71 ブサイリッシュ防具屋 糸尾1
ノームの森しか知らない私にとって、アイゼンハードまでの道のりは決してやさしいものではありませんでした。
ノームの賢者様が機嫌の良い時にくださった『賢者の地図』を頼りに、北へ北へと進みました。
なんかわりと間違っているような気もしますが、それは私が地図を見る力がないせいだと思いながら、険しい山道や谷間を進んでいきました。
時折、すれ違う冒険者さんや馬車を引いた行商のおじさんに、道を確認してもらいながらドンドン歩きました。
植物の知識はそれなりに自信があるので、食べ物はそれほど困りませんでしたが、時折現れるゴブリンやオークはとても恐ろしかったです。
体が小さいのが救いでした。
急いで自作の『臭い消し』を全身にふりかけると、背の高い草むらに身を隠し、息を殺してなんとかやり過ごしました。気合を入れると姿を消せるのですが、緊張すると簡単に解けてしまうので、このやり方の方が確実です。
そしてようやく見えてきました。
あれがアイゼンハード!?
見上げる程高い城壁に圧倒されます。
たくましい体つきで強面の門番さんに、槍で道を塞がれました。
ここまでの道中で出会った冒険者さんに、冒険者ライセンス、もしくは商人ライセンスがない場合、入国審査があると聞いていましたので、心構えはできています。
悪ことをしに来ているのではないのですから、自信を持って胸を張ります。
おどおどしていた方が怪しまれると、前知識も十分。
ですが、ぶっちゃけ、ものすごく緊張しております。
「おい、あんたはどこから来た?」
キタ!
おちついて、私。
「あわわ……、わ、わ、わ私は遥か南のノ、ノ……ノームの森、ブライサルクから……、や、やってきまちた」
「きまちた? ノーム族の方言か?」
噛んだだけすが、「ひゃい」とカクカク首を縦に振ります。
「で、目的は?」
「え、え、えーと、買いものに来ましゅた……」
「来まちゅた? そうか。具体的に何を買うつもりだ?」
「ぬぬ布の服を、か、か、買いに、きましゅた」
「布の服?? だと?? わざわざブライサルクからか??」
門番さんにマジマジと見つめられると、更に緊張が加速します。
「ひゃっ、ひゃい」と首を縦にカクカク。
「ノーム族は手先が器用という噂だから、ブライサルクの方がもっと良いものがありそうなものだが。……まぁいいか。例え安価な買い物といえど、アイゼンハードの経済が潤うのだから」
そう言うと、通せんぼしていた槍を持ち上げてくれました。
「入っても、よ、よ、よろちいのでしゅか?」
「ああ、もちろん! ようこそ、アイゼンハードへ!」
と、強面のおじさまがにっこり。
ふぅ。
なんとか、アイゼンハードまでやってきたよ!
さて、適当な場所で一休みしたら、スタイリッシュ防具屋さんの糸尾さんを探しましょうか。




