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制御者の令嬢は隣国の大魔導士に溺愛される  作者: まる
第一章 さよなら

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第三話 目撃

ザイル・ヴェルナードは動かなかった。

正確には、動けなかった。

アルテミア筆頭魔導士として、彼が他国の王族の行為に介入する権限はない。外交の場で単独行動を取れば、両国間の問題になる。頭ではわかっていた。

わかっていても、石畳に倒れたあの女性から目が離せなかった。

式典が始まった瞬間から、ザイルは彼女に気づいていた。

理由は単純だ。自分の魔力が、静まったのだ。

ザイルの魔力は常に制御の限界近くで揺れている。意識しているときでさえ滲み出るそれは、周囲の人間の魔力回路に干渉し、軽微なものでは頭痛や倦怠感、最悪の場合は意識喪失を引き起こす。幼い頃からそれに苦しめられてきた彼は、人との物理的距離を常に意識して生きてきた。

しかし今日、来賓席に着いた瞬間から、その重みが消えた。

水面のように揺れていた魔力が、波ひとつなく凪いだのだ。

原因を探して視線を巡らせた先に、深紅の髪の令嬢がいた。

座っているだけで、何もしていない。ただそこにいるだけで、彼女はザイルの魔力を完璧に整えていた。

婚約者がいる。

それがわかった瞬間に、ザイルは目を逸らした。

そして今、その令嬢が石畳に倒れている。

ザイルは拳を膝の上で握った。外交官が隣で「大変な騒ぎになりましたな」と何事かを囁いているが、言葉が入ってこない。

倒れたルミナの周囲は、空白地帯になっていた。助け起こそうとする者がいない。来賓も市民も、ただ見ているだけだ。

「……一つ確認させてください」

ザイルは隣の外交官に静かに言った。

「あの令嬢の婚約は、今、破棄されましたね」

「は、はあ……そのようで」

「ならば」

ザイルは立ち上がった。

使節団の中から動くことへの制止の声が上がったが、彼は歩みを止めなかった。来賓席から広場の中央へ。人垣が自然に割れる。それが威圧なのか魔力のせいなのか、今のザイルにはどうでもよかった。

倒れているルミナの前に、彼はしゃがんだ。

翡翠色の瞳が、驚いたように見上げてきた。

頬が赤かった。痛みをこらえていることは、微かに震える唇でわかった。それでも彼女は泣いていなかった。

「立てますか」

ザイルは手を差し伸べた。

ルミナがその手を見つめる。

「……あなたは」

「ザイル・ヴェルナード。アルテミア王国の魔導士です」

「なぜ」

「婚約が破棄されたのなら、あなたは今、誰のモノでもない」

ザイルは穏やかに、しかし明確に言った。

「では私が手を貸しても、問題はないでしょう」

ルミナは数秒、その手を見つめていた。

やがて、その手をゆっくりと握った。

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