第49章 制度の拡張
この物語は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。
大村城。夜は静かだった。だが、静けさの中に重さがあった。
机の上に積まれた帳面。龍重は筆を置いた。
「……指揮衆と常備傭兵衆の運用は上々。」
誰もすぐには答えない。空海は徳利を傾け、小さく息を吐いた。
「まぁ、合格点でしょうなぁ。」
一拍。
「で、目は届き、手が届かない、と。」
龍重の言葉に、空海は苦笑した。
「広がりすぎですな。」
横で紙を繰っていた信安が、視線を上げずに言う。
「背伸びどころじゃないですな。」
沈黙が落ちる。
遠く、港の方から微かな音が届く。止まってはいない。だが、流れているとも言い難い。
龍重は帳面を閉じた。
「……分けるか」
空海が眉を上げる。
「決裁権。」
「いや」
龍重は首を振る。
「責任分担制じゃな。」
信安の手が止まる。
「……合議ですかな。」
「最初はそうなる。」
空海が酒を飲み、軽く笑った。
「遅くなりますぞ。」
龍重は即答した。
「既に遅いさね。」
その言葉に、誰も反論しない。
「決裁者は増やす。」
龍重は続ける。
「だが、勝手は許さぬ。」
信安が静かに言った。
「七奉行から拡張ですな。」
龍重はわずかに笑う。
「七老にするかね。」
空海が呟く。
「殿が決めれなくなり面白くなくなりますな。」
龍重は淡々と返した。
「面白さで国は回るならとっくに回っとるわ。」
風が入り、紙がわずかに揺れる。
空海が、
「で、誰を七老頭に任命するんで。一歩間違えると謀反の濁流ですな。」
一瞬の沈黙。
「……今後の課題じゃな。人選を誤れば即崩壊じゃわ。」
外の音が、少しだけ強くなった。
龍重は顔を上げる。
「さて……対外方針じゃな。」
信安が一枚の紙を差し出す。
「三つ。」
空海が覗き込む。
「毛利、島津、大友」
龍重は頷いた。
「毛利は。」
一拍。
「勝てぬ。謀略に目を取られるが人のつながりが制度となっておる。そして、『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』の言葉。」
空海が即答する。
「一門衆の婿入りによる勢力拡大、殿より上手。こりゃ惨敗ですわ。」
信安も続ける。
「粛清という残虐の用い方も妙技。ここから崩すのも難儀。」
龍重は短く言った。
「ならば、戦を回避する。」
その言葉に迷いはない。
「回避策は。」
信安の問い。
龍重は少し考える間を置いた。
「流れに入れる。」
空海が笑う。
「またそれですか。」
「行けるならそれが良いじゃろう。」
龍重は淡々と答える。
「毛利は人で立つ」
信安が補足する。
「血縁、誓約、国人」
龍重。
「ならば流れに巻き込む。」
空海が目を細めた。
「噛み合いますかねぇ。」
龍重は頷く。
「奪えぬ。」
一拍。
「使ってもらいましょうかねぇ。」
信安が静かに言う。
「依存させますか。」
龍重は首を振る。
「違う。」
少し間。
「使っていただきましょう。」
その違いに、空気がわずかに変わる。
「主従に非ず。」
龍重の声は低い。
「並ぶ関係。」
誰も笑わない。
それがどれほど難しいか、全員が分かっている。
空海が呟いた。
「中国の妖怪と並び立つ、奇跡ですな。」
龍重は答えない。
沈黙のまま、別の紙を手に取る。
「島津は。」
空海がすぐに言う。
「強大。」
信安。
「重厚。」
龍重。
「勝っても負ける。」
三人の言葉が重なる。
空海が笑った。
「向こうも同じでしょうな。」
龍重は頷く。
一拍。
「ならば」
紙を置く。
「敵ではない」
その言葉は、静かに落ちた。
空海が徳利を止める。
「……連むと」
