第29章 肥前大浦攻防戦 後編
この文章は生成AIの力を借りながら、細々と進めています。ご了承ください。
夜、大浦港沖。
海は静かだった。
潮は満ちている。
闇の海に、影がいくつも浮かんでいた。
日野水軍である。
先頭の船。
龍朋が舵を握っていた。
横に希実。
希実が小声で言う。
「陸は始まった。」
遠く、丘の向こう。
火の粉が舞っている。
正傳院。
龍造寺軍による本陣夜襲が始まっていた。
龍朋が笑う。
「熊が巣を空けたか。」
希実。
「殿の読み通り。」
龍朋。
「なら。」
少し間。
「焼く。」
船団が動いた。
その頃、正傳院。
龍造寺軍が進んでいた。
納富信景が先頭。
太鼓は鳴らない。
夜襲だからだ。
信景が言う。
「寺を焼く。」
兵が進む。
闇の中。
だが、即席の物見櫓の上。
空海が言った。
「来ましたな。」
龍重。
「短慮じゃ。」
二人は同時に笑った。
その頃、大浦港。
龍造寺軍の兵糧陣が並んでいた。
米俵、兵糧車、火薬箱、鉄砲。
だが警備は薄い。
主力は南へ出ていた。
そこへ闇の海から船が現れた。
希実が言う。
「距離。」
水軍兵。
「五十。」
希実。
「投石。」
船団から石が飛ぶ。
闇を裂く音。
兵糧陣に落ちた。
木箱が砕ける。
悲鳴。
龍朋が叫ぶ。
「火矢!」
矢が降る。
さらに。
「鉄砲!」
火花。
港が混乱する。
龍造寺兵が叫ぶ。
「敵襲!」
港の東。
小隊が動いた。数十人が忍び足。日野兵。
指揮は希実。
「今。」
兵が走る。
見張りを斬る。
火薬箱に油をかける。火が付く。炎が上がる。
港の西。
別の小隊、龍朋の手勢。同じく火。兵糧俵に火が付く。乾いた藁。炎は瞬く間に広がった。
龍造寺兵が叫ぶ。
「兵糧が!」
その時、円城寺美濃守が駆け付ける。龍造寺の守将。
彼は怒鳴る。
「火を消せ! 蹴散らせ!」
兵が動く。
だが、船から矢が降る。
鉄砲が鳴り、石が飛ぶ。
円城寺が槍を振る。
「怯むな!」
その時、石が飛んだ。
鎧の首元に当たる。
円城寺が膝をつく。
「ぐっ……!」
一瞬意識が飛ぶ。
兵が叫ぶ。
「美濃守様!」
円城寺は歯を食いしばった。
「け、消せ!」
だが、炎は止まらない。米俵が燃える。火薬箱が爆ぜる。大浦港の夜空が赤く染まった。
その頃、丘の砦。日野重直が立っていた。
遠く、大浦港に炎。
重直が言う。
「水軍が始めた。」
兵が頷く。
重直。
「では。」
沈黙。
「次は我らだ。」
その頃、正傳院。
龍造寺軍は寺に取り付いていた。
納富信景が叫ぶ。
「押せ!」
その時、誰かの叫び声。
「港の方から炎!」
信景が振り向く。
遠く、炎。夜空が赤い。
信景。
「何だと。」
その時、暗闇より。
一典の大音声が轟く。
「突貫じゃ!」
太鼓。
日野軍が動いた。
寺に潜ませた兵と一典たち精鋭投石兵による挟撃。
龍造寺軍の背後へ。
信景が叫ぶ。
「してやられた!」
本営は正傳院の奇襲返しと大浦港炎上で混乱が広がった。
龍造寺軍は大軍。大軍故、さらに夜の火。
正傳院からも大浦港からも兵たちが逃げてくる。
そこへ砦から大量の火が動き始める。
重直がわざわざ兵に松明を持たせて動き出した。
日野家の圧、混戦。
絶叫と混乱の中、指揮は通らない。
兵が叫ぶ。
「どこが敵だ!」
聞き覚えの無い声も多数聞こえる。
「江里口様、裏切り!」
「円城寺さま、討ち死に!」
「港の兵糧全て焼けた!」
「退き口を抑えられる!」
「敵を押せ!」
日野の間者がいたとしても、誰も気づけないほど、戦場は混沌だった。
その中、一人の男が馬を進めていた。龍造寺隆信、怒鳴るでもなく大声で。
「落ち着け!」
兵が集まる。
隆信。
「固めろ!」
逃げてきた者たちを再編成しようとしたその時、見覚えのある男が飛び出した。
「き、貴様!」
同時に槍で刺される。
津田五郎太重成、日見五家筆頭。隆信の額を石で割り、敵兵に自分の糞を食らわせた勇士。
彼が叫ぶ。
「お命、頂戴!」
隆信が刀で五郎太の槍を切り落とす。
火花。
二人が交差した。
重成が踏み込み脇差を抜く。
鎧の隙間、脇の下。
隆信の体が止まった。
沈黙。
隆信が重成を見る。
そして言った。
「……糞野郎。」
血が流れる。
隆信は息絶える。
周囲が凍りついた。
龍造寺兵、日野兵。
誰も動けない。
その瞬間、叫び声。
「龍造寺隆信打ち取った! 肥前の熊退治じゃ!」
戦場が崩れた。
正傳院。
空海が炎を見ていた。
兵が駆け込む。
「報告!」
「隆信討死!」
空海は一瞬黙った。
そして額を叩く。
「しくじった。」
夜が明ける頃。
大浦の空はまだ赤かった。
港は焼け落ち、煙が海へ流れている。米俵は黒く崩れ、兵糧車は骨のように残っていた。火薬庫の跡ではまだ小さな火がくすぶっている。浜に打ち上げられた船の残骸。
