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肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


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第48章 現実との戦い

この物語は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。

挿絵(By みてみん)

 大村城、夜。

 机上にあるのは地図ではない。帳面と、いくつもの書付。

 龍重は筆を置いた。

「……戦わぬ。」

 誰もすぐには反応しない。

 空海が徳利を傾けながら言う。

「島津と、ですか。」

 龍重は頷く。

「当面はの。」

 小河が紙を一枚差し出す。

「理由は明白です。」

 そこに引かれた線。

 日向から豊前へ伸びる細長い補給路。

「伸びすぎる。」

 小河の声は平坦。

 空海が続ける。

「その先は、我らの流れに乗るしかない。」

 龍重。

「島津がそれを良しとするかね。」

 間。

 空海、わずかに笑う。

「せぬでしょうな。」

 誇り。

 それだけで決まることがある。

 龍重は別の紙を開く。

 日向から海へ。

 豊後、さらに四国へ伸びる線。

「こちらはどうじゃ。」

 小河。

「自前で完結します。」

 空海。

「しかも、実入りが良い。」

 龍重。

「ならば。」

 一拍。

「そちらへ向かってもらおうかね。」

 命じてはいない。

 だが、答えは決まっている。

 選ばせる、それだけでよい。


 数日後、薩摩国内城、島津義久。

 報を聞き、黙る。

「……日野め。」

 誰も顔を上げない。

 示された道、豊後、そして四国。

 どちらも豊かかつ現実的。

 そして日野の補給に頼らない。

 義久は短く言う。

「良い。」

 それだけ。

 決まった。戦わない理由が、整った。


 肥前。

 龍重は書付を閉じる。

「これで、島津は南へ行く。」

 空海。

「大友へ、ですな。」

 小河。

「我らも同じです。」

 龍重。

「だが、やり方は違う。」

 空海。

「島津は斬る。」

 小河。

「我らは流す。」

 龍重。

「分ける。」

 短い。

「軍は任せる。流れは握る。」

 役割は明確。

 島津は軍、日野は流通。

 同じ敵、違う戦。

 空海が呟く。

「大友は、潰れるな。」

 龍重。

「時間の問題じゃ。」

 だが、小河が紙をめくる。

「問題は、こちらです。」

 別の帳面。

 常備傭兵の編成、訓練、費用。

「まだ、未熟。」

 龍重。

「分かっておる。」

 空海。

「多方面は持たぬ。」

 沈黙。

 島津は精強。包囲されても何とかする。

 だが日野は違う。流れは整えるが、包囲されると脆い。

 龍重。

「戦線が増える。」

 小河。

「各所で押されます。」

 空海。

「崩れはせぬが、削られる。」

 龍重は目を閉じる。

 一拍。

「ならば、人を増やす。」

 空海。

「兵だけでなく。」

 小河。

「指揮官ですな。」

 龍重、頷く。

「軍奉行直轄。」

 短い。

「指揮役衆を作る。」

 空気が変わる。

 これまで、戦は個の才で回っていた。

 重直、希実。かつては一典や紗耶香、龍朋も。

 限られた才覚だけでは足りない。

 小河が問う。

「質は揃いますか。」

 龍重。

「揃えぬ。」

 一拍。

「整える、制度で。」

 空海が笑う。

「また人材育成。」

 龍重。

「使えるようにする。」

 違いは小さい。だが決定的。

 小河。

「常備傭兵と合わせますか。」

 龍重。

「別に扱うと肝心な時に流れぬ。」

 兵も指揮も制度に。戦を仕組みに。

 空海が徳利を置く。

「ようやく、ですな。」

 龍重。

「遅いくらいじゃ。」

 外で風が鳴る。

 戦は始まっている。

 だが。

 まだ、斬り合いではない。

 流れは動き、人は配置され、戦場は選ばれる。

 龍重が静かに言う。

「現実に向き合うか。」

 誰も否定しない。

 ここから先は理ではなく、積み上げ。

 日野は、戦う準備を終えつつあった。


 山から降りてくる。それは、戦ではなかった。

 だが、軽くもなかった。

 大村城に報が一つ、積まれる。

 小河が紙を差し出す。

「獣害です。」

 龍重は目を通す。

 猪、鹿、狼。

 田を荒らし、柵を破り、人を傷つける。

「増えたな。」

 空海が肩を竦める。

「山を削れば、当然ですな。」

 人が入り、道が通り、山は退く。

 だが、消えはせず、押し出される、里へ。

 龍重は紙を置く。

「放置できぬ。」

 小河。

「軍を使いますか。」

 龍重。

「使う。」

 一拍。

「ついでに、ある程度整える。」

 空海の目が細くなる。

「指揮衆と、常備傭兵。」

 龍重、頷く。

「混ぜる。」

 それだけ。


 数日後。

 山で巻き狩り。

 広く囲い、狭め、追い込む。

