レイナの加入
「つまり……アリシアさんも、私も……あなたのスキルで好きになったってことなの!?」
とレイナは声を張りあげた。
「まあ、あり体に言うとそういうことになる」
「もう最低! あなた、女の敵よ!」
レイナのヒートアップは止まらない。
「この際だ、批判は全て受け入れよう。ただ先程言ったように、このスキルには期限がある。俺の顔を見なければ、気持ちも記憶も消える。期限付きのスキルなんだ。後は君の判断に任せる。俺のことを忘れるためにエルダー村に帰るもよし、俺たちのパーティに入るもよしだ」
結衣は険しい表情をすると語気を強めて言った。
「ちょっと、海斗……、いやカイル、私はレイナがパーティに入ること、認めてないわよ!」
するとレイナは、
「ふーん、カイル、あなた私にまだ秘密にしていることあるんじゃないの?」
とすました顔で尋ねた。
「一体何を隠していると?」
海斗はしらばくれた。
レイナは単刀直入に言った。
「あなたたち、例の賞金首でしょう?」
海斗も結衣も顔色が変わった。結衣に至っては、完全にダガーの柄を握って鞘から抜こうとしている。
「どうしてそれを?」
「私、森でのカイルとの戦闘中にカイルの仮面が半透明になって、カイルの顔、見ちゃったんだ。エルダー村でもそう」
やはり戦闘中も村でも、痴漢呼ばわりされたときの強い感情、つまり驚きと恐怖によって仮面が半透明になったのであろう。それが自分と仮面の限界なのだと、海斗は苦々しく思った。
「もしかしたら、他人のそら似かもと思っていたけど、今朝カイルたちをつけてきたら、刺客に襲われているじゃない。冒険者は普通、金にならない殺しはしないって言うし」
レイナの推察は冷静で、筋が通っていた。
「最後にそこの女性が口走った『海斗』で確信がもてたわ。間違いなく賞金首・Kaitoだってね」
結衣は思わず右手で口を隠した。が、次の瞬間ダガーを鞘から完全に抜いた。
海斗は手で結衣を制しながら
「わかった。君の言うとおり、俺とユリッサいや結衣は教会から追われている賞金首だ。どうする? 教会に俺たちのことを話すのか?」
と覚悟を決めたかのように尋ねた。
レイナは涙を目にためながら
「それができるのなら、こんなに悩んでいないわよ……」
と悲しそうに言った。
それは俺のことをまだ愛しているということだろうか。今までレイナに出会ってからトラブルだらけで、正直結婚させられそうになったときは『暴走娘』だと思ったが、今は少し不憫に思えてきた。でも、そもそも俺がレイナにチャームのスキルを使わなければ、レイナが今のような葛藤を抱えることはなかったんだろうな。
「カイル、いや海斗、あなたたちがどこに行くのか知らないけれど、私を連れて行って……」
「本当にそれでいいのか? 司祭であるお父さんや教会を裏切ることになるぞ?」
「だって、しょうがないじゃない。私、海斗のこと愛しているんだもん!」
「ダーリン、レイナをパーティに入れてやれよ。同じダーリンを好きな仲間としてさ、話を聞いていて切なくなってきたよ」
とアリシアも助け船を出した。
海斗は結衣に向かって
「結衣もそれでいいか?」
と確認を取った。
結衣は、
「仕方ないわ。もう私たちの正体を知っているんだから。ここで置いていったら、それこそ教会に密告されるわ」
とダガーを鞘に収めながら、しぶしぶ承諾した。
「わかった。それじゃあレイナ、一緒に行こう」
と言って海斗はレイナに手を伸ばした。
「うん」
レイナは涙を人差し指で拭いながら、海斗の手を取った。
「で、カイルいや海斗は、本名は何て言うの?」
「高橋海斗って言うんだ」
「ふーん」
レイナは意味ありげな声を出した。
「ひょっとして、だけど」
「何だよ」
「海斗って、魔王を倒した勇者様のなれの果てなの?」
また、魔王を倒した勇者の話か。アリシアも言っていたけど、やはり同姓同名の勇者っていたんだな。しかも、ガレアの老人によると、背格好や雰囲気まで俺に似ているらしい。
「いや、違う。単に同姓同名なだけだ」
海斗の言葉を聞いたレイナは、少し意地悪そうに笑いながら
「……でしょうね。海斗は、さっきの戦闘を見るからに、まだ弱っちいもんね」
と言った。
「悪かったな、弱っちくて」
と海斗はふてくされながら、答えた。
レイナは
「ところで、あなたたち、これからどこに行くつもりなの?」
と尋ねてきた。海斗はこれまでの経緯と目的地を説明した。
「ふーん、教皇様に会って、無実であることを弁明しに行く、ということなのね。それにしても、宗教異端者と間違われそうなことに、本当に心当たりないの?」
海斗は間髪容れずに「ない」と答えた。
「……わかったわ。あなたたちが無罪というのなら、私が海斗たちに付いていっても教会やお父さんに対して裏切ったことにならないわよね?」
「少なくとも、俺らの弁明が認められれば、そういうことになるだろう」
すると、アリシアが会話をさえぎった。
「お取り込み中悪いんだけれど、ダーリン。先程の刺客を全員しとめきれなかったんだ。もしかしたら、仲間を引き連れて再度襲撃にくるかもしれない。早くエルシオン王国に入国した方がいい」
「わかった。詳しい話は後だ。まずはエルシオン王国に入国するぞ、皆!」
レイナが加わった海斗のパーティは向かい風を受けながら、エルシオン王国の関所を目指して歩き始めた。
しかし、海斗は知るよしもなかった。エルシオン王国の関所で、彼の貞操を揺るがす『最悪の邂逅』が待っていることを。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
第二章は、痴漢疑惑に始まり、レイナの婚約宣言、刺客との死闘、そして『二股疑惑』からの正体バレと、もはや恒例となった感もある(?)海斗の不幸なイベントが続く章でした。
最後はレイナがパーティ加入という形で幕を閉じましたが、刺客よりもレイナとの愛憎劇の方に、海斗は精神的ダメージを受けていた気がします。
そして次回からはいよいよ第三章・エリザベス編。
第一章で「今回のことはリサリアの献身に免じて見逃すだけです。
次会ったときはどうなるか、わかりませんよ、カイル」と言い残した彼女との再会は、果たしてどのようなものになるのか。
さらに、関所で待ち受ける『最悪の邂逅』とは一体何なのか。
次回もぜひお楽しみください。




