表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/61

第50章 内政と外交

この物語は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。

挿絵(By みてみん)

 長崎の朝は、以前より静かだった。

 喧騒はある。人も多い。荷も積まれている。だが、漫然と、精彩さに欠ける。

 値は決まり帳面も整い、体裁は見れたもの。それでも、実働に僅かな間。

 その「間」が、全体を重くしていた。

「……どうも引っかかるな。」

 米を扱う商人が呟く。

「決まりはある。漫然としている。」

「ああ、例の『お役所仕事』ってやつだな。」

 別の商人が答える。

 争いではない。混乱でもない。むしろ整いすぎている。それが、止まりを生んでいた。


 大村城。

 信安は帳面を見ながら言う。

「民まで流れてはいます。」

 一拍。

「ですが、細く、淀みがちですな。」

 空海が徳利を傾ける。

「詰まる直前。」

 信安。

「詰まれば、一気に濁流となり、無秩序に押し流すでしょう。」

 龍重は黙っていたが、やがて言った。

「どこで止まる。」

 信安は迷わず答える。

「民の間、我らの間は順調。となると……。」

 一拍。

「上は決める。下は動く」

 空海が続ける。

「中間に迷い。」

 信安。

「責任と権限が曖昧」

 龍重は立ち上がった。

「見に行ってみるか。」

 港に出る。

 荷はある。人もいる。だが、動きは鈍い。

 龍重は代官を呼ぶ。

「なぜ止まる」

 代官は頭を下げた。

「老頭の方針を受けた奉行の指示を待っております。」

 空海が横で笑う。

「綺麗に止まっておりますな。」

 龍重。

「で、動かぬ。」

 沈黙。

 信安が言う。

「責任が重なり、権限が曖昧。」

 一拍。

「判断の根拠がありませぬ。」

 龍重は荷の山を見た。

「……根拠が途切れとるの。」

 そして言う。

「ここで決めろ」

 代官が一瞬止まる。

「どの範囲まで。」

「代官が必要と思う範囲。」

 空海が補足する。

「範囲を越えたら奉行に上げろ。」

 代官は深く頷いた。

「承知」

 その瞬間、流れが変わる。

 遅い。だが、確かに動き出す。

 荷が運ばれ、声が通る。

 信安が静かに言う。

「責任と権限を持たせれば動きます。」

 龍重。

「誰の責任か曖昧なのがあかんじゃろう。」


 城に戻る。

 帳面が広げられる。

 信安。

「代官の裁量を明確にします」

 龍重。

「限定権限。」

 空海。

「権限を越えたら上奏。」

 信安。

「下は範囲内で任せる。」

 龍重。

「そうじゃ」

 一拍。

「代官を増やす。町でなく人の数に応じてな。」

 空海が眉を上げる。

「かなり増えそうですな。」

「増やさぬと足りぬ、届かぬ。」

 信安。

「質は。」

 龍重は首を振る。

 一拍。

「揃うようにする」。

 空海が笑う。

「制度で、ですな」

 龍重。

「他にない。」


 数日後。

 村では村役が立ち、市では市役が帳面を握る。

「ここからは、こちらで決める。」

 不安はある。だが、止まりは減る。

 流れは細い。だが、切れない。


 その夜。

 信安が言う。

「まともに流れ始めました。」

 空海。

「流れは緩やかですがな。」

 龍重。

「それでよい」

 一拍。

「急流は押し流し壊す。緩やかでも流れれば止まることはない。」

 その時、足音。

 文が差し出される。

「毛利より」

 空気が変わる。

 信安が受け取り、開く。

 視線が止まる。

 空海が覗く。眉を顰める。

 龍重に渡す。

 龍重は読む。

 短い一行。

「茶を一服」

 それだけ。

 沈黙。

 空海が頭を掻きながら。

「……圧が強すぎますな。」

 信安もこめかみを押さえながら。

「どこまで見ているものやら。」

 龍重は書状を閉じた。

「確認され、読まれておる。」

 空海が腕を組む。

「行きますか。」

「行くさね。」

 即答。

「だが。」

 笑みを浮かべて。

「こちらで会う時期は誘導させてもらうさ。」

 信安。

「こちらとあちらの返信時期を考えて……適切な時期が……。」

 空海。

「向こうは待ちきれぬでしょうなぁ。」

 龍重。

「だから焦らすさね。」

 沈黙。

 信安。

「測られますな」

 龍重。

「既に測られておる。」

 数日で返書が整う。

 文は簡素。だが、間がある。

 信安が確認する。

「遅すぎず。」

 空海。

「早すぎず。」

 龍重。

「これでよい。」


 長崎。

 流れはまだ細い。

 だが、止まらない。

 決断が現場に生まれている。

 迷いながら、動く。


 大村城、夜。

 龍重は外を見る。

 灯りが増えている。

 音が戻りつつある。

