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肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


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第34章 島原半島の憂鬱

この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。

挿絵(By みてみん)

 島原半島の風は、どこか乾いていた。

 海は穏やかだった。だが、港は静かではない。

 荷はある。船もある。

 だが、銭が動かない。


 有馬の館。

 机の上に帳簿が広げられていた。

「……下がっている。」

 低い声。

 家臣が答える。

「はっ、南蛮船の入港は増えております。」

 沈黙。

「だが。」

 少し間。

「利益が薄い。」

 原因は分かっていた。

 長崎港……日野家。

 商人が言った。

「有馬様、最近は……。」

 言葉を選ぶ。

「長崎で値が決まります。」

 沈黙。

「こちらは、その……。」

 少し間。

「従う形に。」

 有馬の指が止まる。

 帳簿の上で。

「……いつからだ。」

 商人は答えられなかった。だが、全員が知っていた。気づいた時には、そうなっていた。


 地元の住職たちが押しかけてきている。

「……追い返せ。」

 有馬が言う。

 家臣が戸惑う。

「しかし。」

「宣教師は。」

 沈黙。

「交易に必要にございます。」


 その時だった。

 外から声、怒声。

「出ていけ!」

「異教徒め!」

「土地を荒らすな!」

 寺社の者たちだった。

 村人も混ざっている。

 家臣が言う。

「最近、増えております。寺と村の衝突が。」

 有馬は何も言わない。

 キリスト教、本来は日野家に対抗する武器だったはず。だが今は火種だった。


 夜。

 有馬は一人、海を見ていた。

「……おかしい。」

 呟く。

「全部、正しいはずだ。」

 交易、宗教、軍。

 すべて、用意した。

 引けを取らないはずなのに、崩れている。

「なぜだ。」

 答えはなかった。


 薩摩国、内城。

 島津義久は、静かに話を聞いていた。

「有馬、動く様子あり。」

「国境に兵を集めております。」

 隣で歳久が笑う。

「焦れておりますな。」

 義久は頷いた。

「当然だ。制度に負けておる。」

 歳久が言う。

「で、どうされます。」

 義久は少し考えた。

「……餌をやれ。」

 沈黙。

 歳久。

「どの程度。」

 義久。

「勝ったらつまらぬが負けても興が冷めるな。」

 歳久が笑った。

「悪い面構えですな、兄上。」

 義久。

「違う。」

 少し間。

「試す、日野を。」

 沈黙。

「動くか、耐えるか。」

 歳久。

「面白い。」


 数日後、有馬の元へ密使が来る。

「薩摩より。」

 中には、銀、火薬、武具。

 そして一文。

「志ある者に。」

 有馬はそれを見て笑った。

「……来たか。」

 誤解だった。それは援軍ではない、試しだった。

 有馬は知らない。

「兵を出す。」

 即断だった。

「国境へ。」

 家臣が頷く。

「日野へ通達を。要求を出す。応じねば。」

 少し間。

「戦だ。」


 神浦城。

 竹が鳴る。

 空海が笑っていた。

「痺れを切らしましたな。」

 信安。

「思ったより動きが亀ですな。」

 書状が置かれている、有馬からの。

「要求。」

 空海が読む。

「交易の再調整、宣教師の保護、関所の緩和。」

 笑う。

「全部、自分の都合ですな。」

 信安。

「そんなものでしょう。我らの利はどうでもいい。」

 龍重は竹を見ている。

「どうする。」

 沈黙。

 信安が答える。

「面倒なので特に。」

 空海が笑う。

「またそれですか。」

 信安。

「ええ、こちらが飲んでやる義理もないですし。」

 少し間。

「既に沈んでいる。」

 龍重が言う。

