僕は初デートで浮かれまくるハーレム高校生。
桜さんと別れてから、彼女に引っ張られるような形でデートを再開することとなった。
次に訪れたのはセレクトショップである。ちなみにだが、僕はファッション知識が疎いため、セレクトショップの意味すらもわかっていない。ただ、とりあえず服が沢山並んでいたので、適当に探索することにした。当然ではあるが、明希はレディース方向にいた。流石に付いてはいけない。もしかしたら下着を買う可能性だってある。ないか。いや、あるかも。どっちだろう。もう、忘れてくれ。まだ半分は寝ぼけているんだ。おねむ。
試着などをしたりはしないが手に取ってみる。これはSらしい。Mは売り切れみたいだ。せっかくだし、短パンくらいは購入しておこうかなと思ったが、スパイク費用の為に我慢しておいた。我慢は大切である。先のことを考えて行動していかなくてはならない。大体、ズボンなんていつでも買えるしな。最悪、暑かったら長ズボンの裾をめくって半ズボンにすればいいだけだ。短いパンツを履くとチャラく見えるので、長ズボン裾めくりの方がオシャレだろう。いや……ダサいか。
明希が試着室へと向かっている。僕に「ねぇ似合っている?」と聞いてくることもない。「ねぇ……。私、綺麗?」と口裂け女ばりに質問をぶつけてくることもない。勝手に一人で試着室へと向かって、勝手に着替えて、勝手に購入していくのだ。僕に「この服どう?」と聞いたところでなんのメリットもないということを理解しているのだろう。自分の物差しで選ぶのが一番である。もし僕が「うん。すごい良いよ!」と無責任なことを言ってしまって、後から彼女が「……着てみたらなんか微妙だった」となってしまったら、イヤだろう。僕は嫌だ。セレクトショップに謝りに行きたくなる。土下座をして謝罪したくなる。返品は受け付けないだろうから、着られもしない服を購入させてしまったという贖罪を背負いながら日々を生きる事になってしまう。やっぱり嫌だ。
服に対しての興味はほとんどない。完全にないと言われると嘘になる。ほとんどない、のだ。他人が着ている服装にはある程度注目してしまうし、服の名称等は覚えてはいるのだが、自分が着たいとは思わない。個人的には髪型の方が重要じゃないのかな? と感じる。美容院にはよく行く。散髪は好きだ。でも、洋服屋はたまにしか行かない。それも[友人達と一緒]という限定的な条件があった時だけだ。何故かと問われると、こう答える。『服は選択肢が多すぎるから』と。
そう、服はバリエーションが豊か過ぎるのだ。あまりにも種類が多い。しかも、そこからオリジナリティーを出して、周囲の人間にダサいと思われない格好をしろ、と無理難題まで突き付けられる。ファッション初心者には無茶な要求である。高すぎるハードルだ。それに比べて、美容院は楽である。お金を払えば、基本的に注文した通りの髪型にしてもらえる。ワックスを付けるというアレンジもある程度は必要だが、慣れれば簡単だ。
かの有名なアポォーのスティーブ・ジョブズ氏も毎日同じ服を着ていたという。それは服を統一させて相手の印象に残りたい、というビジネス的要因もあったのかもしれないが、大部分は毎日の決断疲れを防ぐためだとネットの記事には書かれていた。一流の経営者ほど時間を大切にする。イチイチ、どの服を着るとか考える時間が勿体無いのだ。プラダを着た悪魔じゃあるまいし、アパレル関係の仕事をしていなければ、服なんてなんでもいい。大体、就職したらスーツが基本だし。
思うのだが、本当にファッションに興味がない人というのは服の名称すらも覚えていないんじゃないだろうか。例えばズボンやTシャツなどは誰にでもわかる。パーカーやジーンズも大半の人はわかるだろう。じゃあ、カットソー並びにブラウスは? ほら、途端に難しくなった。ファッションに興味がなければ、この辺りからイメージが掴めなくなってしまう。多分、洋服に対しての興味関心が皆無に等しい人はコーディネートという言葉すらも「?」と感じると思う。横文字で喋るなと怒られそうだ。なので、一つ提案がある。例えば、こういうのはどうだろうか。自分がよく着る紺のTシャツ、黄色のズボン、赤の靴下の組み合わせがあったとして、これをそのまま【紺、黄、赤】と色で呼んでみるのだ。そうすれば服に愛着が湧くだろう。赤良いなぁーとか、黄色イカすなぁーとか、なる。ならないか。なら、次はもっと崩してみよう。今度は【信号機】と呼んでみようか。ほら、面白くなっただろ? 更に崩してみて【よく着る服Aスタイル】もいいかもしれない。このようにして、自分達でファッションを面白がる習慣を作ってしまえば、服に興味が出たりすると思うんだ。「あー、今日は服Aと服Bを組み合わせたCスタイルでいこうかな」「いやでもなぁー、普段と同じだし……。靴だけはFでもいいかもなー」とこういう具合に。うん、完璧だな。ここまで来たら服に興味を持つことは間違いない。はい、長話は終わり。で、明希はどこへ行ったんだ? え、もう買い終えたって!? 早っ!
