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スタイリッシュ武器屋  作者: 弘松 涼


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70/78

70 爆弾娘シェリィ

本話より更新再開です。


旧版の第70話以降は、物語を大きく再構成し、新しいシェリィ編として書き直しています。

第69話も一部改稿しています。よろしくお願いいたします。

 ここはノームの里、ルクルクル。

 樹齢千年を超える大樹の根元に、小さな家や工房が並ぶ、静かで豊かな里だよ。


「人間は馬鹿じゃ。同じ薬草でも、綺麗な瓶へ入れれば10倍で買う」

「だったら瓶をもっとピカピカに磨いて、100倍で売ればいいじゃないか」

「お前らは加減を知らんのか」


 今日も共同工房では、ノームたちが薬を瓶に詰め、布を染め、魔法石を磨きながら、人間相手の商売について話し合っていた。


 ノームは体が小さく、力も弱く、魔法もそれほど得意じゃない。

 その代わり、土や石、草木に眠る性質を見つけ出すことに長けている。

 その辺に生えている草を傷薬にしたり、道端の石を魔法石にしたり。一見すると何の役にも立たないガラクタまで、便利な道具に変えてしまう。


 それが、私たちノームに代々受け継がれてきた力――錬金術。

 そしてこの里では、料理や裁縫と同じくらい当たり前のことだった。

 

 商売の話はまだ続いていた。

 共同工房のあちこちから、好き勝手な声が飛ぶ。


「それにしても、人間はちょろいな」

「エルフはその次にちょろい。綺麗な瓶へ入れれば、鼻くそでも買いよる」

「ドワーフは文句が多い」

「売るなら人間かエルフだな。あとはゴミだ」


 私は聞いていられなくなって、口を挟んだ。


「またそんなこと言って。いつか罰が当たるよ」

「馬鹿者。これは商売の知恵じゃ」


 里長のボネットさんが、長い白ひげを撫でながら私を見た。

 深緑色のとんがり帽子と丸眼鏡が目印の、里一番の物知り爺さんだ。


 ちなみに、白ひげの先が少し焦げているのは、たぶん私のせいです。

 

 そうそう、私の名前はシェリィ。

 この里に住む、将来有望な錬金術師です。


 緑色の髪を後ろで束ね、額には大きな防護眼鏡。大きなポケットがたくさんついた、ぶかぶかの作業着を着ている。

 ポケットの中には薬草、石ころ、空き瓶、ネジ、火トカゲの尻尾、それから自分でも何を入れたのか分からないものが詰まっている。


 全部、いつか役に立つ材料です。

 たぶん。


「おい、シェリィ。それはなんじゃ」


 私が大きな瓶を作業台へ置くと、工房にいたノームたちが一斉に手を止めた。


「今日、売りに出す商品よ」

「それはまともなものか?」

「まともってなによ」

「爆発せんか?」


「は? ただの万能薬よ。薬草がどうして爆発するのよ」


 失礼な話ね。

 これまでに何度か工房を爆発させたからって。


「万能薬じゃと?」

「切り傷、火傷、腹痛、肩こり、二日酔い。だいたいなんでも治るよ」

「成分は?」

「まんまる薬草と、癒やし苔」


 1人のノームが、作りかけの薬を抱えて工房から出ていった。


「それから火トカゲの尻尾」


 あれ?

 2人いなくなった。

 まあいいか。


「氷キノコの笠」


 さらに3人、染料と布を持っていなくなった。


「最後に月光石の粉をひとつまみ」


 気がつくと、工房には私とボネットさんしか残っていなかった。


「みんな、どうしたの?」

「避難したんじゃ」

「どうして?」

「お前は本当に何も分かっておらんな」


 コトン。


 瓶が小さく跳ねた。


 コトコトコトコト。


 中の薬が紫色に変わり、泡が瓶の口まで膨らんでいく。


「おい、シェリィ!」

「大丈夫。これは薬の力が高まってるだけで――」


 どっかーん!


 共同工房の屋根が吹き飛んだ。

 しばらくして煙が晴れると、私は真っ黒な姿で立っていた。


 頬に少しだけ傷ができている。

 床に転がっていた瓶の底には、薬が一さじほど残っていた。

 私は指ですくい、傷へ塗ってみた。


 すると傷は光に包まれ、跡形もなく消えた。


 万能薬は成功だ。

 やっぱり私は天才だったのです。


「ほら見て! 完璧」

「どこが完璧なんじゃ! なぜ薬が爆発する!?」


「そこはちょっと予定と違ったけど、傷は治ったよ」

「爆発で傷を作って、自分の薬で治してどうするんじゃ!」


「でも治るよ?」

「で、こんなもの誰が使うんじゃ」


「……丈夫な人?」

「薬を使う前提がおかしいわ!」


 ボネットさんが、壊れた工房を指さした。


「それより、こっちはどうするんじゃ?」


 私は辺りを見回した。


 床には割れた薬瓶、燃えた布、砕けた魔法石、黒い染料が散らばっている。

 どれも里のみんなが今日一日かけて作り、明日の朝、人間の商人へ売るはずだった商品だ。


 工房の外には、煤まみれになったノームたちが立っている。

 みんな、自分の商品の残骸を抱えていた。


「……ごめんなさい」


 さっきまでの喜びが、一気にしぼんだ。


「もう我慢ならん! シェリィ!」

「はい」

「お前は破門じゃぁぁぁぁぁ!」


 

