告げられた秘密と、交わる運命――エリザベスの決意
海斗とエリザベスが廃屋の二階に戻ると、アリシアだけでなく、結衣、レイナもその場にいた。そして、トーマスが縄で縛られていた。そこには少しだけ、戦いが決着したという緩んだ空気が漂っていた。アリシアが明るい調子で聞く。
「ダーリン、こんな感じで良いかい?」
「ああ、とりあえず拘束できていればいい」
結衣も
「もう一人の護衛の兵、確かギルバートって言うんだっけ、その人と魔法兵も縄で拘束しておいた」
と報告した。
「気を失っているギルバートはともかく、よく魔法兵を拘束できたな?」
「魔素が尽きた魔法兵なんてチョロいもんよ。レイナが弓をつがえながら脅したら、素直に拘束させてくれたわ」
海斗は、少し女の恐ろしさを感じながら「なるほど」としか答えようがなかった。
海斗たちの声に反応したのか、意識を取り戻したトーマスがエリザベスに向けて
「エリザベス様……一体これはどういう仕打ちですか?」
と、縋るように問いかけた。
「トーマス、私は海斗のチャームのスキルにかけられました。もう、エルシオン王国軍の指揮官は務まりません」
すると、海斗は
「いや、俺がかけたと言うより、どちらかと言うと、エリザベスの方から……」
と言いかけた途端に、エリザベスは海斗の足を思いっきり踏んだ。
「いてっ」
と海斗は、足を抱えながら声をあげた。
「とにかく、トーマス。私は、私の神託が正しいのかどうかを見極め、そして海斗が災厄をもたらす魔法を使わないよう監視するため、Kaitoたちに同行します。国王、アンナベルお姉様には、私がKaitoの人質になったと報告しておいて下さい」
すると、海斗は
「宗教異端者の次は、未成年誘拐の罪かよ……」
とぼやきかけたとき、再度エリザベスは海斗の足を思いっきり踏んだ! 海斗は足を持ったまま……無言で痛みに耐えた。
そして、エリザベスはトーマスに、カリストの死からセラの死までの状況を話した。
「つまり、ローレンシア教関係者の中に、Kaitoらに濡れ衣を着せ、我々とKaitoを戦わせようとした黒幕がいると?」
「そうです、トーマス。私は、黒幕が誰なのか、そして教会で何が起こっているのかを見定める必要があります――もう教会は信用できません」
「それを含めて、Kaitoたちに同行すると?」
「そういうことです。先程言ったように国王に報告すると約束してくれるのなら、縄を解いてもらいます……」
すると、結衣が
「さっきからおとなしく聞いていれば勝手に仕切ってくれているけど、私たちは、まだあなたを仲間だと認めたわけではないんですからね!」
と言った。アリシアはニヤニヤと含み笑いをしながら、
「さっきから聞いているとさ、ダーリンに付いていく理由を、やれ神託だ、魔法だ、陰謀だとか言っているけどさ、要は単純にダーリンが好きだから付いていきたいんじゃないの? 大体チャームのスキルだって、自分からかけられにいっていただろう?」
と意地悪く尋ねた。エリザベスは顔を真っ赤にして
「そ、そんなこと、あるわけないでしょう! ついさっきまで、お互い敵同士であったんですから! け、決して海斗のことが好きだから付いていくわけじゃないんですからね!」
と怒鳴った。結衣がぼそっとつぶやいた。
「ツンデレ?」
レイナが不思議そうに言った。
「ツンデレって何ですか」
「ツンデレって、普段冷たいけど、ふたりきりだと甘えてくる人のことよ」
それを聞くと、エリザベスの顔はさらに赤くなって
「わ、私は決してツンデレキャラではありません!」
と言って、海斗の胸を握った両手でポカポカ叩き始めた。
「いや、どうして俺の胸を叩くんだよ」
一連のやりとりを聞いていたトーマスは
「……俺の存在は無視かよ。どうでもいいけど、早く俺の縄を解いて欲しい……」
と独り言を言った。エリザベスは
「と、とにかく、私をKaitoたちのパーティに入れて下さい。そして、先程言ったように報告させますから、トーマスの縄をほどいてあげて下さい!」と叫んだ。
アリシアは
「いいんじゃないの、ダーリン。うちのパーティにはヒーラーもツンデレキャラもいないんだから」
と賛成に一票を入れた。レイナも
「私も、アリシアさんの意見に賛成で、ヒーラーは貴重な戦力になると思います」
と賛成した。海斗は結衣の方に顔を向けると、結衣は
「まあ、教会関係者とは言え、一応教会のことを疑っているみたいだから……仕方ないわね。敵として戦うよりも、監視が目的でも同行してもらう方がまだマシって結論に落ち着いたわ」
と肩をすくめながら言った。海斗はエリザベスに向かって
「そういうことだ。一応、挨拶がまだだったので、名乗っておく。俺の名はKaitoじゃなくて高橋海斗だ。よろしく頼む」
と少し笑顔をつくりながら手を伸ばした。
