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肥ノ国立志伝~戦国制度革命史  作者: 日野龍哉


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第32章 疑心暗鬼の百鬼夜行

この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 佐嘉城の空は、重かった。

 隆信の死から日が経つほどに、城の空気は濁っていった。悲嘆は消え、代わりに漂うのは疑念だった。

 誰が敵か。誰が味方か。誰が次に斬られるのか。

 城の廊下では囁きが止まらない。

「納富殿が次は誰を斬るか。」

「いや、小河の残党を探しておる。」

「いや違う、商人を締め上げておる。」

 噂は日に日に増えた。そしてどの噂も、真実と嘘が混ざっていた。

 龍造寺政家は当主だった。だが政は動いていない。動いているのは一人の男だった。

 納富信景。


 評定の間。

 信景は立っていた。

 政家は上座にいる。だが誰も政家を見ていない。

 家臣たちの視線は、すべて信景へ向いていた。

 信景は言う。

「小河の残党を探れ。」

 短い命令。

 家臣が答える。

「は。」

 だがその声は弱かった。

 信景は続ける。

「銀の流れを調べろ。」

 沈黙。

「博多の商人もだ。」

 誰も動かない。

 家臣たちは理解していた。

 銀が止まった理由は、信安ではない。

 だが誰も口には出さない。

 口にすれば斬られる。

 信景は机を叩いた。

「何をしておる!」

 家臣たちが頭を下げる。

 その時だった。

 外から足音。

 一人の足軽が走り込む。

「報告!」

 信景が睨む。

「何だ。」

 足軽が震えながら言う。

「書状にございます!」

 沈黙。

「小河信安より。」

 評定の空気が凍った。

 信景は書状を受け取った。

 封を切る。

 そして読み始めた。

 評定の間は静まり返っていた。

 やがて信景の声が響く。

『                                納富無能守信景

  抑々、貴殿の如き者に対し、日野龍重公の御名を引くは、鉄炮を以て蟻を撃つが如きものにて候。

  些事の為に大器を煩わすは、かえって笑止。

  故に此度の儀、日野公の御手を汚すまでもなく、一介の亡臣、小河信安が相手仕るべく候。

  貴殿、我が一族を攻め滅ぼし候段、委細承り候。されど信安、此の事を以て怒りは致さず候。

  ただ一つ。恥に候。

  我が拙き政略の端緒すら量り得ぬ愚鈍の輩により、家を絶たれ候こと、実に慙愧に堪えず候。

  されば此度、信安自ら筆を執り候。

  貴殿の如き者、信安一人にて足り申す。

  もし貴殿、自らを無能にあらずと思し召すならば、先ずは信安が策、破りて御覧候え。

  破れぬならば、貴殿の武名、ただの虚名と世に知れ渡るべく候。

  なお一つ申す。

  此の書状を読み、貴殿が怒り、兵を挙げ、信安を討たんと動くこと、既に算中に候。

  もしそれでも出陣なさるならば、信安が申した通り、貴殿は能無しにて候。

  恐々謹言

 小河信安                                     』

挿絵(By みてみん)

