73 ブサイリッシュ防具屋 糸尾3
ゆっくりと戸を開いてお店の中へ視線を移します。
えーと……。
一言で表すとここは『ワビサビ』で全開です!
薄暗い店内。
割れたランプには灯はなく、中央にはひび割れたちょっと埃っぽいショーケース。
おそらくその中に布の服があるような気もしますが、曇っており中身が良く見えません。
しばらくするとスーツ姿の男性が椅子から立ち上がり、手を胸に当てて丁寧にお辞儀されました。
「いらっしゃいませ。防具屋のオーナー、糸尾です」
「あ、は、初めまして! シェリィです」とぺこり。
あー。
ドキドキするな。
勇気を出して顔を上げました。
想像していたイメージとはわりと違うのですが、それだけに親近感を覚えます。
七三に分けたヘアスタイルで黒縁の眼鏡、細身でスタイリッシュなスーツ、ちょっとお腹が気になりますが、それは仕事を頑張っている証。優れた商人ともなればお付き合いも多いでしょうし。
「シェリィ様、あなたはドワーフですね」
キタッ。
糸尾さんは千手以上先まで読む、物凄い洞察力があるという噂です。
ドワーフではなくて、ノームなんだけ、まぁ近いと言えば近いか。
間違うと怒るノームも多いけど……
「あ、はい。そんな感じです。どうして分かったんですか?」
「小柄で耳が尖っているからです。最初はホビットかなと思いましたが、あなたはわたくしの自己紹介に対して名前を名乗られました。ホビットでしたら冒険に出ないので、わたくしが防具屋であると知ると、あ、お店を間違えましたと言って出て行かれるハズですから」
ホビットは冒険に出ない?
そうなの?
うーん……。
どうどうと断言されたら、そんなような気もするような。
「あ、あのぉ。布の服を買いたいのですが……」
「ありがとうございます。実はわたくし、一日、3人のお客様にしかお売りしないように決めております」
キタ。
丁寧な個別対応の戦術指南を用意しているから、3人しか売れないのですよね?
私、予習はバッチリですから。
「私で何人目ですか?」
「4人目になります」
ガーン。
アイゼンハードに着いた後、休憩しなければよかった……。
しょぼんとしている私に、糸尾さんが近づいてこられます。
「ですが、通常5ゴールドで販売しているのですが、10倍の金額……、50ゴールドをお支払いいただければ、特別に明日の販売枠を本日に回すことができます」
「ほ、本当ですか!」
「はい。わたくしは嘘を申しません。わたくしの発言は100%的中します」




