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肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


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第33章 再配置

この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。

挿絵(By みてみん)

 肥前の地図は、静かに書き換えられていた。

 合戦はなかった。だが境界線は動いた。

 佐嘉の騒乱が終わる頃、肥前の国人たちは一つの事実を理解していた。

 龍造寺は終わった。だが、滅びてはいない。

 残った。

 そしてその上に、もう一つの力が乗った。

 日野家。


 神浦城。

 庭には竹が揺れていた。

 縁側。

 龍重、空海、信安。

 三人の前に広がっているのは、肥前の地図だった。

 信安が言う。

「国は空きました。」

 龍重は竹を見る。

「空いてはおらぬ。」

 少し間。

「並び替わっただけじゃ。」

 空海が笑う。

「盤面が変わった。」

 信安が頷く。

「ええ。」

 そして筆を取った。

「再配置です。」


 最初に決まったのは北だった。

 肥前北部。

 龍造寺家。

 政家は佐嘉城に残ることを願ったが、伊万里の年貢管理権と引き換えに伊万里への転封を受け入れざるを得なかった。庇護を得るとは、そういうこと。

 信安が言う。

「残す。」

 龍重。

「日野の背後を守る壁じゃな。」

 空海が酒を飲む。

「外敵除け。」

 信安。

「ええ。」

 龍造寺は滅びない。だが強くさせない。

 それが日野の配置だった。


 次に唐津。

 海の要衝。

 ここには一人の男が入る。

 大岡高次。

 武将というより庄屋のような男。

 だがその目は鋭い。

 信安が言う。

「唐津は港です。」

 龍重。

「銭の口。」

 空海。

「戦ではなく。」

 信安。

「物流。」

 唐津は日野の北門、重鎮の配置。


 その西、松浦。

 海の民の国。ここには桜岡吉武。

 経済を支える男。

 空海が笑う。

「北の銭の管理者に相応しい。」

 龍重。

「そうじゃ。」

 松浦の海は静かに日野の色になった。


 肥前中央部、武雄から嬉野。

 山と温泉の地。

 ここには永谷一典。かつての投石兵の将。

 荒い男。

 だが鼻が利く。

 信安が言う。

「ここは盾。」

 龍重。

「山城の国。」

 一典は短く言った。

「山犬狩りは得意じゃな。」

 武雄から嬉野にかけて。

 その山地は、肥前の守護壁となった。


 そして、肥前最大の都市、佐嘉城。

 ここに入ったのは、日野家二代目当主。

 かつての主、海の男だった。

 信安が言う。

「前当主の重み。」

 龍重。

「守ってきた者の安定感。」

 空海。

「肥前の民が安心する。」

 佐嘉城はそのまま残る。

 だが中身は変わった。


 さらに、佐嘉にはもう一人入った。

 日野瞳、そして、青雲隊。

 信安が地図を指す。

「ここは城ではない。」

 空海。

「都市ですな。」

 龍重。

「防衛都市。」

 瞳が言う。

「城壁の手直し、道幅拡張、兵舎増築。」

 青雲工兵隊は瞳と協議の上、早速日野の壁となりうる佐嘉城を佐賀城として再構築を始めた。

 佐賀城は、巨大な防衛都市へ変わっていく。


