第28章 肥前大浦攻防戦 前編
この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。
筑後国博多、商人町。
夜。
一人の男が帳簿を閉じた。天野庄左エ門。
九州でも中規模の商人だった。
男が言う。
「長崎が揺れた。」
沈黙。
弟子が聞く。
「銀消失ですか。」
庄左エ門は首を振る。
「違う。」
少し間。
「信用だ。」
帳簿を叩く。
「長崎、神浦、博多。」
線が引かれている。
銀の流れ。
庄左エ門は言う。
「信用は水だ。」
沈黙。
「上から下へ流れる。」
弟子が聞く。
「では。」
庄左エ門。
「佐賀だ。」
静かに言う。
「龍造寺は。」
少し間。
「借りすぎている。」
沈黙。
庄左エ門は笑った。
「火をつけたのは日野。」
少し間。
「だが。」
帳簿を閉じる。
「九州炎上だな。」
肥前国佐嘉城。
隆信が報告を受ける。
「殿。」
成松遠江守が言う。
「博多が。」
沈黙。
「貸し渋りを始めました。」
隆信は眉をひそめる。
「銀はある。」
成松遠江守。
「ですが。」
少し間。
「信用がありません。」
沈黙。
隆信が低く言う。
「……誰だ。」
百武志摩守。
「日野。」
沈黙。
隆信は笑った。
「もうよか。」
ゆっくり立つ。
「合戦じゃ。」
江里口藤七兵衛尉が言う。
「殿。」
沈黙。
「これは。」
少し間。
「戦ではありません。」
隆信。
「なら何だ。」
江里口藤七兵衛尉。
「商いです。」
沈黙。
隆信は呟いた。
「……つまらんな。」
数日後。
肥前国佐嘉城評定の間。
信安が地図を広げる。
「太良、諫早、大村。」
沈黙。
信景。
「日見峠ではない。」
信安。
「違う。」
「長崎を落とすなら。」
少し間。
「大村を揺さぶる。」
隆信が言う。
「よい。」
沈黙。
「太良より進み、諫早に大規模陣営を築き、大村を押す。」
少し間。
「そしてじわじわと長崎を削る。」
西彼杵半島、神浦城評定の間。
空海が地図を見る。
龍重が聞く。
「龍造寺は。」
空海。
「北から来ます。太良、諫早……大村。」
沈黙。
龍重。
「流石に日見峠ではないか。」
空海。
「違いますな。熊も芸を覚えたようで。」
龍重が地図を指す。
「大浦。」
沈黙。
龍重。
「前へ出る。」
空海は笑った。
「ええ。防衛線を北へ。」
数日後。肥前大浦の丘陵や農地。
その真ん中、半里に渡る木柵が並んでいた。杭が打たれ、空堀が掘られる。土塁が築かれる。
青雲が中心となり農兵が汗を流す。
若い武士が言う。
「城ですな。」
空海。
「いや。」
沈黙。
少し間。
「壁だ。」
武士。
「壁?」
空海。
「熊止めの壁だ。」
大村湾から外海、長崎半島から島原半島を船団が静かに回り込む。
龍朋が舵を握る。希実が海図を見る。
「龍造寺の補給船。」
龍朋。
「燃やすか。」
希実。
「沈める。」
陸路を移動する龍造寺軍。
納富信景が大浦港から南を見る。
遠く、大浦の丘陵。
木柵、土塁、煙。
信景が言う。
「……城か、存外動きが早い。」
小河信安が首を振る。
「違う。」
沈黙。
「国だ。」
風が吹く。
信安は静かに言った。
「流れが。」
少し間。
「変わる。」
肥前大浦。
大村湾から吹く風が、まだ夏の湿り気を残していた。
丘の上に立つ男が大浦港方面を見ている。
西東空海だった。
彼の背後には砦がある。
街道を挟み、二つ。急造とはいえ堅牢な速成砦。
空堀、土塁、木柵。
さらにその上には弓兵と鉄砲足軽。
砦の後方には石が積まれていた。
投石用である。
若い武士が空海に尋ねた。
「空海様。」
「これで本当に止まるのでしょうか。」
空海は道を見ていた。大浦へ入る街道。二つの丘の間を走る一本道。それなりの幅はある。だが一度に大軍が通れるほどではない。
空海が言う。
「道は一本。」
沈黙。
「戦も一本。」
武士は意味が分からない。
空海は少し笑った。
「逃げ場はない。」
砦の裏。
実は初陣の日野重直。誰もそれを口にしない。彼は兵の配置を見ていた。
弓兵、鉄砲隊、槍足軽。そして投石兵。
重直が言う。
「矢は。」
兵站役。
「十分。」
「鉄砲玉。」
「あります。」
「火薬。」
「問題ありません。」
重直は頷いた。
日野軍の兵站は整っている。長崎港から運ばれた軍需。道越港から届く補給。そして倉銀制度で管理された資材。過剰なほど。
重直は言う。
「では、熊の毛皮を削りとろう。」
その頃、大浦港に陣を張る龍造寺軍。
