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制御者の令嬢は隣国の大魔導士に溺愛される  作者: まる
第一章 さよなら

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第二話 式典

王都の大広場は、春の陽光の下で華やかに彩られていた。

エルカリナ王国とアルテミア王国の友好条約締結十周年を記念する式典。来賓には各国の貴族、外交官、そして一般市民までが集い、広場の周囲には人垣ができていた。壇上には国王夫妻、そして第一王子と第二王子の姿がある。

ルミナは来賓席の一角に座り、整然とした所作で式典を見守っていた。

「魔法が使えない令嬢がよくも堂々と」

隣の席から聞こえてくる囁き声は、今に始まったことではない。ルミナは表情を動かさず、視線を壇上に向け続けた。

テオ王子は今日も美しかった。金色の髪、整った顔立ち、王族らしい威風。しかし今朝の謁見の場で、彼はルミナの目を一度も見なかった。それもまた、今に始まったことではない。

来賓席の最前列、アルテミア使節団の一角に、ひときわ目を引く人物がいた。

漆黒の髪。切れ長の銀灰色の瞳。深い藍色の礼装を纏い、微動だにせず式典を眺めるその男が、ザイル・ヴェルナードだとルミナにはすぐにわかった。年齢はおそらく二十五、六。想像していたより若く、そして何より――その周囲だけ、空気の質が違った。

魔力が満ちている。

研究者の家に育ったルミナには、それがわかった。制御されていない、溢れ出すような膨大な力。それがあの人物から常時放散されているのだと、空気の肌触りで感じ取れた。

「……制御できていない」

思わず呟いたルミナに、隣の侍女が不思議そうな顔をした。しかし返答する間もなく、壇上でテオが立ち上がった。

「本日の式典に際し、私から発表がある」

その声のトーンが、ルミナの背筋を緊張させた。

式典のプログラムに、王子のスピーチはなかったはずだ。

「エルカリナ伯爵家の令嬢、ルミナ・エルカリナとの婚約を、本日をもって破棄する」

広場が静まり返った。

ルミナは立ち上がれなかった。足が床に縫い付けられたように動かない。聞き間違いだと思いたかったが、続く言葉がそれを許さなかった。

「魔法も満足に使えぬ令嬢が王妃の座に相応しくないことは、皆が知っていよう。エルカリナ家が誇る魔法研究の血統とやらも、この令嬢には受け継がれなかった。欠陥品を王家に迎え入れるわけにはいかない」

来賓席がざわめく。一般市民の間でもどよめきが広がった。

「殿下、それは――」

「ルミナ・エルカリナ」

テオが壇上から彼女を名指した。

立て、と。目が言っていた。

ルミナは震える膝に力を込め、立ち上がった。毅然と。五年間そうしてきたように。

「潔く婚約破棄を受け入れるなら、エルカリナ家の名は傷つけない。しかし万が一異を唱えるのであれば――」

「異は唱えません」

ルミナは静かに言った。

声が震えなかったことを、自分でも不思議に思った。

「婚約破棄、謹んでお受けいたします。五年間の御縁に感謝を」

深く礼をした。完璧な礼だった。王妃教育で叩き込まれた、最上級の礼。

その礼の途中で、頬に衝撃が走った。

乾いた音が広場に響いた。

ルミナは倒れた。

石畳の冷たさが、頬の熱と対照的だった。

広場が完全に静まり返る中、ルミナはゆっくりと瞬きをした。視界の端に、壇上のテオの靴が見えた。

「礼儀正しく受け入れると見せかけて、衆目を集めようとするから」

テオの声は、今度は低く冷たかった。

ルミナは答えなかった。

答えるべき言葉を、持っていなかった。

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