 西、西彼杵半島。

 ここは日野元久。安定の男。

 無口、だが安心感を与える才があった。

 信安。

「農。」

 龍重。

「米、雑穀、山の幸、海の幸」

 空海。

「日野家の蔵。」

 西彼杵は肥前の穀倉となる。


 南、長崎半島。ここは放浪癖の奈良橋家継。

 外の風を知る男。

 信安。

「長崎は風吹く銭蔵。」

 空海。

「異国からの銭蔵。」

 龍重。

「窓じゃ。」

 だが実際の統治は別だった。

 長崎港。

 そこには二人の男がいた。

 本河内光輝、長与商人の頭改め長崎商人の顔役。

 そして、日翔寺住持北天翔院地空僧正。

 光輝が銭を動かし、地空僧正が権威を動かす。

 商人、寺、港。すべてが絡み合う。

 空海が笑う。

「商業と宗教。」

 信安。

「まず揺ぎ無し。」

 龍重。

「武士は上から微笑めばよい。」

 長崎は武士ではなく。

 銭と信仰で治められた。


 数ヶ月後。

 肥前の地図は完全に変わった。

 北、伊万里の龍造寺。

 唐津は大岡高次。

 松浦に桜岡吉武。

 武雄と嬉野に永谷一典。

 佐嘉に日野二代目当主、日野龍朋、作事奉行として日野瞳、青雲工兵隊も育成を兼ねて基盤整備に走り回る。

 西彼杵に日野元久。

 長崎には奈良橋家継。そして、光輝と地空僧正。

 肥前は一つの国になった。


 神浦城。

 夜、竹が鳴る。

 空海が言う。

「殿。」

 龍重。

「何じゃ。」

 空海。

「肥前。」

 少し間。

「牡丹餅ですな。」

 沈黙。

 龍重は竹を見る。

「違う。」

 信安が笑う。

「ええ。」

 空海。

「何がです。」

 信安。

「落ちてきたのではない。」

 少し間。

「綺麗に並べただけです。」

 龍重が言った。

「国はな。」

 竹が鳴る。

「奪うものではない。」

 風が吹く。

「綺麗に並び直すものじゃ。」

 肥前は静かに。

 日野の国になった。


 肥前は並び終わっていた。

 だが一箇所だけ、空いていた。

 中心。

 そこに座るべき者の席。


 神浦城。

 竹が鳴る。

 信安が地図を見る。

「一つ足りません。」

 空海が笑う。

「誰ですかな。」

 信安は答えない。

 視線だけで示す。

 大村。

 沈黙。

 龍重は竹を見ていた。


「……大村か。」

 静かな声。

 信安が頷く。

「はい。」

 空海。

「なぜそこです。」

 信安。

「肥前全体に手が届く。」

 龍重。

「長崎も、西彼杵も、佐嘉も、武雄も。」

 信安。

「全て半日。」

 沈黙。

 龍重が地図に木札を置いていく。

 星奈、明日香、龍徳、梨香。全て長崎時代の奉行職を踏襲した官僚機構。肥前全土への拡大。

 鍋島は、旧領を渡そうとしたが、銭が良いと言ってそのまま日野軍の総司令官役に自然に収まり続けている。初陣終えたばかりなのに。

 だが、その役割以外に適任がない。鍋島家という名門の重みもあるが、龍重の外戚という権威、それ以上に肥前大浦で敵兵を三十以上薙ぎ倒し、隆信親衛隊を敗走に追い込んだ実績の重みが、今や永谷一典に匹敵する、龍重の代理人たる軍事司令官として仕上がった。

 その重直が重臣たちの前で、「我が主君、信太様以外に考えられぬ。」と静かに言い、龍重の日野家における絶対性を補強している。

 商人たちや一部在地国人は、君主の移動に苦言を呈したが、今まで以上に龍重が支援を行う旨を知った途端、口を噤んだあたり、もはや百二十石の借金で苦しんだ「あの嫡男」像は消え去っているようだ。