「動けば。」

 信安。

「利敵。無駄な動き。」

 空海。

「動かなければ。」

 信安。

「今まで通り、有馬はさらに削れます。」

 沈黙。

 竹が鳴る。

 龍重。

「では、抜かりなく放っておこう。」

 空海が盃を揺らす。

「お優しいことで。」

 信安。

「ええ。」

 少し間。

「冷めておりますがね。」


 その頃、島原半島。

 兵が動き、旗が立つ。有馬の軍勢。

 だが、村は静かだった。誰も歓迎しない。

 寺は閉ざされ、商人は動かず、銭も動かない。

 ただ、兵だけが動いていた。

 気付かず沈みながら、進んでいる。


 遠く、薩摩国内城。

 義久が言う。

「どう出る。」

 歳久。

「日野は存外面倒くさがっているようで。」

 義久は頷いた。

「ならば。」

 少し間。

「真の怠け者なり。」


 風が吹き、竹が鳴る。

 そして、まだ誰も気づいていなかった。

 この戦は始まってすらいないことに。


 肥前国、愛野と牛口名。長崎半島へ至る喉元に、それはあった。

 砦と呼ぶにはあまりにも簡素な構え。

 板塀。高さ一丈半。その外に空堀。深さ一丈。

 それだけだった。

 石垣もなければ、櫓もない。兵の数も多くて三百もない。

 だが、攻める側から見れば話は違った。

 道は狭い。両側は湿地と緩斜面。正面は板塀、その前に空堀。越えればいい。それだけのはず。

「……面倒だな。」

 有馬の将が呟いた。

 攻められないわけではない。だが損が出る。そして何より、その先が見えない。

 砦は小さい。だが、その背後に何があるのか分からない。

 日野の砦だった。

 目的は明確だった。止めるためではない。遅らせるため。兵が集まるまで、時間を稼ぐ。

 そしてもう一つ。道を選ばせるため。

 海を見れば分かる。軍船、日野水軍。

 静かに、だが隙なく海を塞いでいる。

「海は……無理にございます。」

 有馬の家臣が言った。

 当然だった。海に出れば主導権は相手に移る。日野はそれを許していない。

 ならば陸から押すしかない。

 だがその陸が細い。そして砦がある。誘導だった。進めば必ずここを通る。通れば止まる。止まれば時間がかかる。

 時間がかかれば、来る。日野が。

 有馬晴純は砦を見ていた。

「……攻めにくい作りだ。」

 無能と謗られたことはない。堅実な領国経営、確実な統制、柔軟な宗教政策。どれも備えている。

 南蛮交易も、キリスト教も、すべて計算上、正しい。

 だが、その正しさが通用しない。

 目の前の砦は簡素で粗末。だがこちらの手を完全に縛っている。

「勝っても損、負けたら大損。」

 黙考し、決断。

「進めば削られるが、進まねば滅ぶ……崩すか。」

 家臣が答える。

「可能にございます。だが損が大きいかと。」

「迂回は。」

「海は不可。山は時間がかかりすぎます。」

 つまり、ここしかない。

 有馬は目を細めた。

「嫌な選択肢だな。」

 誰も答えなかった。答えは出ている。

 その時だった。遠く、旗が揺れる。

 日野ではない。

 別の色。

 空気がわずかに変わる。

「……援軍。」

 小さく。

「薩摩。」

 有馬の口元がわずかに動いた。

「……来たか。」

 だが、それは救いではない。重さだった。

 戦は続けられる。だが勝てるかは別。

 丘の上。

 一人の男がそれを見ていた。

 信安。その隣に日野重直、今や日野家直属軍の総司令官。

 二人とも動かない。

 信安が言う。

「予定通り。」

 重直が笑う。

「見事に道に乗りましたな。」

 重直は砦を見る。

「小さい。」

 信安が答える。

「十分です。止まっておりますから。」

 重直が呟く。

「さて、相手はどう出ますかな。」

 小河は静かに言った。

「はてさて。」

 沈黙。

「出方を待ってみましょう。」

 風が吹く。草が揺れる。

 有馬の軍は進んでいない。止まっている。

 その時点で、すでに勝負は決まっていた。


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