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スタイリッシュ武器屋  作者: 弘松 涼


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74 イトーさんを探せ

 5ゴールドが貯まった。


 これで、イトーさんから何かを買える。

 あとはお店へ行くだけだ。


「よし!」


 私は顔を上げた。


 右には倉庫。

 左にも倉庫。

 前には、さっきの爆発で飛び散った木箱の破片。


「それで、イトーさんのお店はどこ?」


 聞こうとしたけれど、おじさんたちはもういない。

 私を置いて逃げてしまった。


「もう。案内してくれるって言ったのに」


 仕方ない。

 自分で探そう。



 人の声がする方へ歩いていくと、にぎやかな大通りへ戻ることができた。


 道の両側には、数え切れないほどの店が並んでいる。

 でも、どれがイトーさんのお店なのかは分からない。


 こういうときは、人に聞けばいい。


 私は果物を並べていたおばさんに声をかけた。


「すっごい錬金術師の大先生を知りませんか?」

「名前は?」


「イトーさんです。大賢者様にも先生と呼ばれていて、予言もできます」

「錬金術師なのか、賢者なのか、予言者なのか、どれなんだい?」


「全部です!」

「そんな人がいたら、この町じゃ有名だと思うけどねぇ」


「やっぱり有名なんですね!」

「いたらね」


 おばさんは苦笑いを浮かべた。


「錬金術師なら、薬屋通りへ行ってみたらどうだい?」

「ありがとうございます!」



 おばさんに道を教えてもらい、薬屋通りへ向かった。


 薬屋通りには、薬草や瓶を並べた店がたくさんあった。

 こうなったら一軒ずつ聞いてみるか。

 

「あのぉ、すっごい錬金術師の大先生を知りませんか?」


「知らないねぇ」

「ほかを当たってくれ」

「うちの薬を買わないなら帰った、帰った」


 誰も知らなかった。


 おかしい。


 あ。

 思い出した。

 イトーさんは、お店をやっている!

 これを聞くのを忘れていた。


「教えてください」


 薬草を束ねていたおじさんが、面倒そうに顔を上げた。


「何を?」

「イトーさんは、お店をやっています! どこでやっていますか?」


「は?」

「あ、えーと」


「言いたいことは分かった。店をやっている、イトーって奴を探しているんだな」

「すっごい! おじさん、予言者?」


「ただの薬草屋だ。で、何を売っている店だ?」

「分かりません」


「店の名前は?」

「分かりません」


「場所は?」

「それを聞いています」


「ふぅ。よくそれで探しに来たな」


 いや。なんていうか。

 今更ながら私も、ちょっとそう思う。


「でも、武器にすごい錬金術を施しているそうです」

「武器? だったら武器屋ストリートじゃないのか?」


「なるほど! どこそこ?」


 薬屋のおじさんに道を教えてもらい、今度は武器屋ストリートへ向かった。



 そこには、剣や槍を飾った店がずらりと並んでいた。

 店の前では、冒険者たちが武器を振ったり、店員と値段を話し合ったりしている。


 ここなら知っている人がいるはずだ。

 剣を磨いていた店主に声をかけてみた。


「イトーさんのお店はどこですか?」


「イトー? そんな名前の奴はいっぱいいるからな。どんな店だ?」

「選ばれし3人です」


「え? なんだそりゃ。ほかには?」

「魔王お断りです」


「うちだって魔王は断る」

「大金を持ってきても駄目なんですよ」


「命の方が大事だからな」


 あれ。

 あまり驚いてくれない。


「それから、真心のこもった5ゴールドしか受け取りません」

「何を売ってるんだ?」


「分かりません」

「帰れ」



 追い出された。



 それからも、道行く人へ聞いて回った。


「すっごい錬金術師の大先生を知りませんか?」

「知らない」


「大賢者様にも先生と呼ばれています」

「知らない」


「未来も読めます」

「占い横丁なら向こうだよ」


「すごい戦術指南です」

「道場はあっちだ」


 道端にしゃがみこんで、メモ用紙をがん見した。

 

 魔王お断り。

 真心の5ゴールド。

 すごい戦術指南。

 すべての言葉に深い意味がある。

 そして予言者。

 

 これだけ手がかりがあるのに、どうしてたどり着けないんだろう。

 でも、ひとつだけ分かった。

 イトーさんは絶対に正体を隠している。

 そうでないと説明がつかない。

 生ける伝説ってやつか。

 さすが、噂の大先生。

 

 でも、諦めるもんか。

 絶対に見つけてみせる!



「すっごい錬金術師の大先生、イトーさんを知りませんか!」


 何人目かも分からなくなったころ、通りの端で鎧を修理していたおじさんが顔を上げた。


「イトー?」

「はい!」


「糸尾なら知ってるぞ」

「本当!?」


「東の裏通りで、防具屋をやってる」

「防具? 錬金術師の大賢者で、魔王お断りの5ゴールドの人だよ?」


「なんじゃそりゃ? 糸尾はただの防具職人だ。客もほとんど来てねぇ」

「ふふふ、やはり」


「本当にそいつなのか? 糸尾防具店だぞ。しかもボロい」

「そこです! 絶対にそうです。きっと正体を隠しているんです」


「あんたが言っていた大賢者でも予言者でもないと思うが」

「全部隠しています」


「なんで隠すんだよ」


 ふふふ。

 分かっていますよ。


 きっと、このおじさんはイトーさんのお眼鏡にかなわなかったんだ。

 だから、本当の力を教えてもらえなかった。

 かわいそうに。


「おい、行くのか? 客もほとんど来ない、寂れた店だぞ?」


 あなたにはそうみえるのです。

 私にはわかる。

 

 ついに、手がかりをつかんだ。


 私はおじさんに何度もお礼を言い、教えてもらった道を走った。



 うれしくて、ついスキップしてしまう。

 私はそのまま大通りを外れ、細い路地へ入った。

 立派な店は少しずつ減り、古びた建物が増えていった。


 右へ曲がる。

 赤い屋根の家で左へ曲がる。

 小さな井戸を通り過ぎる。


 その先に、一軒の店があった。


 人通りの少ない裏通り。

 曇った窓。

 壁にはひびが入り、扉の前には落ち葉が積もっている。


 客の姿はない。


 聞いていた話と、ぴったり合っている。


 古びた看板に、大きな文字が並んでいた。


『糸尾防具店』


「うわ、漢字か……」


 でも、私はこんなこともあろうかと思い、かねてから人間の文字もけっこう勉強してきた。

 ポケットから辞書を取り出し、看板と見比べる。


「この字は……糸。いと」


 次の字を調べる。


「尾。お」


 糸。

 尾。


 つなげると――。


「イトー! あったーーーー!」


 間違いない。

 ここが、伝説の錬金術師イトーさんのお店だ。


 私はポケットからメモを取り出した。


 イトー。

 すごい。

 すごい。

 すごい。

 全部すごい。


 1日3人。

 魔王お断り。

 真心のお金しか受け取らない。

 すごい戦術指南。

 すべて深い意味がある。

 予言者。


 何度も読み返した。

 しっかり予習もした。


「大丈夫。完璧!」


 私は5ゴールドを握りしめた。


 胸が、どきどきする。

 この扉の向こうに、伝説の錬金術師がいる。


 深く息を吸う。


「よし!」


 私は覚悟を決め、店の扉を開いた。

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