雨の逃避行、揺らぐ足並み
……それから一時間ほど経った森の中。アリシアたちは洞窟の中に身を隠していた。
「海斗が、海斗が……。私が転んでしまったばかりに……」
エリザベスが声を潜めながらも泣きじゃくっている。
「アリシア、今からでも河原に行って、海斗を探しましょう」
レイナの提案に、アリシアは首を振った。
「まだ、駄目だ。雨脚がまだ強い。川は濁流になっていて、河原に降りるのは危険だ」
「でも、今探さないと助かるものも助からないよ!」
「今ならまだ私のヒールで助けられるかもしれません!」
結衣もエリザベスも、必死にアリシアから海斗を探す許可を得ようとしていた。
「アリシアさん、どうか二人の気持ちもくみ取ってあげてください」
レイナも泣きそうだ。
「駄目だ、駄目だ! まだ私たちは刺客に追われている立場なんだぞ。森の中で鉢合わせしたらどうするんだ!」
アリシアの声は小さかったが、抑えきれない焦りと怒りが言葉の端々に滲んでいた。
「アリシア、あなたは海斗のことが心配でないの?」
結衣は涙目になっていた。
「心配していないわけないだろう!」
アリシアは聞き分けのない結衣に対して思わず大声を出してしまった。
アリシアは一度深呼吸すると、小声で
「私だって、ダーリンのことを探したいのはやまやまだ。しかし、ダーリンは身を挺して私たちを逃がしてくれたんだ。その命を大事にしないで、刺客たちに捕まったり、川で溺れ死んだりしたら、ダーリンの犠牲は無駄になる。それだけは絶対に避けなければいけないんだ!」
と諭すように言った。
「アリシア……」
結衣はその一言を最後に黙ってしまった。
重苦しい空気が流れる。
そんな折であった。
「さっき、この辺で声がしたぞ!」
「この辺に賞金首の残党がいるかもしれん。よく探せ!」
刺客たちの声が聞こえてくる。
「すまん、さっき、私の声が敵に聞こえてしまったかもしれない。ここも安全とは言えなくなってきた。雨の中、悪いが洞窟を出て、別の隠れる場所を探すぞ」
すると、結衣が
「私、やっぱり海斗のこと探してくる!」
と言うと、ダガーを手に取り洞窟を走り出た。
「結衣、勝手な行動をするな!」
アリシアの制止も届かず、結衣の背はあっという間に森の闇に消えていった。
あんなに足が速かったとは――アリシアは驚いた。
――刺客はもう近くまで迫っている。彼女たちに迷っている時間は、一秒もなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回は短いながらも、雨の森での逃避行を描きました。
足並みが揃わない海斗を失ったパーティはどうなってしまうのか。
単独行動を選択した結衣は? そして、海斗は?
次回は別視点から物語を描きます。
続きも読んでいただければ嬉しいです。