その向こうで、日野水軍の船団が静かに沖へ下がっていた。
龍朋が振り返る。
大浦港は炎の跡だけになっていた。
希実が言う。
「終わりました。」
龍朋は短く頷いた。
「終わったな。」
少し間。
「……やりすぎたか。」
希実は何も言わなかった。
海の上では、もう勝敗は明らかだった。
丘の砦。
日野重直が立っていた。
若い。だが顔は血に濡れている。
初陣だった。
彼の周囲では兵が歓声を上げていた。
「龍造寺隆信討死!」
「熊を仕留めたぞ!」
「勝った!」
歓声は止まらない。
重直は静かに炎を見ていた。
遠く、大浦港。
煙。
そして崩れた龍造寺軍。
副将が言う。
「大勝ですな。」
重直は少し考えた。
「……大勝……か。」
だが声には迷いがあった。
正傳院、寺の庭。
夜の戦が終わり、兵たちが行き交っている。
龍重が庭に立っていた。
報告が入る。
「龍造寺隆信討死。」
沈黙。
龍重はゆっくり顔を上げた。
「……隆信が死んだ?」
誰も答えない。
遠く。
大浦港の煙。
龍重はしばらく黙っていた。
そして言った。
「戦は。」
少し間。
「失敗じゃ。」
周囲の家臣は言葉を失った。
空海が隣に立つ。
二人だけだった。
空海が言う。
「勝ちすぎましたな。」
龍重。
「ああ。」
沈黙。
遠くで兵が歓声を上げている。
空海。
「隆信が生きて帰れば。」
龍重。
「無理をする。」
空海。
「兵を絞る。」
龍重。
「銭を借りる。」
空海。
「家臣が疲れる。」
龍重。
「離反する。」
沈黙。
空海が小さく笑った。
「そこまでが策でしたな。」
龍重。
「ああ。」
少し間。
「だが。」
遠くの煙を見る。
「死んだ。」
空海が言う。
「当主討死。」
「これは危険です。」
龍重。
「家臣団はどうなる。」
空海。
「結束。」
沈黙。
「誰が当主になろうと、まず守りに入る。」
龍重は小さく頷いた。
「そうじゃ。」
少し間。
「挑発しても出てこぬ。」
空海。
「慎重になります。」
龍重。
「つまり。」
沈黙。
「小熊は巣穴で震えたまま。」
空海が言った。
「今回の戦。」
少し間。
「完全勝利。」
龍重。
「大敗北じゃわ。」
その頃、正傳院に向かう道。
重直が歩いていた。
兵が喜び騒いでいる。
重直はそれを見ていた。
しばらくして寺の門。
空海が立っていた。
重直が言う。
「勝ちました。」
空海は重直を見た。
「そう見えるか。」
重直は少し考えた。
遠く、燃える港。
崩れた龍造寺軍。
沈黙。
重直が言う。
「……違和感はあります。」
空海。
「殿は。」
少し間。
「失敗と言っておる。」
重直は驚いた風でもなく。
「なるほど。」
空海。
「隆信が死んだからじゃ。」
重直は考える。しばらく黙った。
そして言った。
「……ああ。」
空海が眉を上げる。
「わかるか。」
重直。
「何となく。」
少し間。
「大勝を目指していなかった。」
空海は笑った。
「大した狐よ。」
重直は言う。
「殿の戦は。」
沈黙。
「合戦での勝利ではない。」
空海。
「そうだ。」
重直。
「流れに制すること。」
空海。
「その通り。」
重直が遠くを見る。
龍造寺軍は散り散りになっていた。
だが、将は完全に崩壊したわけではない。
重直。
「隆信が生きていれば。」
空海。
「復讐に走る。」
重直。
「そして。」
空海。
「家臣はついていけなくなる。」
沈黙。
重直が言った。
「でも。」
少し間。
「死んだ。」
空海。
「ああ。」
空海は静かに言った。
「戦はな。」
少し間。
「五分でいい。」
重直は聞く。
「五分。」
空海。
「六分勝つと。」
少し間。
「敵は死に物狂いになる。」
重直は頷いた。
空海。
「殿はいつも。」
「五一対四九を狙う。」
沈黙。
重直。
「今回は。」
空海。
「九対一だ。」
二人は同時に苦笑した。
その頃、正傳院。
龍重は地図を見ていた。
佐嘉をはじめとした肥前国北部。
沈黙。
空海と重直が戻る。
龍重は言った。
「戦は勝った。」
少し間。
「だが。」
沈黙。
「肥前には手が届きにくうなった。」
誰も言葉を返さない。
龍重が続けた。
「これから龍造寺は守る。」
空海。
「攻めてきません。」
重直。
「慎重になります。」
龍重は頷いた。
「そうじゃ。」
少し間。
「方針を変える。」
空海が聞く。
「どのように。」
龍重は言った。
「今度は。」
沈黙。
「内から崩す。」
夜明けが来ていた。大浦の煙が朝の光に溶けていく。
兵たちはまだ歓声を上げている。大勝利だった。誰の目にも。
だが、その勝利で沸き立つの中、三人だけが痛感した。
大浦攻防戦は大敗北だったことを。
勝ち過ぎはいけません。ほどほどの勝ち方が大切です。




