と号令をかけた。

 ……海斗たちは、わだかまりを残したままアルティアの宿屋を出発した。

 結衣の沈黙が、海斗の胸に小さな棘のように残った。

 今回も読んでくださり、ありがとうございます。


 結衣が隠していた『戦える力』。

 そして、彼女が語らなかった『理由』。


 海斗の問いかけに対して、結衣は沈黙を選びました。

 その沈黙は、彼女自身を守るためなのか、

 それとも海斗たちを守るためなのか――まだ誰にもわかりません。


 その沈黙がどのような波紋を広げていくのか。

 その輪郭は、クライマックスに進むにつれ、次第に明らかになっていきます。


 引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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