信安は即座に理解した。
「明確に同盟にはできぬ。」
龍重。
「左様。」
空海。
「裏口ですな。」
龍重。
「流れを分ける」
信安。
「領分を」
龍重。
「そうじゃ」
沈黙。
その時、風が止んだ。
場面が変わる。
薩摩国、内城。
義久は書付を見ていた。
「日野は、斬れぬ」
誰も動かない。
家久が言う。
「削れますがね。」
義久。
「削りきれない。」
一拍。
「ならば」
紙を置く。
「利用する。」
歳久が笑う。
「向こうも同じことを考えておるな。」
義久は答えない。
ただ、次の書付に目を落とす。
「四国」
短い。
「行くか」
場面が戻る。
大村城。
龍重は頷いた。
「島津は四国へ行く。」
空海。
「我らは大友へ。」
信安。
「崩しましょうか。」
龍重。
「崩すだけだと面白くないさね。」
一拍。
「大友の流れを乗っ取る。」
信安が紙を広げる。
「瀬戸内海の入口。」
龍重。
「そうじゃな。」
空海。
「壊すのではなく」
信安。
「上書きする」
龍重。
「段階じゃ」
指で三つの線を引く。
「物」
一つ。
「銭」
一つ。
「制度」
最後に引く。
「これで終わる。」
空海が笑う。
「戦はいりませんな。」
龍重。
「確認だけでよい。」
外で音がした。
誰かが走る音。
だが三人は動かない。
信安が静かに言う。
「問題は内側。」
龍重。
「分かっておる。」
空海。
「増えましたな。」
龍重。
「増やした。」
一拍。
「届かぬ。」
信安。
「崩れます。」
龍重。
「だから分ける」
空海。
「七つ。」
龍重。
「決める者を増やす」
信安。
「責任を持たせる」
空海。
「面白くはない」
龍重。
「だが長持ちはしそうじゃのぉ」
沈黙。
その時、外から足音。
明日香が入る。
「報告」
短い。
「不正が増えています」
龍重。
「原因は。」
「遅れ。」
一拍。
「目詰まりですな。」
信安が頷く。
「予想通りですな。」
明日香は続ける。
「上も見ますか。」
空海が笑う。
「怖いことを言う。」
龍重。
「……誰が見る」
明日香は答えない。
沈黙。
信安が言う。
「公開詮議同様、どこにも属さぬ者」
空海。
「そんな者、居らぬ。」
龍重。
「作るしかあるまい。」
一拍。
「新たな目を複数置く。」
明日香が頷いた。
「承知。」
空海が呟く。
「監察、ですな」
龍重。
「そうじゃ」
信安。
「上も下も見る」
龍重。
「全部、儂も含めて、じゃ」
風が戻る。
紙が揺れる。
空海が笑う。
「大国のようですな。」
龍重は少しだけ笑った。
「つまらなくもなる」
信安。
「人ではなくなります」
龍重。
「形になる」
一拍。
「それがよい」
明日香が下がる。
静寂。
龍重は立ち上がる。
外を見る。
灯りが増えている。
人も増えた。
音も増えた。
だが流れは細い。
「……三つ」
空海。
「毛利、島津、大友」
龍重。
「違う」
一拍。
「三つになる」
信安が顔を上げる。
「毛利を入れますか」
龍重。
「入れる」
空海。
「入るかどうかは別ですがな。」
龍重。
「入れさせる。」
信安。
「どうやって。」
龍重は答える。
「必要にする。」
沈黙。
空海がゆっくり笑う。
「怖い怖い。」
龍重。
「現実じゃ。」
一拍。
「戦は減る。」
信安。
「流れを読むのが難儀になります。」
空海。
「見えぬ戦場が増えますな。」
龍重。
「読み切るしかないじゃろうなぁ。」
風が吹く。
帳面の上に三つの円が描かれる。
まだ線は繋がらない。
だが、動いている。
龍重は筆を取る。
ゆっくりと書く。
「分ける」
一拍。
「流す」
そして最後に。
「繋ぐ」
筆を置く。
夜は深い。
だが、止まってはいない。
流れは、すでに変わっていた。