彼女に続いて、僕もお店を出る。
※ ※ ※ ※ ※
「パパ、おんぶしてー? 歩くのつかれた」
「こら明希。こんな人前でできるわけないだろう? 帰るまで我慢しなさい」
「えー! やだー! おんぶしたいー! おーんーぶー!」
「まったく……しょうがない子だ。ちょっとだけだぞ?」
「やったー!」
ショッピングに飽きた僕たちはそんな遊びをしながらぶらぶらと歩いている。周囲の目など気にせずに、駅のホームで無言で抱き合うカップルのように、イチャついている。
さっきから何をやっているのかと聞かれると、これは明希がやろうと提案した演技ごっこだ。リアルおままごと、とも言う。
設定を決めて、それに沿って演技をするというもの。即興でやるコントみたいなものだ。勿論、全てアドリブである。
ちなみにこれは【甘える子供とそのお父さん】という設定の演技。仕事が忙しくて家族サービスがあまり出来ていない父親に、ついつい甘えてしまう愛らしい娘を描いた作品である。是非、映画化してほしい。
「ふむふむ。流石はガッキー、上出来だ!じゃ、次! 【口数は少ないが、想いは伝わってるよカップル】──いってみようかッ!」
顎に触れながら、指を鳴らして、まるでどこかの演技指導の先生のように明希は言う。
「オーケー。わかったよ、アキ」
僕も両手を広げて、うんうんと頷く。洋画でありそうな演技の真似をしつつ、ゴホンと一つ咳払い。
と、同時に明希が真顔になった。演技スタートらしい。
レッツ、アクション!
カメラを止めるな!
「……ねぇ、もう三年になるね」
「……あぁ」
「……長いね」
「……そう、だな」
「……何か言ってよ」
「……」
「……ばか」
「……わかってるって」
「……大好き」
「……僕もだ」
「……」「///」
「…………」「//////」
「………………」「/////////」
って、何だこれはッ!? 恥ずかし過ぎじゃないか! なんなんだ、本当! なにをやらすんじゃ! バカか!? バカなのか!? バカは僕だ! バカァァァアアアッーーー!!!
……ふぅ。
とりあえず落ち着こう。これはただのお遊びなのだ。ちょっとキュンキュンしちゃって、ドキがムネムネして、トキメキがメモリアルしてしまったことは気にしないでおく。※この物語はフィクションです。
僕は無性に恥ずかしくて、思わず目線を逸らしてしまったが、一方の彼女は平気そうにこちらを覗き込んでいた。メンタルがフライパンと化している。
「ひゃっはは! いいね、コレ!ガッキー、サイコー! あたしはシュージン! 二人合わせて亜城木夢叶!」
無茶苦茶なフリだったが、どうやらご期待に応えられたらしい。よかったよかった。
しかし、なんだ。桜さんに言われた事すらも忘れるくらいにデートを満喫しているな。こんなの本物のカップルみたいじゃないか。
……流石に、浮かれすぎているぞ。
※ ※ ※ ※ ※
時刻が15時半を過ぎて、僕らはゲームセンターへと移動した。そこでも、体力が無限にある彼女に付き合いながら、様々なゲームをこなしたものである。
アーケードゲームで競争をしたり、太鼓の鉄人(別名:てっちゃん)でスコアを競いあったりと、今度は知り合いに会うことなく、遊び回った。
その中でも特に盛り上がったのが、エアホッケーである。
流石に女の子相手だと手加減をするのが普通なのだが、明希の場合はそういう訳にはいかなかった。彼女は俄然本気のようで、人差し指をクイッと曲げて、僕に宣戦布告をしてきたのである。
「……おいおい、新垣ィ。てめェの実力はその程度か? ハッ、舐めてもらっちゃァ困るぜ? 女だからと言って油断していたら、痛い目見るかもしんねェってのによォ〜?」
まるで野蛮な女戦士のような台詞を吐いている彼女。正直言って、舐めていたのは事実だ。流石は“ゲーセンの女王”を自称するだけある。実力は中々のものだな。
だが、しかし、それも此処まで……!!
「減らず口はその辺にしておけよ、小娘。本気を出せば、お前などひと捻りだ。さて、続きといこう。ーー準備はいいな?」
「───上等だァ! 最高の戦を始めようぜッ」
ちなみにこの最高の戦だが、あっさりと決着がついた。勝者は当然ながら僕である。あまりにも圧勝してしまって、逆に申し訳なくなった僕である。だが、彼女は意外にも満足そうだった。
「最後の方は……多少……いい人生であったよ……」
どこかで聞いた事のあるような台詞を呟いて、明希はその場に膝を折る。勝ったのは僕なのに、なんか負けた気分になったのを覚えている。
× × ×
「これ可愛い!誰か取ってくれないかなぁ」
明希が、チラッと横目で煽りながら、クレーンゲームの商品を見つめている。目先にあるのは蜂蜜を持ったクマのぬいぐるみ。
「……ったくしょうがないな」
頭を掻きながら、百円玉を投入する。おいおい、僕を誰だと思っているんだ。
GAME of MASTERS、新垣 善一だぞ?
