採掘依頼は甘い誘いの匂い(?)
海斗らはヴァルディス公国の町・フェルノスに入っていた。野営をして、粗末な食事ばかりだったこともあり、結衣からのお願いで、着いて早々宿屋の食堂で食事を取ることにした。
普段賞金首の情報を取り扱っている、フェルノスの情報屋は、食堂で思わぬカモに出くわした。Kaitoたちの手配書の条件に合致するパーティが食堂にいることに気付き、じっと聞き耳を立てていた。
「カイル、シチュー、おかわりしていい?」
「いい加減にしろ。ローレンシア教皇国の国境までまだ三日はかかるんだぞ。ダーリンからも何か言ってくれよ」
「路銀も心細くなってきているから、それで終わりな」
「わかったわよ。店員さん、シチューもう一人前、追加!」
「ダーリンはユリッサに甘いな!」
「まあまあ、今回は勘弁してやれよ」
「はぁ、私は知らんぞ、ダーリン!」
そんなたわいもない会話が続いていたが、仮面の男が
「よし、皆食べ終わったな」
そう言うと辺りを見渡し、小声で
「ようやく目的地のサンクト・ルミナス大聖堂まで、行程の三分の二まで来た。……手配書には新たな情報が加わっている。大丈夫だとは思うが、もう一度気を引き締めていこう。それでは用意ができ次第冒険者ギルドに向かうぞ」
と言った。
それは、特に耳を配っていなければ大声で会話する冒険者たちの声にかき消されていたであろう。
しかし、情報屋は聞き逃さなかった。
情報屋は急いで食堂の勘定を済ませると、フェルノスの冒険者ギルドに足早で向かった。
情報屋はギルドの中に入ると、KaitoとYuiの手配書を見ていた男ばかりの冒険者一団に声をかけた。
「旦那、ちょいと耳寄りな話があるんですがね……」
海斗達が冒険者ギルドに入って、クエストの依頼書を見ていると、後ろから声をかけてくる男の声がした。海斗が振り返ると、少し人相の悪い中年の男性冒険者を筆頭に、三十代から四十代ぐらいの男性六人で構成されたパーティが後ろに立っていた。
人相の悪い冒険者が、
「パーティのリーダーは誰なんだ?」
と聞いてきた。海斗は
「俺がそうですけど、俺たちに何か用ですか?」
と尋ねた。人相の悪い冒険者は
「実は俺たち、ここから歩いて二日かかるダンジョンで鉱石採取のクエストを引き受けたのだが、そこの魔物が強くてよ、一緒に攻略してくれる仲間を募集中なんだ」
と言ってきた。
「……一緒に攻略するのは構いませんが、報酬はいくらぐらいいただけるのですか?」
すると、人相の悪い冒険者は、
「若いのに、いきなりお金の話かい……まあ、それが一番大事だわな。基本給が1パーティあたり20ゴールド、後は魔水晶1ルーン(重さの単位)あたり5ゴールドという取り決めになっている。ところで、自己紹介がまだだったな。俺の名前はダンっていうんだ」
と自己紹介がてら仕事内容とその報酬を説明した。
「わかりました、ダンさん。少し相談させて下さい」
そして、海斗はアリシアに向かって
「これって割の良い仕事なのか?」
と聞いた。アリシアは
「基本給20ゴールドを五人で割ると、まあまあの額だけど、問題は魔水晶がダンジョンにどのくらい転がっているにもよるな」
すると、ダンは
「いや、さっきも言った通り、魔物が強いんだ。だから、鉱石等も手つかずになっているんで、きっと今もたくさん埋蔵されていると思うぞ。それに、今ならアイテムボックスをただで貸してやる。これなら、ボックス一個あたり1000ルーン入るので、重い荷物を持たずにすむ」
と慌てたように言った。海斗は仲間達の方に向き直って
「皆、どうする?」
と尋ねたが、結衣とレイナは男六人のパーティの身なりを見て怪しいと思ったのか、
「今回は遠慮しておきましょうよ」
「はい、私もそれに賛成です」
とそれぞれ言った。
海斗はダンに向かって
「そういう訳ですから、他を当たって下さい」
と言うと、仲間たちと一緒に掲示板の前を去って、窓口に行こうとした。すると、ダンはさらに慌てて、海斗の手を取ると
「いや、男ばかりのパーティで、女性の方々からは警戒されたのかもしれない。が、実はこのクエスト、引き受けたのは俺たちばかりじゃないんだ。……おい、ブラックローズの連中を呼んでこい!」
と仲間に叫んだ。仲間の一人がギルドの奥の方へと走っていった。
五分ほどして、仲間の一人が、二十代から三十代ぐらいの女性五人を連れてきた。その中の一人が
「話は聞いたわ。私たちは『ブラックローズ』っていうパーティを組んでいるの。ちなみに私がリーダーをしている、ロキシー。魔水晶採掘クエストの仲間、ただいま募集中よ!」
と明るく軽い調子で喋りかけてきた。他の面々も
「私はヒーラーのメアリーちゃんよ♡」
「……魔法使いのスーザン」
「アタイは剣士のサマンサ」
「ボクはハンターのエミリー」
と自己紹介してきた。
それを聞いて、結衣やレイナの見る目も少し変わってきたようだ。それでも迷っているらしく、「うーん」とうなっている。
すると、ロキシーは
「それじゃあ、こういうのはどうかしら? そこのダンジョンね、『人魚の涙』っていう希少な宝石が、魔水晶を採掘しているとまれに見つかるの。最初に採れた人魚の涙、あなたたちに、プレゼントしてあげちゃうわ」
と提案してきた。海斗は、アリシアに
「その『人魚の涙』って、どのくらいの価値があるんだ?」
と尋ねた。アリシアは
「そんなの、大きさによるよ――指輪にする大きさで中型ぐらいのものなら、道具屋に売って、まあ1000万ゴールドから3000万ゴールドくらいかな?」
と答えた。それを聞いた結衣の目は¥マークに、レイナの目はGマークになっていた。いや、結衣……こちらの通貨はGであって、円じゃないからな。結衣とレイナは
「それだけあったら、食堂でどれだけステーキを食べられるかしら」
「……カイルと私の指に、結婚指輪としてこれが光っていたら……素敵かも」
とそれぞれつぶやくと、手を挙げて
「ハイ、ハイ、ハイ! 私、採掘クエストにいきます!」
「私も!」
と叫んだ。
海斗は、ため息をつきながら
「アリシア、エリザベス、本当に採掘クエストを引き受けて良いか?」
と尋ねた。
「ダーリンが構わないのなら、私はいいよ」
「……仕方がないですね。引き受ける動機が不純な気もしますが、路銀を稼ぐためには仕方がないかと」
とアリシアとエリザベスはそれぞれ答えた。海斗は、ダンに向かって
「わかりました。その条件なら引き受けます。いいですね?」
と言うと、ギルドの窓口へと向かおうとした。すると、ダンは、慌てて海斗の行く手に回り込んで
「窓口の手続きは俺たちに任せてくれ。君たちは、ブラックローズと作戦でも練っておいてくれ」と言って、海斗の肩をつかんで海斗の体を180度回し、ブラックローズの方へと背中を押した。
海斗は少しいぶかしげに思いながら、ブラックローズの方へと向かった。
……ロキシーとダンが目配せをしていることに気付くことなく。
読んでいただきありがとうございました。
ついに、第四章に入りました。
結衣とレイナの欲望が暴走気味で、怪しい依頼と怪しいパーティが放つ不穏な空気にまだ気が付いていないようです。
果たして、海斗たちは無事にクエストをこなせるのか――。
次回もよろしくお願いします。