軍勢が集結していた。
旗が並ぶ。槍が林のように立つ。
納富信景が丘に立っていた。
隣に小河信安。
信景が言う。
「兵は揃った。」
信安。
「揃った。」
信景。
「兵糧は。」
信安は少し黙った。
「多い。」
信景。
「多い?」
信安。
「米はある。」
沈黙。
「だが。」
「火薬も鉄砲も足りぬ。」
信景が笑った。
「銭の戦か。」
信安。
「長崎の騒ぎだ。」
沈黙。
「信用が落ちている。」
信景は笑った。
「龍造寺家は落とさせない。」
信安は何も言わなかった。
大浦港に円城寺美濃守を置き、龍造寺軍は南へ進んでいた。
兵糧車が多い。米俵が山のように積まれている。諫早に大陣営を敷く資材もある。
だが鉄砲隊の火薬箱は少ない。
その頃、道越港。
龍朋が海を見ていた。隣に希実。
海の向こうには補給船が静かに動いている。
希実が言う。
「兵糧は安定。」
龍朋。
「矢も鉄砲も足りる。」
沈黙。
「殿は。」
希実。
「正傳院。」
龍朋は頷いた。
「前には出ぬ。」
希実。
「当然。」
正傳院、その本堂に地図が広げられていた。
龍重が座っている。
ここが本陣だった。
寺は浄土宗。真言宗、北天翔院の僧、地空僧正の縁で借りた寺である。
龍重は地図を見ている。
「道。」
空海が地図を指し示す。
「大道一本。両側の丘に砦。」
龍重。
「迂回路。」
空海。
「西側砦の北側に隘路。」
少し間。
龍重。
「通れるか。」
空海。
「通れます。」
沈黙。
「ただし。砦の弓の下です。」
龍重は小さく笑った。
「殺し間だな。」
空海。
「ええ。」
夜、熊野神社。正傳院より南西にあるその森。
五百の兵が伏せていた。
精鋭日野家投石隊。
隊長は永谷一典。日見五家の勇士たちも小隊長としてのんびり待ち構えている。
一典は石を手に取った。丸い、よく飛ぶ石だ。
一典が言う。
「敵が砦に寄る。」
沈黙。
「砦に取り付いている間は放置。」
少し間。
「敵の意識が正傳院に向いたら……容赦なくなぎ倒せ。」
兵たちは静かに頷いた。
数刻後、龍造寺軍。
大浦に到達。
納富信景が南を見る。
遠く二つの丘、その上の砦。
間に長々とある木柵、土塁。
信景が言う。
「……城か。」
小河筑後守が首を振る。
「城ではない。」
沈黙。
「壁だ。」
信景。
「壁?」
信安。
「長崎の壁だ。」
龍造寺軍が止まる。
兵が陣形を整える。
太鼓、槍、鉄砲。
信景が言う。
「正面か。」
信安。
「正面だ。」
信景。
「迂回。」
信安。
「ある。」
信景。
「狭いか。」
信安。
「狭い。」
沈黙。
信景が笑った。
「なら夜に壊すか。」
太鼓が鳴った。
龍造寺軍が動く。槍隊、鉄砲隊。
砦へ進む。丘の上。
重直が言う。
「撃て。」
鉄砲が鳴る。
煙。
兵が倒れる。
矢が降る。
龍造寺軍が進む。
信景が叫ぶ。
「押せ!」
兵が砦へ走る。
砦から石が飛ぶ。無数の石が雨のように。
龍造寺兵の列が崩れる。
悲鳴。
鎧が砕け、皮膚が裂ける音。
信景が叫ぶ。
「怯むな! 押せい!」
丘の上。
空海が静かに言った。
「始まりました。」
重直。
「そうだな。」
道越港、龍朋が肥前大浦の方を見る。
盛大に煙が上がっている。おそらく、日野家の火攻め。油でも撒いたか。
希実が弓を片手に傍らに来る。
「お館、出港します。」
日野水軍、大規模戦への初投入。
夕暮れ。
戦はまだ続いている。
龍造寺軍は退かない。
砦も落ちない。
二つの丘の間の道。
そこはすでに血で赤かった。
納富信景が言う。
「面白い。」
小河信安。
「何が。」
信景。
「戦だ。」
信安は静かに言った。
「違う。」
信景。
「何が。」
信安は遠くの砦を見た。
「これは。」
沈黙。
「制度だ。」
正傳院。
龍重は庭を見ていた。
遠くで太鼓が鳴る。
空海が戻ってくる。
龍重。
「どうじゃ。」
空海。
「強い。」
沈黙。
「ですが。」
龍重。
「何だ。」
空海。
「龍造寺は。」
少し間。
「長く戦えません。」
龍重。
「兵糧か。」
空海。
「軍需です。」
沈黙。
龍重は静かに言った。
「なら。」
少し間。
「戦は決まっておる。」
空海。
「ええ。」
龍重は庭の竹を見た。
風が吹いている。
龍重が言った。
「長い戦になる。」
空海は頷いた。
「長い崩れです。」
物見の叫び。
「龍造寺軍、夜襲!」
互いに顔を見合わせる。
そして……。
「短慮に走りおった!」
龍重と空海が同時に喜色浮かべて叫ぶ。




