甘い(!?)誘惑
海斗の仮面が半透明になりかけた、その瞬間だった。兵士は検問所の奥へ引っ込んでいき、隊長らしき人物を連れて戻ってきた。肌の色は真っ白で、体格も華奢、なで肩で少しオカマっぽい。
「あなたたち、賞金首と同じメンバー構成の冒険者なんですって? ちょっと奥の検問部屋で詳しいお話を聞かせてくれるかしら?」
前言撤回。少しではなく、かなりオカマっぽい。
海斗は、この状況はかなりヤバいと思ったが、ここで逃げ出したり戦闘になったりしたら、賞金首として捕まって終わりだろう。黙って取り調べを受けるしかないのか? もしかして俺のチャームのスキルはオカマには通用しないのだろうか。
海斗は駄目もとで
「隊長さん、ちょっといいですか」
と隊長の目を見て3秒数えようとした。
「何、私の美しい顔にみとれちゃったのかしら?」
「いえ、いや、その、その通りです。もう少しだけ見ていていいですか」
「しょうがないわね、もう少しだけよ」
そして3秒が過ぎた。隊長さんはこちらにウインクしてくるが、特に変わった様子はない。やはり駄目か。
「あら、剣士見習いの坊や、乙女がウインクしているのに無視ってあまりにもつれないんじゃない?」
「はい?」
ひょっとして効いているのか? 海斗は急いで
「はは、すみません、ついお顔に見とれていて」
と調子を合わせた。
「あら嫌だ、この子正直すぎて、私困っちゃう」
結衣はこいつら何やっているんだという顔でこちらを見ている。レイナは、何が起きているのか理解できていないようで不思議そうにしている。アリシアは半笑いしながら、この状況を様子見と言った感じだ。
「で、やっぱり、その、奥の検問部屋に行かなきゃ駄目ですかね?」
「しようがないわね」
隊長は海斗の耳元に小声で
「後で、個人的に会ってくれるなら、ゆ、る、し、て、あげちゃう」
と言って海斗の手を握り、海斗の耳に息を吹きかけてきた。海斗は思わず鳥肌が立ったが、我慢して
「わかりました、その線でお願いします」
と従順を装った。
隊長は急いでポケットからペンと手帳を取り出し、ペンを走らせると、手帳から書いたページを破って、海斗に渡した。そして、やはり海斗の耳元に近づき声をひそめて
「ここで会いましょうね、私のお、う、じ、さ、ま」
とささやいた。隊長は唇を舌で舐めながら、
「私、こう見えて、夜は激しい方なのよ」
と、海斗の体のラインをまるで『今夜の獲物』として品定めするような目つきで見てきた。海斗は、いやらしい視線を感じながらも愛想笑いぐらいしかできなかった。
そして隊長は
「この者たちに不審な点はなし。次の人を検問しちゃってちょうだい」
と部下に向かって命令した。
先程の兵士は、
「隊長、本当にそれでいいんですか? 後で本当は賞金首だったのに、見逃したってことがわかったら、教会からのクレームが軍の上層部にいって我々は大目玉を食いますよ?」
と心配そうに言った。
「いいの、いちいち疑っていたら、一日あったって、これだけの入国希望者の行列、さばききれないわ。私がいいって言っているから、いいの!」
先程の兵士は、
「隊長がそれでいいと言うなら、我々も従いますけどね」
と少々不満そうだ。
海斗たちは、隊長の気が変わらないうちに、こっそりと検問所を通過した。
それにしてもどうして、男なのに俺のチャームのスキルは通用したのだろうか。ひょっとしてオカマ、いや心が乙女だったから効いたのか? 海斗はこの現象を考察し始めた。が、オカマの隊長から手を握られ、耳に息を吹きかけられたことを無意識のうちに思い出してしまい、ゾッとした。そして、気持ち悪いからこれ以上考えるのはやめようと決めた。
検問所からある程度離れてから、アリシアは半笑いで
「それでダーリン、あの隊長とはいつ会う約束をしたんだ?」
と意地悪っぽく聞いてきた。
「そんなもん、会うわけないだろ!」
海斗は手にしていた紙を丸めて捨てると
「チャームのスキルの効力がなくなるまでの、この一週間、俺は必ず逃げ切ってみせる!」
と言うと、アリシアたちを置いて街道を地平線に向かって――独り全速力で走り去っていった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
関所での『最悪の邂逅』は、まさかの方向から海斗を襲いました。 命の危険ではなく、貞操の危機──人生最初の相手がオカマになるところだった海斗にとっては、こちらの方が深いトラウマになりかねない状況だったかもしれたません……(笑)。
次回からは、再度エリザベスが登場し、いよいよエルシオン王国での物語が本格的に動き始めます。
引き続き第三章をお楽しみいただければ幸いです。