 沈黙。

 評定の間の音が消える。

 誰も動かない。

 信景の顔は動かない。

 だがその目だけが燃えていた。

 やがて信景は書状を畳んだ。

 ゆっくりと。

 そして言う。

「……小河。」

 低い声。

「殺す。」

 家臣が慌てて言う。

「遠州殿(納富の通称遠江守より)!」

 沈黙。

「これは挑発にございます!」

 信景は睨む。

「知っておる。」

 家臣

「ならば!」

 信景

「知っておると言うた。」

 沈黙。

 そして言う。

「だが。」

 拳を握る。

「許さぬ。」

 家臣たちは顔を見合わせた。

 その時だった。

 別の家臣が言う。

「遠州殿。」

 信景

 何だ。」

 家臣

「この書状。」

 少し間。

「……もしや。」

 沈黙。

「罠では。」

 信景の目が動く。

 沈黙。

 評定の空気が重くなる。

 家臣が続ける。

「出陣すれば、小河の策。出陣せねば臆病と笑われます。」

 沈黙。

 信景は立っていた。

 微動だにしない。

 やがて言う。

「……なるほど。」

 少し間。

「賢しらな奴よ。」


 その頃、神浦城。

 夜。竹林が鳴っていた。

 縁側。

 龍重と空海と信安。

 三人が座っていた。

 信安は酒を飲んでいる。

 空海が笑う。

「書状、届きましたな。」

 信安

「ええ。」

 龍重

「動くか。」

 信安

「動きません。」

 空海が眉を上げる。

「ほう?」

 信安

「今は。」

 少し間。

「動けない。」

 龍重が竹を見る。

「なぜじゃ。」

 信安

「疑うからです。」

 沈黙。

「何をしても。罠に見える。」

 空海が笑う。

「疑心暗鬼。」

 信安

「ええ。」

 少し間。

「百鬼夜行です。」

 龍重が小さく笑う。

「佐嘉城か。」

 信安

「はい。」

 そして言う。

「今頃、誰が裏切りか、誰が小河と通じているか、誰が次に斬られるか。」

 沈黙。

 信安は酒を置いた。

「皆、互いを疑っている。」

 空海が笑う。

「怖い国ですな。」

 信安

「いえ。」

 少し間。

「普通です。」

 龍重が言う。

「小河。」

 信安

「はい。」

 龍重

「策は。」

 信安は肩をすくめた。

「特に。」

 空海

「またそれですか。」

 信安

「ええ。」

 沈黙。

「所詮、納富。」

 龍重

「怒る。」

 信安

「ええ。」

 龍重

「疑う。」

 信安

「ええ。」

 空海が酒を飲む。

「それで崩れる。」

 信安

「ええ。」

 沈黙。

 竹が鳴る。

 龍重が言う。

「小河。」

 信安

「はい。」

 龍重

「お前。」

 少し間。

「本当に性格が悪い。」

 信安は笑った。

「惚れ直さないでくださいよ。」

 空海が声を上げて笑う。

「狐と狸。」

 龍重

「違う。」

 少し間。

「共犯じゃ。」

 竹林の音が夜に流れた。


 そしてその頃、佐嘉城。

 納富信景は眠っていなかった。

 書状を見ていた。

 小河信安。

 沈黙。

 信景は呟いた。

「……出陣すれば罠。」

 少し間。

「出陣せねば笑い者。」

 拳を握る。

「ほんに賢しら気にひけらかしおって。」

 城の外では風が吹いていた。

 灯火が揺れる。

 小河信安。

 その名が頭から離れない。

 信景は低く言った。

「……罠だ。」

 沈黙。

「だが。」

 拳を握る。

「許さぬ。」

 そして立ち上がった。

「捕えよ。」

 家臣が顔を上げる。

「誰をでございますか。」

 信景の目は冷たかった。

「小河と通じている者。」

 沈黙。

 家臣が震える。

「……それは。」

 信景。

「全てだ。」


 翌日、最初に捕えられたのは、若い家臣だった。理由は一つ。博多の商人と話していたから。

 拷問。悲鳴。そして斬首。

 城下に首が晒された。

 次の日、別の武士が捕まる。

 理由。

「小河の書状を笑った」

 それだけだった。

 一人、また一人。

 佐嘉城は血の匂いに満ちていった。

挿絵(By みてみん)