 単純だが、難しい。

 初日。

「待て、そこは詰めすぎだ!」

「前に出ろ、逃げるぞ!」

 声がぶつかる。

 指揮が割れ、意図がずれる。

 常備傭兵は動くが、揃わない。

 指揮衆は見るが、遅れる。

 獣は抜ける。

「……逃したか。」

 空気が重い。

 空海が笑う。

「戦なら、死んでますな。」

 誰も否定しない。

 次の日。

 少し変わる。

 声が減り、動きが揃う。

 誰が速いか、誰が遅いか。

 見え始める。

 三日目。

 囲いが閉じ、逃げ道が消える。

 槍が出る。一瞬で終わる。

「……やるな。」

 誰かが呟く。別の誰かが頷く。

 互いを見る。敵ではない。

 まだ味方でもない。だが、分かる。使えるかどうか。それだけは。

 山の麓。

 明日香が静かに立つ。

 その後ろに目付。

 数名。

「どう。」

 短い。

「数名、不適。」

 それだけ返る。

 理由は言わない。必要もない。

 夜、小さな音。

 足を滑らせる、獣に突かれる、落ちる。

 事故。誰も騒がない。

 朝、数が減っている。

「……不幸だな。」

 龍重は報を受け、言う。

 一拍。

「流れとは言え、不幸である。」

 それ以上は言わない。

 誰も問わない。必要がない。

 山は静かになる。

 獣は減り、道は通る。

 人も、減る。

 だが、残った者は、揃う。

 動きが揃い、声が揃い、意図が揃う。

 戦ではないが、戦に近づく。

 一部、動きが鈍かったり、指揮に異議を唱える者がいるが想定の範囲内。

 龍重は空を見る。

「……まだ足りぬな。」

 空海。

「足りることはありませんな。」

 小河。

「ですが、形にはなってきました。」

 龍重、頷く。

 ゆっくりと、確実に。

 日野は進む、流れの上を。


 山は静まった。

 だが、人は残る。

 大村城、龍重の政務室には報が積まれる。

 獣害の減少。巻き狩りの成果。

 そして、別の紙。

 小河が差し出す。

「もう一つ、ございます。」

 龍重。

「言え。」

「指揮衆。」

 一拍。

「治安も担わせます。」

 空海が徳利を止める。

「……戦だけではない、と。」

 小河、頷く。

「村、街道、市。」

「流れを整える役目です。」

 龍重は考えない。

「当然じゃな。」

 短い。

 戦で動かすだけでは足りぬ。

 維持せねばならぬ、流れを。

 空海が言う。

「だが、それは。」

 一瞬。

「傭兵の方が得意ですな。」

 沈黙。

 誰も否定しない。

 常備傭兵。

 各地の荒れを知り、争いを抑え、場を収めてきた者たち。

 戦よりもその手前、人と人の間。そこを扱う。

 龍重。

「ならば。」

 一拍。

「学べばよい。」

 小河。

「指揮衆が。」

 龍重。

「そうじゃ。」

 空海が笑う。

「上下が逆ですな。」

 龍重。

「逆ではない。」

 短い。

「役が違うだけじゃ。」

 空気が止まる。

 小河が静かに言う。

「適性、ですな。」

 龍重、頷く。

「得手で立て。」

 それだけ。


 数日後、とある村で軽い揉め事。

 指揮衆が入るが、遅い。

 言葉が固い。人が動かぬ。

 傍らの傭兵が一歩出る。

「おい、そこまでだ。」

 声が低い。だが、通る。

 空気が変わり、人が止まる。

 それだけで収まる。

 指揮衆が見て学ぶ。

 力だけではない。間、距離、声、目。

 それで場を押さえる。

 夜、火の周り。

 傭兵が言う。

「戦はある意味簡単だ。」

 一拍。

「終わるからな。」

 指揮衆は黙る。

 続く。

「だが、終わらねぇのは苦しい。」

 誰も笑わない。

 ある日の村落では夫婦喧嘩の仲裁にも入るが、

「馬鹿野郎!」

 旦那に湯飲みを投げつけられ、負傷する事例なども散見される。

「戦以上に想定できぬこともある。」

 ある指揮衆が日報に書く。

 理解する。戦の先にあるものを。

 日が経ち、動きが変わる。

 指揮衆が前に出る。

 だが、押しすぎない。傭兵が支える。

 場が崩れず、流れる。


 大村城。

 報を受け、龍重は言う。

「流れが整ってきた。」

 空海。

「濁りが収まった程度ですがね。」

 小河。

「ですが、新たな濁りは少ない。」

 龍重。

「上下を決めぬからじゃ。」

 短い。

 力で押せば、歪む。

 役で分ければ、流れる。

 それだけ。


 龍重はふと、視線を落とす。

 一枚の紙、書きかけ。

 戦の図でも配置でもない。

 ただの線。人が動き、場が整い、争いが収まる。

 その流れ。

 龍重が呟く。

「……いつの日か。」

 誰も聞かない。

「戦が要らぬ世になれば。」

 一拍。

「このまま使えるかもしれぬの。」

 夢想、だが捨ててはいない。

 空海が笑う。

「その頃には、酒も安くなっているといいですな。」

 龍重。

「それは重要じゃ。」

 小河が苦笑する。

 戦は続く。だが、少しだけ先が見えている。


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