 だが、完全ではない。

「……外に出る。」

 空海。

「内は。」

 龍重。

「まだ弱い。」

 信安。

「間に合いますか。」

 龍重は少し考える。

「間に合わせる。」

 机の上に三つの紙。

 毛利、島津、大友。

 龍重はそれらを並べる。

 重ねる。

 完全には重ならない。

 だが、離れてもいない。

「……寄せる。」

 空海。

「寄りますかね。」

 龍重。

「寄せる。」

 信安。

「どうやって。」

 龍重。

「流れで。」

 一拍。

「他にない。」

 風が入る。

 紙が揺れる。

 だが、散らない。

 押さえられている。

 龍重は筆を取る。

 ゆっくりと書く。

「動かす。」

 一拍。

「任せる」

 そして。

「見切る」

 筆を置く。

 静寂。

 その時、外から声。

「使者、到着」

 龍重は振り返らない。

「入れよ」

 短い。

 扉が開く。

 新しい流れが、入ってくる。

 夜は深い。

 だが、止まってはいない。

 内も外も。

 同時に、動き始めていた。


 安芸。吉田郡山城。

 庭は静かだった。風も弱く、枝の揺れも小さい。その静けさの中で、一人が座していた。

 毛利元就。前に置かれた文を、まだ開いていない。側には、嫡男毛利隆元、次男で吉川家に養子に入った元春、三男の小早川家養子となった隆景が控えている。

 誰も口を開かない。

 元就が、ゆっくりと封を切る。

 紙を開く。

 目を通す。

 それだけで、十分だった。

「……ほう。」

 短い声。

 隆元が問う。

「いかに。」

 元就は文を机に置いた。

「急がぬ。」

 一拍。

「だが、遅すぎぬ。」

 隆景が目を細める。

「間を取っておりますな。」

 元春が笑う。

「小賢しい。」

 元就は首を振る。

「違う。」

 一拍。

「分かっておる。」

 静寂。

 隆元が言う。

「何を、でございますか。」

 元就は庭を見る。

「こちらを。」

 短い。

 風が、わずかに枝を揺らす。

「……見ておる。」

 その言葉に、三人は黙る。

 元就は文を指で軽く押さえた。

「軽くない。」

 隆景。

「はい。」

 元春。

「ならば叩きますか。」

 元就は首を振る。

「叩けど響かず。」

 一拍。

「崩れず。」

 隆元が静かに言う。

「では。」

 元就。

「測る。」

 短い。

 隆景が問う。

「どこまで。」

 元就。

「どこまで、持つか。」

 一拍。

「人か、形か。」

 元春が腕を組む。

「妙な相手ですな。」

 元就。

「妙ではない。」

 少し間を置く。

「新しいだけじゃ。」

 隆元が文を見た。

「茶、にございますか。」

 元就。

「茶じゃ」

 一拍。

「だが茶ではない」

 隆景が笑う。

「場、でございますな。」

 元就は頷いた。

「そうじゃ。」

 元春。

「切る場ではない。」

 元就。

「繋ぐ場でもない。」

 一拍。

「見る場じゃ。」

 沈黙。

 風が少し強くなる。

 元就は空を見た。

「来るかな。」

 隆元。

「来るでしょう。」

 元春。

「来ねば終わりですな。」

 隆景。

「来ても、終わるやもしれませぬ。」

 元就は笑った。

「どちらでもよい。」

 一拍。

「来れば、分かる。」

 隆元が言う。

「人柄。」

 元就。

「器じゃな。」

 短い。

 元春が鼻で笑う。

「器で戦はできませぬ。」

 元就は視線を向けた。

「だからじゃ」

 一拍。

「戦にならぬようにする。」

 静寂。

 隆景が静かに頷く。

「日野は、戦を避けております。」

 元就。

「避けておるのではない。」

 少し間。

「変えておる。」

 その言葉で、空気が変わる。

 隆元。

「戦を、ですか。」

 元就。

「流れじゃ。」

 一拍。

「見えぬようにな。」

 元春が笑う。

「厄介ですな。」

 元就。

「曲者じゃ。だから見る。」

 短い。

 文をもう一度手に取る。

「……間を取る。」

 一拍。

「よく見ておる。」

 隆景。

「返しますか。」

 元就。

「返す。」

 一拍。

「同じだけの間でな。」

 隆元が頷く。

「合わせますか。」

 元就。

「合わせぬ。」

 短く否定する。

「ずらす。」

 静寂。

 元春。

「試し、ですな。」

 元就。

「そうじゃ。」

 一拍。

「試されておる故な。」

 風が吹く。

 庭の葉が揺れる。

 元就は文を置いた。

「急ぐ必要はない。」

 隆元。

「は」

 元春。

「は」

 隆景。

「は」

 元就は最後に言った。

「……面白いやつじゃ。」

 一拍。

「経久以来だ。」

 静かな笑みが浮かぶ。

 戦ではない。

 だが、確かに始まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