 噂は広がる。

 城下。

 武士の屋敷。

 夜。

 囁き。

「納富殿が狂った。」

「違う。」

「疑っておる。」

「誰を?」

 沈黙。

「……全員を。」

 武士たちは互いを見た。

 誰も信用できない。

 誰が密告するかわからない。

 佐嘉城は静かに崩れていた。


 評定。

 納富信景は立っていた。

 その顔はやつれていた。

 目は赤い。

 家臣たちは膝をつく。

 沈黙。

 信景。

「まだおる。」

 誰も動かない。

 信景。

「小河の犬が。」

 沈黙。

 信景は叫んだ。

「出てこい!」

 誰も動かない。

 その沈黙が信景をさらに怒らせた。

 机を蹴り飛ばす。

「ならば!」

 刀を抜く。

「全員斬る!」

 家臣たちが震えた。


 その夜。

 五人の男が密かに集まっていた。

 成松遠江守、百武志摩守、木下四郎兵衛尉、江里口藤七兵衛尉、円城寺美濃守。

 龍造寺家の重臣たちだった。

 沈黙。

 最初に口を開いたのは成松だった。

「……もう持たぬ。」

 百武が頷く。

「城が壊れる。」

 木下。

「既に壊れている。」

 円城寺が低く言う。

「戦になる。」

 沈黙。

 江里口が言う。

「ならば。」

 少し間。

「止める。」

 誰も反論しなかった。


 翌朝。

 納富信景は鎧を着ていた。

 決断していた。

「出陣する。」

 家臣が驚く。

「遠州殿!」

 信景。

「小河を討つ。」

 沈黙。

「今度こそ。」

 槍を取る。

「出る。」

 その時だった。

 背後から声。

「遠州殿。」

 信景が振り向く。

 成松遠江守だった。

 その後ろに四人。

 百武、木下、江里口、円城寺。

 信景は眉をひそめた。

「何だ。」

 成松が言う。

「御止め下さい。」

 信景。

「退け。」

 沈黙。

 成松。

「退きませぬ。」

 信景の目が鋭くなる。

「……何だと。」

 百武が言う。

「遠州殿、龍造寺家を滅ぼすつもりか。」

 信景。

「黙れ。」

 江里口。

「既に多くの家臣が逃げました。」

 信景。

「裏切り者め。」

 木下が言う。

「違います。」

 少し間。

「恐れているのです。」

 信景の手が震えた。

「恐れる?」

 円城寺が静かに言う。

「遠州殿を。」

 沈黙。

 信景。

「……貴様ら。」

 刀を抜いた。

「謀反か。」

 成松が言う。

「違う。」

 少し間。

「御家のため、御免!」

 信景。

「ふざけるな!」

 信景は突進した。

 槍が唸る。

 戦が始まった。

 廊下。

 槍。

 刀。

 血。

 信景は強かった。

 木下を斬る。

 木下四郎兵衛尉が倒れる。

 その瞬間。

 百武の槍が突く。

 信景はそれを払う。

 だが次の瞬間。

 成松の刀。

 一閃。

 信景の体が止まる。

 沈黙。

 信景は膝をついた。

 血が畳に落ちる。

 信景は笑った。

「……小河。」

 息を吐く。

「賢しらな奴……め。」

 そして崩れた。

 納富信景、討死。


 しかし戦は終わっていなかった。

 混乱の中。

 円城寺も大浦に続き傷を負う。

 そして、木下は既に絶命。

 成松も深手だった。

 床に血が広がる。

 成松は駆けつけてきた政家を見る。

 龍造寺政家、震えている。

 成松は言う。

「殿。」

 政家は言葉を失いながらも、気丈にも成松の手を握りしめる。

 成松。

「……決めて下さい。」

 沈黙。

「龍造寺の……」

 少し間。

「未来を……。」

 成松は笑った。

「小河と日野は、頼る者を見捨てませぬ。」

 血が口から溢れる。

「殿。」

 最後の言葉。

「御武運を。」

 そして、成松遠江守も息絶えた。


 沈黙。

 評定の間。

 龍造寺政家は座っていた。

 重臣の多くが死んだ。

 龍造寺を立て直そうとした納富、暴走を食い止めようとした成松、木下。

 龍造寺家はかつてのように軍権を振るえなくなった。

 沈黙。

 政家は瞑目しながらゆっくり言った。

「……使者を出せ。」

 家臣が顔を上げる。

「どちらへ。」

 政家。

「神浦城。」

 沈黙。

「日野信太殿へ。」

 少し間。

「龍造寺家は。」

 声は震えていた。

 だがその目は決まっていた。

「日野家の庇護を願う。」

 それは、龍造寺政家の最初で最後の英断だった。


 その頃、神浦城。

 竹林が鳴っていた。

 空海が苦笑い。

「殿。」

 龍重。

「何じゃ。」

 空海。

「龍造寺、降りました。」

 沈黙。

 信安が酒を飲む。

「……早かったですね。」

 龍重は竹を見る。

「小河。」

 信安。

「はい。」

 龍重。

「また負け戦じゃ。」

 信安は肩をすくめた。

「いいえ。」

 少し間。

「勝手に沈んだだけです。勝ち負けでなく不戦敗です。」

 竹が鳴った。

 肥前の流れが、静かに変わった。


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