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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第三章 エルシオン王国の巫女・エリザベス

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新たな啓示

 少年が呪文を唱えて剣を天に掲げると、少年の体は光り、強風が吹き荒れ、空間にひびが入る。空間のひび割れは大きくなり、やがて暗黒の巨大な穴が空く。そして、その穴に近くの人も馬も建物のがれきも吸い込まれていく――そして、その少年の顔は……。その顔を、私は知っている……


                 *


 巫女のエリザベスは、最近神託を授かる度に同じ悪夢のようなビジョンを見ている。彼女は思わず目を見開くと、いつものように体中に冷や汗をかいていることに気がついた。


 エルシオン王国の神殿から、王族でもあるエリザベス・ヴァレリアは、セレスティア宮殿に足早に戻ってきた。エリザベスは、侍女のセリーナに

「至急、アンナベルお姉様を呼んできてください! たとえ職務中であったとしてもです! エリザベスがお伝えしたいことがあると」

と命じた。

 主人の使いを果たすべく、足早に離れていくセリーナの背中を見ながら、お姉様は私が授かった神託のことを本当に信じてくれるだろうかと不安に思った。しかし、ことの重大性を考えると、王族そして巫女として見て見ぬふりはできない、と思った。


「エリザベス、一体なに用だ! 近衛隊の訓練中だったんだぞ!」

 王族でありながら近衛隊隊長でもある、甲冑姿のアンナベル・ヴァレリアはエリザベスの部屋の扉を開けると開口一番、苦情を言い始めた。それだけ、この姉妹は本音で話し合える仲なのだ。アンナベルとエリザベスは、王の妾腹の娘同士で、王位継承権は十番目と十一番目。だが、二人はその立場に甘んじることなく、それぞれ近衛隊隊長と巫女として自立の道を選んだ。彼女らは異母姉妹ながら、幼い頃からウマが合っていた。

「アンナベルお姉様、申し訳ございません。しかし、父上、いえ王に正式にご報告する前に相談できるのは、お姉様しかいないのです」

 フードのついた純白のローブに、ローレンシア教の紋章であるオリーブの葉を咥えた鳩をモチーフにしたブローチを付けた巫女姿のエリザベスは、銀髪が露わになっている頭を深々と垂れた。

 アンナベルは少し困った顔をしたが苦笑いをして

「うーん、そう言われたら、相談にのらざるを得ないな。一体何があった?」

と言いながら、テーブルを挟んでエリザベスの対面の椅子に座った。テーブルや椅子にほこり一つ落ちていないのは、潔癖で神経質なエリザベスの性格を表している。

「神殿で、以前の神託に続く新たな啓示を授かりました」

「新たな啓示?」

 アンナベルは少し神妙な顔つきになった。これまでエリザベスの神託は、神託を基に未然に防いだ場合を除いて、ほぼ間違いなく当たってきた実績があるからだ。

「そうです。エルシオン王国、場合によってはこの世界全体に影響を与えかねない、重大な神託です」

「それで、その神託の内容は?」

「はい、あくまでビジョンとして見えてきたのですが、ある少年が呪文を唱えると彼の体が光り空間に穴が空き、今まで私が見たことがない建物がそびえる世界に通じるトンネルができて……」

「また、あの少年が呪文を唱えて空間を裂く神託か?」

 アンナベルの言葉に、エリザベスは頷いた。

「ええ。ただ今回は、異世界側にも同様の被害が出ることが見えました。町一つが消えるほどの規模です。そして、それはトンネルが完成されるまで続くこともわかりました」

 アンナベルは、軽くため息をつくと

「でも、隠密行動を取って、その少年を探しに行ったが、結局そんな膨大な魔力を持った少年には出会わなかったのだろう?」

と、もうその話は聞き飽きたと態度で言った。が、エリザベスは少し語気を強めて

「しかし、今回はさらに重要な情報があります」

と言った。

「その男の容貌ですが、実は教会から手配書を出されている、この少年にそっくりなのです」

 そう言うとエリザベスはKaitoの似顔絵が描いてある手配書をアンナベルに手渡した。

「この少年だろう……魔王討伐軍を率いた勇者に容貌がそっくりだと噂のローレンシア教の宗教異端者とか言うのは」

「はい、そうです――そして、私は彼に会ったことがあります」

「ふむ……。だが、会ったというなら、そんな大それた魔力を持っていない、と言うことになるな?」

 エリザベスは少し困った顔をして

「それが、今回の神託における最大の矛盾です。魔力の乏しい彼が、なぜ……」

とため息をついた。アンナベルは

「うーん、どちらも間違いがないというのなら、他人のそら似か、そのKaitoがこれからレベルアップして、そのような大それた魔力を持つ、ということになるんだろうな」

と、見解を述べた。

「そうですね――確かに他人のそら似の可能性はあるかもしれません。しかし、これから成長して魔力を上げる可能性もないわけではありません。私がKaitoと会ったとき、彼は剣士見習いのような立場で、魔法の教育を受けた形跡はありませんでした。なぜかというと、初級の攻撃魔法でも使えていたなら、もっと効率よく戦えていた場面だったからです」

「どちらの可能性もありか……。それで、どうする?」

「この矛盾を解くには、彼に再び会うしかない、と思っています」

 エリザベスは静かに、しかし確固たる決意を胸に刻んだ――果たして、Kaitoに会った時、彼に魔力の成長が見て取れた場合、どうするべきなのか。その答えだけが未解決のままで。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 物語はいよいよ新章へ突入しました。


 冒頭の不穏なビジョン、そして巫女エリザベスと Kaito(海斗)とのファーストコンタクト。

 魔力の乏しいはずの彼が、なぜ世界を揺るがす光景の中心にいるのか──

 その矛盾は、これからの旅の中で明らかになっていきます。


 第二章の賑やかな雰囲気から一転し、第三章では物語の核心が動き始めます。


 海斗たちのえん罪を雪ぐ旅路と、エリザベスの使命が交差するとき、一体何が起きるのか。 


 引き続き、毎日20時更新でお届けできるよう努力しますので、第三章もどうぞお楽しみください。


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