賞金首の真相へ――依頼者の名を求めて
その後、海斗たちの旅路は、途中魔物を退治して素材を集める以外、比較的穏やかな旅路が続いた。十一人もの冒険者からの攻撃を耐え、逆に返り討ちにしたのが大きかったのだろうか。
懸念していたローレンシア教皇国とヴァルディス公国との国境の関所もエリザベスの親書を出すと難なく通過することができた。
そして、ついに海斗達はローレンシア教皇国に入国した。
*
「風の精霊よ、我が剣に刃と化す真空の牙を授け給え、カマイタチ!」
詠唱した海斗が剣を振ると、草原に烈風が吹き、草は薙ぎ払われ、大木の幹には深い爪痕が刻まれた。もし生き物がいたならばその肉は深く切り裂かれたであろう。
「ダーリン、精が出るね」
遠目で見ていたアリシアとエリザベスは海斗に近づいてきた。
「いや、まだまだだ。まだ剣がないと魔法は発動しないし、土属性の魔法に関してはさっぱりだ。……もっと強くならなければ、皆を守ることはできない」
「魔法の属性には、人によって得手不得手があるって聞いたことがあるぞ、ダーリン。そうだよな、エリザベス?」
「え、えぇ」
考えごとをしていたエリザベスは気のない返事をした。海斗がカイアンからもらった魔道書に記されている魔法剣の練習をするようになってから、日に日に魔力が上がってきていることにエリザベスは気がついていたからだ。
「この世と、トンネルで繋がる異世界とに災厄をもたらす魔法を誕生させないためにも、これ以上の魔法剣の練習は止めてくれ」
その一言がエリザベスには言えなかった。
ようやく海斗と結衣を賞金首にした教会の総本山とも言えるローレンシア教皇国に入ったのだ。これから刺客が来ないという保証はない。持つべき武器を増やしておくに越したことはない。ましてや、海斗は私たちを守るために強くなろうとしている。
しかし、しかしである。その結果、街をまるごと呑みこむような災厄が起きるのを、巫女である私が黙って見過ごしていていいものだろうか?
その魔法を詠唱することだけを防げば良い。今はそう考えよう。エリザベスは独りそう思った。
その日の夕方、海斗たちはローレンシア教皇国の町・アルティアに徒歩で入った。既にエルシオン王国の関所を通過してから十日が経っていた。
アルティアの冒険者ギルドに行く道すがら、レイナは
「ローレンシア教皇国内の冒険者ギルドですし、もしかしたら、貴重な情報が手に入るかもしれませんよ」と小声で言った。
「でもその前に素材を売らないと、今夜の宿屋や食事もお預けになるぞ、ダーリン」
「そんなのごめんよ。もう青臭い野草を煮ただけの塩スープはごめん!」
結衣は悲鳴を上げそうな表情になった。
「よし、急ごう」
街の人に場所を聞きながら、海斗達は冒険者ギルドへと向かった。
「では、以上の素材を買い取らせていただきます。30ゴールド、9カッパー(銅貨九枚)でよろしいですか」
「やりぃ。太っ腹だね、お姉さん!」
予想以上に高値で売れてアリシアはご機嫌だ。
そこへレイナが飛んできた。
「カイル、ものすごい情報ですよ。もしかしたら海斗たちを賞金首にした張本人がわかるかもしれません!」
「レイナ、それは本当か?」
「ハイ、あそこの冒険者さんたちの会話を聞いていたのですが、アンジェリカって名前の魔女がいて、その方、ローレンシア教の教会やその中枢部の情報に耳聡いらしくて。冒険者ギルドに賞金首の依頼の手続きをした方をご存じみたいなので、依頼者も誰かわかるかもしれません」
「そういう情報はギルドにも知らされていないみたいだしな。それで、その冒険者はどこにいるんだ」
レイナが顔を向けた先には、年季の入った装備を身に着けた中年の冒険者たちがいた。
……俺たちを賞金首にした奴がわかるかもしれない。そう思うと海斗は、ごくりとつばを飲み込み、冒険者たちに近づいて行った。
しかし、もしローレンシア教会に近しい者であったら?
今までの刺客となった冒険者との生々しい闘いの記憶が頭をよぎる。
海斗には中年の冒険者の腰にぶらさげたファルシオンの刃が否が応でも目に入ってきた。
そして冒険者の様子を窺おうとしたとき、こちらの気配を察したのか、冒険者は振り返り、海斗と目が合った――次の瞬間、言葉にできない不穏な空気が海斗の背筋をひやりと撫で、冷や汗が一筋、頬を伝った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ついに第五章に突入しました。
この章から、海斗たちを賞金首にした者の正体へと、少しずつ真相に近づいていきます。
そして──
教会に詳しいというアンジェリカとは、いったいどのような人物なのか。
敵となるのか、それとも味方となるのか。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。




