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肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


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第54章 闇の激突

挿絵(By みてみん)

 秋の気配が、わずかに混じり始めていた。

 風は涼しい。だが、空気は重い。

 大村城。

 信安が帳面を閉じる。

「……いつものように進みません。」

 短い。

 空海が徳利を傾ける。

「珍しい。」

 龍重は何も言わない。

 机の上には、毛利の名。

 動かぬ。

「流れに割り込めぬか。」

 信安。

「はい。」

 一拍。

「商いは通りますが、奥に入ることに難儀。」

 空海。

「弾かれておりますな。」

 龍重は小さく頷く。

「新参者には厳しいのぉ。」

 短い。


 安芸。

 静か。

 だが、張り詰めている。

 地空が座している。

 向かいには、小早川隆景。

 笑っている。

 だが、目は笑っていない。

「面白い話をなさる。」

 隆景。

「そちらこそ。」

 地空。

 沈黙。

 茶が冷める。

「銭だけで人は動きませぬ。」

 隆景が言う。

「動くじゃろ。」

 地空が返す。

「ですが。」

 一拍。

「その場限りのつながりかと、地空阿闍梨。」

 静寂。

 隆景。

「人は、人のつながりで動く。」

 短い。

 地空が笑う。

「動かされる、ではないのかね。」

 一拍。

「そういうものじゃないんですか。」

 隆景は目を細める。

「……やれやれ、食えぬ御仁で。」

 地空は徳利もないのに、酒を飲むような仕草をした。

「あなたほどではありませんよ、阿闍梨。」

 沈黙。

 別れ際、館をふり返りながら地空が呟く。

「……あやつ、年を偽った人外化生の類じゃな。」

 誰にともなく。


 大村城。

 報が戻る。

 信安。

「難航。」

 空海。

「でしょうな。小早川隆景、軽薄と評されながらも智謀は父譲りでしょう。」

 龍重。

「分かっておる。一代で中国地方の大大名。我らはその足跡を辿っておるようなものじゃ。」

 短い。

 一拍。

「人のつながり。」

 紙を叩く。

「ここが切れぬ」

 毛利の領。

 交易はある。

 だが、深く入れない。

 顔があり、関係があり、それらが積み重なっている。

「……入れぬな。」

 商人が言う。

「銭はあり、流れる。」

「だが、落ち着ける場がない。」

 沈黙。


 一通の文が届く。

 差出人は河野家に嫁いだ梨香。

 龍重は目を通す。

 止まる。

 一拍。

「……あやつ、平凡と思わせておったな。」

 短く苦笑。

 信安が覗く。

「河野家が……。」

 空海が笑う。

「面白い。」


 伊予国。

 海は荒いが、知り尽くされている。

 村上の船、河野の旗。

 並ぶ。

「繋いでやるか。」

 誰かが言う。

「あの嫁御様のためにも繋ぐしかあるまい。」

 短い。

 文にはこうあった。

「村上水軍は、日野を支える。」

 それだけ。

 だが、十分。


 大村城。

 信安。

「これで人の輪に割り込めますな。」

 空海。

「交易が深く開きますな。」

 龍重。

「大変結構なお話しさね。」

 短い。

「通すところは通し、流せるところに流す。」

 一拍。

「選べる立場に上がれた。」

 沈黙。

 変わる。


 毛利の商人が気づく。

「……変わったな。」

 短い。

「何が。」

 答えは出ない。だが、

「入ってきておる。」

 今度は、止まらない。人を通じて入る。

 縁に沿って流れる。無理をしないが、消えない。


 隆景が報を受ける。

「……河野家。」

 短い。

 元就は目を閉じる。

「見事なり。」

 一拍。

「噛み合った。」

 沈黙。

「銭と人が。」

 短い。


 薩摩国。義久が報を聞く。

「河野家、動く。」

 短い。

 家久。

「大変ですな。」

 歳久。

「より切れなくなりそうですな。」

 義久は首を振る。

「そうだな。」

 一拍。

「幾重にも繋がっておる。」

 沈黙。

「……日野は。」

 言葉が止まる。

「叩きどころがより見えなくなった。」

 短い。


 北九州。

 静か。

 秋月家も蒲池家も動かない。いや、動けない。

「……従ったか。」

 誰もが言う。答えはないが現実。


 龍造寺家はもはや形だけの存在。実は空。

 伊万里のただの代官。


 南、島津。

 強いが。

「……詰まっておる。」

 家久が言う。

 肥後は支配下。だが、阿蘇との軋轢で動けぬ。

 日向国は消えぬ伊東の影が濃く残る。

「拭いきれぬ。」

 短い。

 歳久。

「ほんにしつこい。」

 義久。

「……誰かが影に流しておる。」

 沈黙。

 名は出ない。

 だが、分かっている。


 大村城。

 龍重は外を見る。

 流れは続いている。

 止まらず、整う。

 だが、

「……激しくぶつかっている。」

 短い。

 空海。

「見えず、聞こえず、ですがね。」

 龍重。

「闇夜で静かに、かね。」

 一拍。

「五十一を掴めるか。」

 沈黙。

 信安。

「毛利。」

 空海。

「島津。」

 龍重。

「全部じゃ」

 短い。

 光も流れも整った。

 だが、その裏で見えぬものが動く。

 龍重が呟く。

「……さて」

 一拍。

「誰が、先に噛むか」

 風が吹く。

 静か。


 だが。

 確実に、何かがぶつかろうとしていた。


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