第43章 日野家動乱③
この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。
均衡は、続いていた。崩れていない。だが、動いている。
永谷一典。手を打つ。
「銭が通らぬなら、物で回す。」
短い。
嬉野。布告が出る。
米、野菜、武具、秣。それぞれを持ち寄る。その場で交換する。
古い。だが自然。
「元々そうしていた。」
誰かが言う。頷きが返る。
銭が無ければ物でいい。それで回る。
理屈は通る。
当初は回る。
米と塩。野菜と布。武具と馬草。成立する。
「悪くない。」
声が出る。
永谷。頷く。
「これでいい。」
動かない。だが回る。
そのはずだった。
日が経つ。
少しずつ。ずれる。
「これはいくつ分だ。」
誰かが問う。答えが揺れる。
昨日と違う、場所で違う、人で違う。
同じ米でも、重さが違う、質が違う。
野菜も、日持ちが違う。
武具は価値が定まらない。
秣、季節で変わる。
「多い。」
「少ない。」
声が増える。
誰も決められない。
銭がない。
基準がない。
価値が見えない。物価が視えない。
「これでいいのか。」
誰かが言う。
答えはない。
少しずつ、濁る。
取引が遅れ、迷い、疑う。
「損をしていないか。」
互いに一つ止まる。また一つ。
流れが緩む。やがて、詰まる、溜まる、動かない。
嬉野。
静か。だが違う。流れていない。
永谷を見る。変わらない顔。
「……。」
言わない、分かっている。
だが崩れてはいない。
まだ、兵は動く。人もいる。
だが、鈍く重い。
一方、日野領。
銭は流れ、信用は残る。
明日香。
帳面をめくる。
「差が出ています。」
高次。線を見る。
「流れが淀んでいる。」
短い。
空海。目を細める。
「見えなくなった。」
価値が。
龍重が頷く。
「暗闇で無暗に動けるかねぇ。」
それだけ。
小河、笑う。
「転ぶのが目に見えますな。」
短い。
龍重。わずかに笑う。
「止まる。」
間。
「止まれば、終わる。」
だが、すぐには終わらない。
嬉野はまだ立っている。
永谷は動かず。だが、見ている。
濁りを、止まりかけた流れを。
そして、笑う。小さく、不敵に。
龍重、空海、小河。同じく笑う。
崩れかけている。
だが、まだ倒れていない。
だから、次がある。
均衡は、まだ続いている。
濁りは残る。だが、崩れない。
嬉野には不満はある。
「損をしている。」
「昨日より悪い。」
声は出る。だが小さい。押さえ込まれる。
敵がいる。日野。外にある。分かりやすい。
「今は耐えろ。」
誰かが言う。
頷く、崩れない。まとまる。
それで持つ。
だが、別の問題。
将兵は持つ。蓄えが多少はある。
だが、民に糧は静かに削られる。
目立たないが確実に。
米、野菜、秣が少しずつ減る。
「足りているか。」
誰かが問う。
「足りている。」
返る。
今はまだ。
だが、余りが消える。備えが薄くなる。流れが止まれば、補えない。
永谷、分かっている。
「……そこか。」
短い。
永谷の打つ手は限られる。
外は閉じている。内で回すしかない。
その内が減っていく。
一方、日野は止まらない。
光輝。
帳面を見る。
桜岡、にこやかに線を引く。
「ここから。」
短い。
龍重が頷く。
「抜く。」
誰も迷わない。
商人たちが動く。
中小、新興。これらは軽く速く、目立たない。
村へ入る。
「買うよ。」
それだけ。
見せ値を出す。相場より一割五分高。
誰も拒まない。
「今売るか。」
迷うが売る。銭が見える。価値が見える。安心がある。
一度、二度。続く。
余剰が消える。
残りは必要分。それも、揺れる。