 その重直が企画した神浦城から大村城への本拠移転は、軍事演習を思わせる行進で始まり、大村領へ入った時には民が歓迎する宴に翻弄されるという一幕もあった。

 空海が笑う。

「君主の座ですな。」

 龍重は首を振る。

「違う。」

 少し間。

「天秤じゃわ。」


 大村、その地は、単なる拠点ではない。

 長崎への喉元、佐嘉への中継、西彼杵の背、有馬との境、すべてが交差する。

 信安が言う。

「ここを抑えれば。肥前は動きません。」

 だが、空海が盃を止めた。

「有馬。」

 沈黙。

 信安が頷く。

「魚の小骨。」

 龍重。

「気になってしまうな。」

 空海。

「抜きますか。」

 龍重は竹を見る。

「抜きにくいなぁ。」

 沈黙。

 信安。

「……放置しますか。」

 龍重。

「いや、小骨は……。」

 少し間。

「飯で流すに限る。」


 有馬、それは異質な領主。南蛮交易に伴うキリスト教の布教。外の暴風。

 空海が言う。

「宗教が違う。」

 信安。

「銭も違う。」

 龍重。

「だからじゃ。」

 沈黙。

「直接触らぬ。じゃが……。」

 しばしの間。

 のんきそうに龍重が、

「民たちは本当にキリスト教徒やらを必要としておるのかのぉ。」

 空海と小河は一瞬だけ視線を交錯させる。


 配置は変わる。

 長崎の奈良橋、光輝、地空僧正で膨張させる。

 商人、信仰、交易。

 すべてが長崎に集まる。

 信安が言う。

「有馬は。」

 少し間。

「長崎という飯に押し流されます。」

 空海が笑う。

「銭と飯で流し込む。」

 龍重。

「ただそれだけじゃ。」

 そして、もう一つ。もっと大きな胃痛の種。

 薩摩国、島津家。


 神浦城。

 空気が変わる。

 空海が言う。

「島津。」

 信安。

「対応、困難。」

 龍重。

「既に布石は置いている。」

 沈黙。

「結び目を強く。」

 薩摩国、島津家の義久、歳久。

 彼らは分かっている、日野の意図を。

 そして日野も分かっている、島津の意図を。


 信安が言う。

「同盟ですか。」

 龍重。

「不可侵。」

 空海。

「軍事も。」

 龍重。

「双方必須。」


 条件が並ぶ。

 信安が書く。

 一つ。

「肥後。」

 空海が読む。

「阿蘇は神道の権威を担う。」

 龍重。

「寺社との友好関係。」

 信安。

「地空僧正様にご出馬ですかな。」

 沈黙。

「阿蘇家はこれで落ち着く。」

 二つ。

「肥後統治。」

 空海。

「島津が統治。」

 信安。

「日野が経済。」

 龍重。

「利権分担じゃな。」

 三つ。

「双方の侵攻先。」

 沈黙。

 信安。

「豊後まで。」

 空海。

「島津。」

 龍重。

「任せる。」

「日野は。」

 信安。

「筑前、筑後、豊前。」

 龍重。

「抑える。」

 四つ。

「軍事支援。」

 空海が笑う。

「島津の四国侵攻。」

 信安。

「支援。」

 龍重。

「軍事行動は島津の独壇場。」

 五つ。

「外交。」

 信安。

「中国地方とのつなぎ。」

 空海。

「日野の十八番。」

 龍重。

「島津は軍事的な後ろ盾としての支援。」


 沈黙。

 すべてが並ぶ。

 信安が言う。

「……大きすぎます。」

 空海。

「九州を分ける。」

 龍重。

「左様。」

 少し間。

「南北九州統治じゃわ。」


 神浦城。

 夜。

 竹が鳴る。

 使者が来る、薩摩より。

 信安が書状を受け取る。

 読む。

 沈黙。

 空海が笑う。

「どうでした。」

 信安。

「……こちらもいやな奴らですね。」

 龍重。

「惚れてしまいそうだろ。」

 信安が言う。

「条件。」

 少し間。

「ほぼ同じです。」

 空海が笑う。

 小河。

「豊前南部は島津、その代わり伊予国の河野殿との優先交渉権。」

 龍重が苦笑して、

「互いに一歩譲歩、に見せかけて儂らが美味しいことになりそうじゃが……飲むかね。」

 空海は空になった徳利を名残惜しそうに傾けながら、

「領土的には島津の面子を立てています。これでもめると、島津の信用銀が危ういでしょうなぁ。」

 小河が肩を竦めながら、

「狐と鬼。」

 龍重。

「違う。」

 少し間。

「狐の巣穴じゃわ。」


 その夜。

 大村。

 灯がともる。

 新たな拠点。

 龍重はそこに入る。

 城ではない。

 館でもない。

 天秤の場。


 龍重は地図を見る。

 肥前、その全て。

 そしてその外、筑前、筑後、豊前。

 さらに西、中国地方。

 さらに南、薩摩。

 沈黙。

 龍重が言う。

「小河。」

 信安。

「はい。」

 龍重。

「肥前攻略、再配置、どう見る。」

 信安は笑う。

「残念ながら五十対五十、五十一は取れませんでしたな。」

 少し間。

「まだまだ並べ直しが必要なようで。」

 龍重は頷く。

「そうじゃな。」

 竹が鳴る。

「ここからじゃ。」


 肥前は静かに収まった。

 だが、九州はまだ動き始めたばかりだった。


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