魔女との取引――誰が誰を騙すのか
海斗は不審に思ったが、これ以上ここで堂々巡りしても仕方がないと思い、
「わかったよ。人質が誰なのかは置いておいて、その人質を奪還してくれば、そちらの情報を教えてくれるのだな?」
と、とっとと答えろ、と言わんばかりの口調で言い放った。
「そ、そういうこと。これで交渉成立ということでいいかしら?」
「ちょっと、待て。じゃあなぜ、人質解放を望んでいるのなら、情報と交換に1000ゴールドを請求してきたのか、その理由を言ってもらおう。そして、俺の臓器から惚れ薬を作ろうとしたり、死体を教会に売ろうとした理由もな。本当に人質の救助をして欲しいなら、最初からそのことを条件にするのが普通だろう!」
と海斗は怒鳴った。
「それは、あなたがどのくらいの技量を持った剣士か、わからなかったからよ。人質を助けるのに冒険者を雇うのも、お金次第でしょう? それに払えない金額をふっかけたら、あなたがチャームのスキルを使ってくることは容易に予想できた。そうしたら、逆にかかったふりをして、あなたを私の研究所に誘うことも可能だと考えたの。これで納得してもらえたかしら?」
「それじゃあ、すべて冒険者を雇う金欲しさに、俺を誘ったのか!」
アンジェリカは小声でぼそりと、
「まあ、チャームのスキル発動のメカニズムの解明をしてみたい、という魔法研究家としての興味もあったけれど……」
と思わず本音を漏らした。これには結衣も『まるで約束を反故にされたかのような』険しい表情をして、アンジェリカを睨んだ。そして、一瞬海斗の方をちらっと見て、複雑な表情を見せた。
一方、海斗はイラッとしたものの、これ以上話し合いを続けても時間の無駄だと思い
「わかった。それで納得したことにしておいてやるよ」
と妥協した。
「それで、人質はどこにいるんだ?」
「どこに捕縛されているのかは、わからない。だけれども、あなたとの交換に教会が指定してきた場所は、アルティアの西の洞窟。場所はご存じ?」
海斗は振り返ると
「結衣、知っているか?」
と尋ねた。
「ううん、私も知らない」
「場所はどこだ? 後で地図で確認したい」
「それなら、私も同行するわ。あなたたちだけで行ったら、人質が殺されるかもしれないし」
「……どうする、結衣?」
結衣は何か感づいたようで
「つまり、こういうこと? 海斗があなたに捕まったふりをして洞窟まで行き、相手が油断したところで人質を奪還する、という作戦かしら?」
と尋ねた。
「話が早くて助かるわ」
結衣は自身が言い当てたのにも拘わらず、少し呆れたようだった。が、すぐに心配そうに海斗の方を見つめた。海斗は納得していないのか
「また、俺を騙そうとしているのではないのだろうな? 今度は他の仲間も連れて行く。もし裏切ったら……どうなるか、わかっているのだろうな!」と凄んだ。
「おー怖い、怖い。もし裏切ったのなら、私をあなたの好きなようにしてくれても構わないわよ、童貞の海斗君! まあでも、あなたの仲間たちがあなたを見て嫌悪感を抱かない程度にしておいた方がいいとは思うけど」
この発言には結衣も苦笑いをしたが、海斗の方はと言うと
「誰が仲間に嫌悪感を抱かせるようなことをお前にするんだよ! 裏切ったなら、お前を叩き斬って、ミンチにしてやるだけだ!」と息巻いた。
今回も読んでくださり、ありがとうございます。
海斗とアンジェリカの『取引』は、一応の形で成立しましたが、
アンジェリカが言い淀んだ真実――まだまだ腹の底は知れません。
次回は、『洞窟』へ向かう準備の回。
誰が誰を騙し、誰が誰に沈黙を守っているのか――
そして、その結果、海斗たちの人間関係にどのような波紋を広げるのか。
次回も引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