 *



 その日の夕方。

 私は大樹の根元に座り、真っ黒になった膝を抱えていた。


「破門かぁ……」


「もう錬金術はやめんか?」


 顔を上げると、ボネットさんが立っていた。


「いきなりひどくない?」

「お前の方がひどい。作ったものが、高確率で爆発するからのぉ」


「なんでだろ?」

「知るか。作ったのはお前じゃ」


 この人は私に追い打ちをするためにきたのか。はぁ。


「じゃがな。お前には錬金術以外にも、三つほど才能がある」

「え?」


 私は少しだけ顔を上げた。


「ひとつ。あれだけ人様の工房を爆破しておきながら、たいして反省しておらん図太さ」

「なんだよ。反省してるよ!」


「破門されても、わりとけろっとしておるじゃろ」

「してないよ! ものすごくしょぼくれてるところだよ!」


「ふたつ。爆発の中心におったのに、煤まみれで立っておる頑丈さ」

「それ、才能なの?」


「普通なら死ぬ。下手な冒険者よりよほど丈夫じゃ」

「もういい。どうせ三つ目も、才能がないことに気づかない才能とか、そういう悪口でしょ」


「いや、三つ目は――」

「聞きたくない!」


 私は立ち上がった。


「では、錬金術はやめるか?」

「やめない」


「破門されてもか?」

「絶対にやめない」


「工房を吹き飛ばしてもか?」

「次は吹き飛ばさない」


「今日もそう言っておったじゃろ」

「次の次は吹き飛ばさない!」

「1回増えとるではないか」


 ボネットさんは深いため息をついた。


「どうしてもやめる気はないようじゃな」


 ボネットさんは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「そういえば以前、里へ来た人間の商人から、妙な話を聞いたことがある」

「妙な話?」


「アイゼンハードという町に、不思議な武器商人がおるそうじゃ」


 あいぜんはーど?

 あー、確か人間の住処だっけ?


「名は伊藤」

「イトー?」


「そうじゃ。不思議な武器屋をやっておる。どういうわけか客はほとんど来んらしいが、売っている武器がすさまじいのじゃ」


「客が来ないのに、すごい。メモしなきゃ」

「そうじゃ。気になることはメモを取るとよい」


 めもめも。

 

「どうも店で売っているひのきの棒が、くっついたり離れたりするそうじゃ。あれはおそらく、かなり熟練した錬金術を施しておる。そうでなければ説明がつかん」


 錬金術。

 めもめも。


「しかも1本、5ゴールドなんじゃ」


 めもめも。


「どうも話によると、伊藤氏の店へ通って大成功した者が跡を絶たないとか。そういえば、大僧侶の珍念様を覚えておるか?」

「うん。里が大雨のときに橋を直してくれた、立派なお坊様」


「珍念様も伊藤氏の弟子じゃ」

「えー。そうなの。珍念様のお師匠様!?」


「そうじゃ! どうしても錬金術を続けるというのなら、その方に教わってみい」

「こんなところにいる場合ではない。ここでは誰も私の才能を見出してくれない」


「お、おい! まあよいか。ちゃんとメモは取ったか?」


 私はニカッと笑って、書き留めたメモ用紙をボネットさんに見せた。


 イトー。

 店をやっている。

 錬金術師。

 客がほとんど来ない。

 5ゴールド。


「そんな箇条書きで分かるんか? ちょっとわしに伊藤氏のことを説明してみぃ」


「うん、すっごい錬金術師のイトーさんが、客が来ない店をやっていて……ええと、5ゴールド。この人に弟子入りしたら、すごくなる!」


 ボネットさんは長い白ひげを撫でながら、なんかむつかしい顔をした。


「まあ……だいたい合っておるか」

「でしょ!」


「これを持っていけ。餞別じゃ」


 ボネットさんは、小さな硬貨を2枚差し出した。


「これは人間界で使える金じゃ。2枚で10ゴールドある」

「ありがとうございます!」



 それから私は家に戻り、リュックにあれこれ詰めた。


 里のみんなは、私の旅立ちを大いに喜んでくれた。

 干しパン、木の実、薬草、それから使い道の分からないガラクタを、私の大きなポケットが膨らむほど詰めてくれた。


「もう帰ってくるなよ」

「次は外で爆発させろよ」


 少しだけ言い方が気になる。

 でも、みんなが笑っていたので、私も笑い返した。


「さらばじゃ、シェリィ!」

「行ってきます!」

「南じゃぞ! そっちは北じゃ!」

「分かってるよ!」


 一度引き返した私は、改めて南へ向かった。


 いざ、アイゼンハードへ。

 そして、伝説の錬金術師イトーのもとへ。

 

 いけ、シェリィ!

 

 目指すは、圧倒的な錬金術師!


名 前:シェリィ

種 族:ノーム

クラス:錬金術師(破門)

通 称:爆弾娘

レベル:1

H P:35

所持金:10G

目的地:アイゼンハード

目 的:伝説の錬金術師イトーに弟子入りする(予定)


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― 新着の感想 ―
タイトル回収して6年も経ったらもう完結したようなもんなのかなって思いましたが。また続き読めるのが本当に嬉しいです。
また読むことができて嬉しい。
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