囁かれる噂と揺らぐ未来
「つまり、カイアン・モーティスっていう人に助けられ、さっきの魔法剣を教えていただき、さらに剣を貸していただいたと思ったら、その上魔道書の入ったアイテムボックスをプレゼントで貰ったってことですか?」
レイナは少し驚いたように言った。
「まあ、そういうことだ」
「そんな奇特な奴が世の中にいるのかなぁ? ダーリン、タダほど高いモノはない、と言うぞ。一体、カイアンって何者なんだ?」
アリシアも不思議そうに言った。
「俺もカイアンさんが何者か、わからない。ただ優しそうな老人だったとしか答えようがない……」
「……その名前には心当たりはあります」
エリザベスが会話に入ってきた。
「本当か。一体何者なんだ?」
「カイアン・モーティス、つい一年前にローレンシア教の枢密卿になられた方のお名前です。もしかしたら同姓同名の可能性はありますが」
「その枢密卿のカイアンって人、一体何歳ぐらいの人なんだ。やはり七十代ぐらいの老人か?」
「それが、秘密のベールに包まれた方で性別が男という以外、何歳で国籍はどこでどんな顔をされているのか、エルシオン王国の教会には全く情報が入ってこないのです。私も直接お目にかかったことはないですし」
「そうか、それじゃあ俺が会ったカイアンさんなのか、わからないな」
「ただ、あまりにも突然教会内で名前を聞くようになったため、もしかしたら異世界からの転移者なのではあるまいか、という噂がまことしやかに飛び交っている、とは聞いたことはあります。その噂も真実かどうかわかりません。あまりお役に立てずに申し訳ございません」
「いや、いいんだ。彼も言っていたが、また会える気がする。不思議だがそう思えるんだ」
海斗は再会が少し楽しみであるかのように言った。
結衣は会話に参加せず、遠巻きに海斗らの会話を聞いていた。
エリザベスは海斗の戦いぶりや彼を取り巻くオーラから、彼の魔力が格段に上がっていることを感じ取っていた。それでも、まだ異世界に通じるトンネルを作れるほどではないと思えたが。しかし、このペースで魔力が上がり続けたら? もし異世界へのトンネルが作れるようになったら? 私はこの人を殺さなくてはいけないのだろうか。身を挺して私を救ってくれたこの人を。エリザベスは新たな葛藤を抱えることになった。
……そうエリザベスが悩んでいる脇を通り過ぎて、血潮が残ったままの結衣が海斗へと歩み寄っていった。
そして、両手で海斗の両肩を掴むと顔を近づけ、いつにない真剣なまなざしで海斗の瞳を見ながら
「海斗……絶対に生き延びて、 えん罪を晴らして、力をつけて…… いつか必ず安全に『帰れる道』を作って、一緒に千葉に帰ろう!」
と言った。海斗はなぜか「わかった、一緒に必ず千葉へ帰ろう」と即答できなかった。とりあえず、「うん」と気のない返事でその場をごまかした。
「とりあえず冤罪は晴らすとして……その後、俺は一体どうしたいんだ? 大切な仲間たちと別れて千葉に帰りたいのか? それとも、この世界で彼らと共に歩む未来を選ぶべきなのか……わからない。今の俺には、まだ答えが出せない……」
海斗は、自分の本当の気持ちがどこにあるのか掴めずにいた。
ただひとつ確かなのは──冤罪を晴らさなければ、この戦いは終わらないという事実だけだ。
……教皇のいるサンクト・ルミナス大聖堂をめざす旅は続く。
冷たい初冬の向かい風が海斗の頬をかすめ、戦場に倒れた冒険者たちの血の匂いを拭い、静寂な野原を吹き抜けていった。まるで何もなかったかのように、揺れる草木が風の通り道を教えていた……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
エリザベスの葛藤、結衣の願い、そして海斗の迷い。
変わってしまった自分は、どこへ帰るべきなのか。
えん罪を晴らす旅の中で、その答えを海斗は見つけられるのでしょうか。
次回からは新章に突入します。
海斗たちはついに教皇国へ!
引き続き読んでいただければ嬉しいです。




