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制御者の令嬢は隣国の大魔導士に溺愛される  作者: まる
第四章 優しさと

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第二十話 二人

テオが去った夜、ルミナは一人でいられなかった。

一人でいたい気分だったが、同時に、誰かに話したかった。矛盾していると思いながら書庫に行くと、ザイルがいた。いつもの窓際の椅子に座り、本を開いていた。

「来ると思っていました」

本から目を上げずに言った。

「……毎回そう言いますね」

「毎回そう思っています」

ルミナは向かいの椅子に座った。しばらく沈黙があった。暖炉の火が揺れていた。窓の外に、冬の星が出ていた。

「怒っていますか」

「何に対して」

「私があのとき、もう少し違う動き方をしていれば、という話です。ザイルが断る前に、私が何か言えていれば」

「していません」

「でも」

「ルミナ」ザイルが本を閉じた。「あなたは正しいことを言いました。そしてあなたが正しいことを言えたのは、揺らがなかったからです。揺らがなかったのは、準備があったからです。私はあなたの判断を信じています」

「……ザイルの判断を、私は尊重すると言いました」

「聞いていました」

「本心です」

「わかっています」

「でも」ルミナは膝の上で手を組んだ。「私には、母国への気持ちがあります。王家への怒りと、民への案じる気持ちは、別物です。王家を許せなくても、民を見捨てることは——難しい」

「知っています」

ザイルは静かに言った。

「私はあなたに、王国を見捨てろと言っているわけではありません」

「では」

「あなたが傷ついた姿を見た。それだけで十分だと、私は思っています」

ルミナは顔を上げた。

銀灰色の目が、真っすぐにルミナを見ていた。

「テオ・マルコシアンに、あなたを使って王国を救わせたくない。それが私の判断の根拠です。あなたの才を、あの場で、あの形で利用させたくない」

「利用と、助けることは——」

「今のあなたがそれをすれば、利用になります」ザイルは言葉を選びながら続けた。「あなたが心から望んでそうするなら、話は別です。しかしテオが来て、頭を下げれば動かざるを得なくなる形で事を進めることを、私は許容できません」

ルミナは少しの間、その言葉を咀嚼した。

「……整理させてください」

「どうぞ」

「ザイルの判断は、私を傷つけた者に私を使わせないため」

「はい」

「王国の民を助けることに反対しているわけではない」

「反対していません」

「では、私が自分の意志で、条件を整えた上で動くなら」

ザイルが少しの間黙った。

「……私はあなたを止めません」

「止めない、とは、認める、ですか」

「私の認める認めないで動くべき話ではない。あなたの才は、あなたのものです」

「でもあなたは、今日断ったことに後悔はない」

「ない」

迷いのない即答だった。

「今日テオが来た形で、あの場で動くことは、正しくなかったと思っています。しかしルミナ、あなたが最終的にどう判断するかは——それはあなたが決めることです」

二人の間に、今夜一番の静寂が降りた。

暖炉の火が、また揺れた。

ルミナは窓の外を見た。北西の空が見えた。星が出ていた。冷たく、しかし確かに光っていた。

「……一つ、聞いていいですか」

「どうぞ」

「もし私が動くと決めたとき、あなたは一緒に来てくれますか」

ザイルが、ルミナを見た。

「来ます」

「たとえ王国を助けることになっても」

「あなたのそばにいます。それは変わらない」

ルミナは目を細めた。胸の中で何かが温かくなった。

「ではもう一つ。私が動かないと決めたとき、王国が壊れていくのを、ザイルは見ていられますか」

ザイルは少しの間考えた。

「見ていられます」

「本当に」

「あなたを傷つけた国が、その報いを受けることを——私は止めません」

その言葉の重さを、ルミナは受け止めた。

「……ありがとうございます。正直に言ってくれて」

「あなたには正直でいたいと思っています」

ルミナは立ち上がった。

「もう少し、考えさせてください」

「いくらでも」

「答えが出たら、話します」

「待っています」

ルミナは書庫の扉へ向かい、途中で振り返った。

「ザイル、一つだけ言ってもいいですか」

「どうぞ」

「あなたが今日、私の代わりに断ってくれたこと。私は——それが嬉しかったです。心底」

ザイルが黙った。

その沈黙の中に、ルミナはいつもと違う何かを感じた。言葉にしきれない何かが、あの静かな目の奥で動いたのを、見た気がした。いつも静かなその目が、今夜だけほんの少し、違う光を帯びていた。

「……また明日」

「また明日」

扉が閉まった。

廊下を歩きながら、ルミナは北西の空に意識を向けた。

乱れはある。大きくなっていた。

あの星の下で、今夜も誰かが寒さの中にいる。その事実は変わらない。王家への怒りも、民への心配も、どちらも本物だ。

しかし今夜のルミナには、その乱れを前に揺らがないものが、胸の中にあった。

答えはまだ出ていない。動くかどうか、いつ動くか、どう動くか。まだ決まっていない。

しかし、決まっていないことが今夜は怖くなかった。

ザイルが隣にいる。

どちらを選んでも、隣にいると言った。それだけで、今夜は十分だった。

母の指輪を握った。冷たく、しかし確かな重さがあった。

翡翠が、廊下の灯りを受けて、わずかに光った。

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