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制御者の令嬢は隣国の大魔導士に溺愛される  作者: まる
第四章 優しさと

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第十九話 許さない

広間が静まり返った。

テオが、ザイルを見た。

「……何と言った」

「断ります」ザイルは穏やかに、しかし一切の揺らぎなく繰り返した。「エルカリナ王国への技術支援を、断ります」

「貴様に断る権限があるのか。これはルミナへの——」

「エルカリナ令嬢はヴェルナード家の庇護下にあります。彼女に関わるいかなる要請も、まず私が判断します」

テオの顔色が変わった。

「ルミナ、お前自身はどう考えている。王都の民が——」

「殿下」

ザイルが静かに遮った。声を荒げているわけではない。しかしその静けさが、部屋の空気を変えた。室温が一度下がったような、そういう静けさだった。

「ルミナ・エルカリナは半年前、あなたによって公衆の面前で婚約破棄を宣言され、打擲されました。その後、エルカリナ家は王家による財産調査と研究資料の接収を受け、当主は事実上の追い込みをかけられてアルテミアへの移転を余儀なくされた。これらの事実は正確ですか」

テオが黙った。

「正確かどうか、お答えください」

「……概ね」

「概ね、ではなく」

「……正確だ」

「ありがとうございます」

ザイルの声は変わらなかった。感情の高ぶりはなく、しかし冷たさもなかった。ただ、事実を並べる精確さがあった。医師が症状を説明するような、そういう静けさだった。

「王都の地下魔法陣の問題は、エルカリナ家が五年前から警告していた問題です。オスカル伯爵が報告書を提出し、王家の魔法局がそれを黙殺した。その後、エルカリナ家を排除してコスト重視の外注管理に切り替え、技術の継承が途絶えた。今起きていることは、その結果です」

「……わかっている」

「わかっているなら、今ここで何を求めているのか、もう一度整理してください」ザイルは続けた。「あなたは今、自分たちが傷つけ、追い出した者たちに、自分たちのために手を貸せと言っている」

テオの唇が微かに動いた。しかし言葉にならなかった。

「民が危険にさらされているのは事実です。しかしその危険を作ったのはあなた方の判断です。その結果を、傷つけた者の手で解決させようとすることの——意味を、考えていただきたい」

沈黙が長く続いた。

テオは目を伏せた。それから、ゆっくりと顔を上げた。

ルミナが一歩前に出た。

「ザイル」

「はい」

「私にも、言わせてください」

ザイルは一度だけルミナを見た。何かを確認するように。そして静かに頷いた。

ルミナはテオに向き直った。

テオの青い目が、ルミナを見ていた。あの式典の壇上から見下ろしてきた目と、同じ色の目だった。しかし今はその目に、違うものがあった。後悔に似た何かが、あるいはそれよりも深い何かが、その目の奥にあった。

「殿下、私は今でも母国を案じています」

テオが目を瞬かせた。

「王都の民が危険にさらされているという話を聞いて、何も感じないわけではありません。あの街で生まれ育ちました。知っている顔があります。寒い冬を暖房なしで過ごした人々が今この瞬間もいると思えば、心が痛みます」

「では——」

「しかし」

ルミナは続けた。

「私が動くかどうかを決めるのは、今この場では、私ではありません」

テオが眉を寄せた。

「どういう意味だ」

「ザイルが断ると言いました。私はその判断を尊重します」

「ルミナ、お前は——」

「殿下」ルミナの声が、静かに、しかしはっきりと変わった。「五年間、私はあなたの隣に立つために多くのものを我慢しました。あなたの判断に従うために、自分の判断を後回しにしてきました。それが婚約者の役目だと信じていたから」

テオが黙った。

「しかし今、私には信じる人間がいます。彼の判断は、私を守るための判断です。今日断ると言ったのも、そのためです。私はそれを信じています」

广间に、静寂が落ちた。

テオが、ルミナを見た。

長い間、見ていた。五年間の婚約期間を思い返しているのか、半年前の式典を思い返しているのか、ルミナにはわからなかった。

「……わかった」

テオの声は、かすかに掠れていた。

「今日のところは、引く。しかし事態は切迫している。時間をくれ」

「一週間で状況が変わるものではありません」とザイルが言った。「しかし回答の期限は設けます。この件について正式に文書で再要請があれば、その内容を見て判断します」

テオは頷き、踵を返した。

扉に向かう途中、テオが一度だけ立ち止まった。

「……シェラが、お前のことを何も知らなかったと言っていた」

ルミナは黙っていた。

「お前が何を持っていたか。この件が起きるまで、本当に何も知らなかった、と」

「それが事実かどうかは、私には確認する方法がありません」

「そうだな」テオは前を向いたまま言った。「それだけだ」

扉が閉まった。

馬車の音が遠ざかっていった。

広間に二人が残った。

ルミナは長く息を吐いた。胸の中で何かがほどけた気がした。張り詰めていたものではなく、長い間固まっていた何かが。

「……ありがとうございます」

「何が、ですか」

「遮ってくれたこと。そして、言いたいことを言わせてくれたこと」

ザイルは少しの間、ルミナを見た。

「あなたを傷つけた者に、あなたの手で救わせるつもりはありませんでした」

その言葉が、ルミナの胸の中で、静かに落ちた。

深いところに、落ちた。

返す言葉が、すぐには出なかった。出す必要も、感じなかった。

窓の外で、冬の風が木を揺らしていた。


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