「少しなら。」
売る、また売る。
村は軽くなる。はきと見えない。だが確実に減る。
徴発が来る。
「出せ。」
出せない。あるはずのものがない。
「どうした。」
答えられない。
知らない、いつの間にか消えている。
嬉野は静かに歪む。表は同じ。裏が違う。
兵は食う。必要。食えなくなったら離れる。
減る。少しずつ、少しずつ。
永谷は見る。
変わらない顔。
だが分かる。
「削られている。」
短い。
外から中を。
龍重。
空海を見る。
「効いておる。」
空海。
頷く。
「確実に。」
小河。
笑う。
「止まりませんな。」
細い流れ。だが続く。止められない。
永谷は動かない。いや、動けない。
動けば崩れる。動かねば削られる。
どちらでも、減る。
均衡はまだある。
だが、傾く。ゆっくりと、確実に。見えないところで。
兵は減らないが、食が減る。
それで足りる。
戦は起きていない。
だが、勝敗はそこにあった。
「一典殿! どうされますか!」
血相を変えた一門、詰め寄る。
一典、静かに。
「騒ぐな、見苦しい。」
一門。
「何をのんきな。」
「騒げば聞かれ、さらに揺らぐ。それも分からぬか。」
一典の重い声に一門が口を閉ざす。
「何故、奴がこのような迂遠な手を使うか分かるか。」
じっくり見据える。
「それはな。」
少しの間。
「儂を恐れておるからじゃ。」
沈黙。
「正面から戦えば、儂が勝つ。」
揺るがない自信。それだけの実績はある。
「じゃから、裏口をちまちま攻める。せせこましい奴よ。」
一典の言葉に周囲の国人が嘲笑する。
「待てば待つほど我らが有利さね。」
これも揺らがない。
だが、若者が聞こえぬ声で、
「……我らの民が、揺らぎます。」
大声では言えない。言えば惰弱と蔑まれる。
嬉野の市。
かつての活気が消えていた。
「儲からぬ。」
「引き上げよ。」
「持っていても腐るだけ、捨て値よ。」
物価が跳ね上がり、相場はさらに濁る。
「刀十本、米一合。」
諍いも目に見える。。
日野の市。
瞳の都市計画が間違えだった、と勘違いするほど活気が満ち溢れている。
「南蛮渡来、いかが。」
長崎の港、大村、長与、神浦などいくつもの都市で声。
「まぁこんなものじゃろ。」
「毎度。」
「豊後で飢饉があった。」
「日向で鉄鉱石が。」
九州一円の情報も広まる。
大村城、菖蒲庭園。
龍重、鯉に餌をやりながら、
「嬉野の市、流れが淀んでおるの。」
傍らに膝まづく小河。
「当人たちには淀みが見え始めてきたでしょう。」
空海が縁側で徳利を傾けながら、
「永谷が力で民の物を奪い取るか。」
龍重は苦笑しながら振り向き、
「あの野人、そのあたりは獣の気配で気づいておるじゃろ。」
「でしょうなぁ。」
空海が徳利の縁を舐めながら、お代わりを所望する。
龍重。
「空海、酒癖が僧正に似てきたな。」
顰め面の空海。
「あんな生臭坊主と一緒にしないでくださいよ。」
と言いながら、はたと手を打つ。
「健闘する永谷殿に酒でも送りませんか、最近流行りの焼酎を。」
顎を擦る龍重、にっこり笑いながら。
「それは良い贈り物じゃ。あのあたり酒の醸造はまだまだじゃから、とても喜んでくれるじゃろう。」
小河。
「またそんな心を泥水で洗い合うようなことを。まぁ、三樽くらい送れば足りましょう。」
互いに目配せ。
待てば海路の日和あり。
だが、待つほどに時化ばかりになることもある。
日野と永谷。初代龍元からの流れが分岐し、それぞれの大河が流れる。
片や緩やかに大流域となり、片や崖から海に滝のように注ぎ込む。
どちらの流れが続くのか、目に見え始めている。