レバーを上下左右に操作しながら、アームを動かす。この手のゲームは宗や渚とよくやっていたので慣れてはいた。
アームが商品を掴む。コイツの握力に期待はしていないが、最後まで運んでくれることを願おう。
「よーし」
僕の願いは届いたみたいで、アームは上手く商品を排出口まで運んできてくれた。ふっ、完璧だな。敗北を知りたい。
「はい、取れたよ」
「おぉ……!! お主はプロじゃ!」
お主ぃ!?
明希が目を輝かせて、僕のあげたクマちゃんを両手に抱き抱える。なんだか、娘にプレゼントをするお父さんの気分である。
「ありがとっ! 大切にするね」
素直にお礼を言う僕の娘。子供って成長早いんだよな……。いかん、涙出てきそうだ……。僕も歳だなぁ……。
※ ※ ※ ※ ※
「いやぁ~、歌った歌ったー! ガッキー歌上手いよね~! ウェーイ!」
「そういう、アッキーだって綺麗な声だったと思うぞ! イェーイ!」
テンションアゲアゲの僕ら。カラオケを終えて、お店の外に出る。二時間ちょっと歌いきった。今は既に18時を回っている。
「ガッキーって、槇原海苔巻きとバンプ好きなんだね? なんだか、おっさんみたいー」
「えぇ……そうかな」
指摘をされると困惑する。渋めのチョイスをしたつもりはないが、もしかしたら古かったかもしれない。もっと玄米胞子とか練習しておけば良かった……!
「そういうアッキーはアイドル曲ばかり歌っていたな。好きなのか? アイドル」
「好きよー。頑張る女の子って、なんかキラキラしてて、ステキじゃん? つい応援したくなるっていうかさ!」
「言われてみれば確かに」
同意しつつ、彼女は無意識にアイドルと自分を重ねているのではないかと少し思ってしまった。アッキーもまた頑張り屋さんだ。キラキラと輝いている。ハゲダニ高校サッカー部のアイドルと言っても過言ではない。
お会計を済ませて、早足で歩き出す。時間的にも次が最後のデート場所だろう。
「どこか行きたいお店ある?」
「えっとねー、サイゼがいい!」
「了解」
× × ×
本日最後のデートスポット、サイゼイヤに到着する。ここはお得な値段でイタリア料理を味わう事のできるファミリーレストランだ。
休日の18時頃だからか、店内は満席だった。明希が名前を書いて待つ事を選んだので、僕もそれに付き合う事にした。
しばらくして、受付係の店員さんが呼びかける。
「お待ちの【サイヤ人の王ベジータ】様ー!」
あー……いるよな。順番待ちで変な名前を書いちゃう人。昔、宗がやってたな。こういうのあまりよくないぞ。悪ふざけが過ぎる。
「【サイヤ人の王ベジータ】様ー!」
何度も呼びかけるが、ベジータは現れなかった。ならばと、店員さんは次の名前を読み上げる。
「いらっしゃいませんか? では、1名でお待ちの【DIO】様は……」
WRYYYYYYYYYYYYYY!!!! サイゼのパスタは最高に”ウマい”!ってやつだァァァアアアアア!!!!
「【DIO】様、いらっしゃいませんか!?」
……。
なんだろう。さっきから強烈なネーミングが多すぎる気がする。しかも、名前を呼ばれた方はまたしても現れなかった。姿を消すスタンド使いだろうか。いや、これイタズラ書きだけを残して帰ったパターンじゃないのか? うわ、タチが悪い……。
「で、では! 次のお客様」
おっ、次は順番的に僕らかな。
少し苛ついているご様子の店員さんが予約シートの紙をめくる。流石の明希でも前者二組のノリに続いて、大喜利大会ばりのボケをかますことはないだろう。中学生じゃないんだから。
「それでは、次は【ラブラブカップル、ガッキー&アッキー。マジで純愛、神】様。いらっしゃいますか!」
……う、うん?
何だろう。聞き間違いだろうか。なんか物凄いネーミングが聞こえたぞ。なんだか、プリクラの落書きにありそうな、そんな名前が呼ばれた気が……。
「【ラブラブカップル、ガッキー&アッキー。マジで純愛、神】様。いらっしゃいませんかぁ!?」
三度目だからか、声も大きくなる店員さん。肩が震えている。
「~~♪」
隣を見ると、彼女は目をそらしたまま、わざとらしく口笛を吹いていた。こ、こいつ。
「ラブラブカップル、ガッキー&アッキー」
「……すいません、僕らです」
しぶしぶ立ち上がる。冷たく死んだような目で見つめる店員さんに、僕は小さく謝ることしかできなかった。