「高橋海斗……。やはりKaitoは高橋海斗でしたか。……私の名前は、エリザベス・ヴァレリアです。よろしくお願いします」
とエリザベスは海斗と握手をした。
そうして他のメンバーも一通り名を名乗った後、エリザベスは
「ところで、海斗、あなたは異世界から三年前に召喚されて、その後魔王を倒した勇者・高橋海斗なのですか?」
と聞いてきた。
「俺と同姓同名の勇者の話を聞いたことはあるが、俺は勇者でもなければ、魔王を倒したこともない。ただ……」
「ただ?」
これは言った方が良いのだろうか? しかし、エリザベスはいろいろと情報を持っていそうだ。情報交換をするのなら、正直に話しておいた方が良いだろう。
海斗はエリザベスの耳に口を近づけると、
「これは他の者には黙っておいてほしいのだが、俺も異世界から転移してきた」
とささやいた。
エリザベスはびくりと肩を震わせた。男慣れしていない彼女には、海斗との距離が近すぎたのだ。
しかし、エリザベスは動揺を隠すように
「……あなたのオーラを見る限り、嘘は言っていないようには思えます。そして、あなたは勇者同様チャームのスキルを使える……」
と言った。
そんなエリザベスの反応を見て、海斗は何が起きたのかよくわかっていなかった。
エリザベスはコホンと咳払いをすると、一瞬考え込み、目を細めた。
「こんなことが現実に起こるとは……」
「一体、それの何が問題なのか?」
「二百年に一度の奇跡と言われるこのスキルが、この時代に二人も……。しかも同姓同名……。これをただの偶然とは思えません」
「これは恐らくだが、勇者の名前から考えて、勇者は俺が元いた世界の『日本』という国の出身者だと考えていいと思う」
そして海斗は再びエリザベスの耳に口を近づけて、小声で言った。
「……俺も日本からこの世界に転移してきた」
さすがに二度目は慣れたのか、
「そうですか。それが真実なら、なおさら偶然とは考えられません」
と冷静に答えた。そして、エリザベスは少し黙って考えていたが、
「あなたに双子の兄か弟はいませんでしたか? 時々双子の中に兄弟で全く同じ魔法やスキル特性を持つ者たちが現われる、という話を聞いたことがあります」
と尋ねてきた。
俺たちの世界で言う、一卵性双生児のことを言っているのであろうか? 全く同じDNAを持っているのなら、似たような魔法やスキルを使える可能性があるということだろうか。
「いや、そんな話は親から聞いたことがない」
「そうですか……。本当に魔王を倒した記憶はないのですね?」
「ない。俺の過去に、そんな事実はない!」
ふと海斗は考えた。過去の自分でなければ、未来の俺が三年前のこの世界に召喚され直して、魔王を倒したのだろうか? しかし、この仮説には矛盾がある。もし未来の俺が今より前に召喚されていたなら、俺よりも先に賞金首となり、すでにローレンシア教皇国を目指して行動していたはずだ。そうであれば、俺が通った街で「未来の俺を見た」という目撃証言があってもおかしくない。だが、そんな話は一度も聞いていない。
そう考えると、未来の俺が魔王を倒した可能性は限りなく低い。となると、消去法で魔王を倒したのは平行世界の俺という、SF的な仮説に行き着く。だが、それも証拠がなく、ただの想像に過ぎない。これ以上考えても仕方がないだろう。
海斗からの返事を聞いても、エリザベスは釈然としていない様子だった。トーマスは
「……ぼちぼち私の縄を解いてもらえませんかね?」と懇願した。
縄を解いてもらったトーマスは、エリザベスに向かって
「目的がすみましたら、エルシオン王国へのお早い帰還をお願いします。そして、確かに先程言われたように国王様とアンナベル元隊長には伝えておきます……が」
と言うと、今度は海斗の方に向き直って
「……真実がどうであれ、『お前たちが宗教関係者を殺した』という噂は、きっと一人歩きする。そこは覚悟しておけ」
と言った。海斗は
「戦いの中での戦死者はともかくとして、宗教異端者に未成年誘拐、そして宗教関係者二名の殺人か……」
と言うと、ため息をついた。エリザベスは
「宗教異端者以外は、私が教皇様に事情を話しますので何とかなると思います」
と言った。アリシアも
「そうだよ、ダーリン、ポジティブにいこう、ポジティブに!」と励ました。
海斗は
「……そうだな。こんなことぐらいでローレンシア教皇へ弁明する旅をやめるわけにはいかないな――よし、皆、エリザベスからもらった親書が有効であるうちに、ヴァルディス公国に通じる関所を通過するぞ!」
と号令すると、これから待ち受ける苦難を知らない海斗達は薄明の闇の中へと消えていった。
今回も読んでくださりありがとうございます。
秘密と疑念が交錯し、エリザベス編はここで一区切りとなります。
次章もどうぞよろしくお願いいたします。




