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制御者の令嬢は隣国の大魔導士に溺愛される  作者: まる
第四章 優しさと

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第十七話 使者

一月の初めに、使者が来た。

エルカリナ王国の紋章を持つ使節団、三名。ヴェルナード邸の正門に現れた彼らの顔に、余裕はなかった。旅装は整えられていたが、その下に疲弊と焦りがにじんでいた。長旅をしてきた疲れだけではない、追い詰められた者の焦りだった。

ザイルが応接間で彼らを迎えた。ルミナは同席しなかった。

ザイルが要望した。今回はまず私が単独で話を聞く、と。ルミナはその判断に従った。

話の内容は、応接間を出たザイルから直接聞いた。

「王国から正式な技術支援の要請です」

「……来ましたね」

「北区画の暖房停止の件が大きかったようです。あれで王家も現場の状況を認識せざるを得なくなった。加えて、一週間前から王都中央区画でも同様の異常が始まっている。もはや局所的な老朽化では説明がつかなくなった」

「ようやく」とルミナは言った。声に棘はなかった。ただ、事実として受け止めた。

「民間人から声が上がり始めているようです」とザイルが付け加えた。「北区画の住民が王家の魔法局に直接陳情を持ち込んだ。複数回。それが無視できない規模になってきた」

「では王家が動いたのは、自主的な判断ではなく、外圧によって」

「おそらく。使者の疲弊は、外交の重圧だけではなく、国内の声への対処にも追われている疲弊でしょう」

ルミナは一度だけ目を閉じた。民が声を上げている。当然だ、と思った。北区画で暖房のない夜を過ごせば、誰でも怒る。子を持つ親なら特に。

「要請の内容は、アルテミアの魔法技術陣の派遣。具体的には、魔力供給網の診断と修復作業の支援です」

「エルカリナの名前は」

「出ていません」

ルミナは短く息を吐いた。

「要請の中で、ルミナ・エルカリナの名前は一切出なかった。あくまでアルテミアへの技術支援の要請という形です」

「王家の矜持です。私を呼びにきたとは言えない。エルカリナを頼ると認めれば、これまでの判断が全否定になる」

「そうでしょう」

ルミナはしばらく考えた。

「ザイル、あなたはこの要請にどう答えるつもりですか」

「あなたに聞いてから決めるつもりでした」

「私に?」

「この件は、あなたに深く関わります。あなたの意見なしに動くべきではないと思っています」

ルミナは庭を見た。冬の庭は枯れ色で、白薔薇の鉢は温室の中にある。父が毎日水をやっていると聞いていた。春には、アルテミアの土の上で初めて咲くことになる。

「王家が正式に頭を下げに来る可能性は」

「使者の一人が口を滑らせました。本来は王子が直接来るはずだったが、外交上の懸念があって使節団を先に送ったと」

「テオが、来る」

「おそらく近日中に」

ルミナは翡翠色の目を細めた。感情の揺れはなかった。正確には、揺れを感じる部分がもう存在しないような感覚だった。テオという名前を聞いても、もうかつてのような重さがない。半年前の石畳に、それを置いてきた。

「……わかりました。来るなら、来てもらいましょう」

「その間に、準備をしますか」

「はい。父と一緒に、王都の基幹魔法陣の修復手順を組み立てます。ザイルが最終的にどう判断するにしても、方法論は整えておくべきです。手順が整っていれば、動ける時間が増えます」

「あなたはいつも、先に準備をするのですね」

「来る前から悩んでも、何も変わりません。悩む時間があれば手を動かします」

「エルカリナの血ですか」

「そうです」

ルミナは小さく笑った。ザイルも、ほんのわずかに、口の端を動かした。

その夜、父の書斎に資料が積み上がり、二人は深夜まで手順を組み立てた。オスカルが地下基幹陣の構造を記憶から図面に起こし、ルミナが調律の順序を計算した。

どの区画から手をつけるか。どの陣を先に安定させれば連鎖を止められるか。最悪の場合、どこを切り離せば被害を限定できるか。問題の深刻度を三段階に分け、それぞれの対応手順を整理した。

途中でザイルも書斎に顔を出した。手順の概要を聞き、技術的な質問をいくつかした。その質問が的確だったことに、ルミナと父は顔を見合わせた。

「魔力制御について、よくご存知ですね」

「あなたたちの話を三ヶ月聞いてきたので」とザイルは答えた。「理解できているとは言えませんが、問題の構造はわかってきました」

「一つ意見を言っていいですか」と父が言った。

「どうぞ」

「北区画から手をつけるのは正しい。しかし同時に、基幹制御陣への迂回路を一本確保しておくべきです。万が一北区画の作業中に中央区画が崩れた場合、切り替えられる手順が必要です」

「追加します」とルミナが羊皮紙に書き込んだ。

三時間後、一枚の羊皮紙に、手順が完成した。

「これでいけます」

ルミナが言った。

父が頷いた。

しばらく沈黙があった後、オスカルが静かに言った。

「お前の祖父が聞いたら、喜んだだろう」

「そうですね」

「百年かかった、と言うかもしれない。この手順書が完成するまでに。しかしお前の代で、ここまで来た」

「祖父が書き留めてくれたから、できました」

父は手順書を見つめ、目を細めた。

「……お前が持っていなさい」

「はい」

ルミナは手順書を丁寧に折り畳んだ。

使うかどうかは、まだわからない。

しかし作った。それだけで、今夜はよかった。


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