七
離れへ向かう。
真壁がそう言ったとき、透はすぐに立ち上がれなかった。
行かなければならないことは分かっていた。力と悟を見つけるためには、今夜のうちに動くしかない。朝を待てば助かるという保証はどこにもない。むしろ、あの子どもの声が「今夜のうちに」と真壁に言わせたような気さえした。
けれど、体が動かない。
怖いのだ。
自分の中にある恐怖が、はっきりと形を持っていた。喉の奥に硬いものが詰まり、胸のあたりが冷たくなる。手首に巻いた鈴つきの赤い紐が、皮膚に触れているだけで痛いように感じる。
自分は漫画の主人公でも、探偵でも、勇敢な人間でもない。
ただの中学生だ。
怪談を面白がって、旅行気分でここへ来た。
そして友達が二人消えた。
こんなことに、自分たちだけで立ち向かえるはずがない。
「少し、待ってください」
透は言った。
真壁が振り返る。
「どうしました」
「柳田さんにも、話を聞きたいです」
真壁の表情がわずかに固くなった。
それを見て、透は自分の判断が間違っていなかったと感じた。
「今は時間がありません」
「分かっています。でも、真壁さんだけの話で離れに行くのは危ないと思います」
「私を疑っているのですか」
「はい」
透は正直に答えた。
笑が透を見た。
驚いた顔だったが、止めはしなかった。
真壁は黙っていた。
「真壁さんは、悠真くんがいた施設の施設長だったことを隠していました。久遠館を横取りしたかもしれない男のことも、こちらが訊くまで言わなかった。まだ何か隠していますよね」
真壁は目を伏せた。
「隠していることはあります」
あっさりと認めた。
そのことが、かえって不気味だった。
「ですが、それを今すべて話すことが、皆さまを救うことにつながるとは限りません」
「それを決めるのは真壁さんじゃありません」
透の声は震えていた。
それでも、言った。
「僕たちは、もう巻き込まれてます。何も知らないまま動く方が危ない」
真壁は長い息を吐いた。
疲れ切った老人のようだった。
「柳田に、何を聞くつもりですか」
「真壁さんが語らなかったことです」
「彼女が知っているとは限りません」
「知っているから、真壁さんは嫌なんじゃないですか」
また沈黙が流れた。
廊下の外で、木が軋む音がした。
ぎい。
誰かが床板を踏んだようにも聞こえた。
笑が透の袖をつかんだ。
「透」
「大丈夫」
透は自分に言い聞かせるようにそう言った。
ここで引いたら駄目だと思った。
この旅館には、幽霊だけではなく、大人たちの嘘も棲んでいる。
そして、幽霊よりも人間の嘘の方が、きっと根が深い。
「分かりました」
真壁は言った。
「柳田を呼びましょう」
真壁は立ち上がり、襖を開けた。
廊下は静かだった。
さっきまでの足音も、子どもの声も、ビー玉の音もない。あまりにも静かで、逆に耳が痛くなる。
「ここを動かないでください」
真壁はそう言い残して廊下へ出た。
透と笑は部屋に残された。
二人きりになると、怖さが少し違う形になった。
真壁がいるときは、真壁を疑いながらも、どこかで頼っていた。大人がいる。その事実が、薄い壁のように恐怖を遮っていた。
その壁がなくなると、久遠館の夜は一気に近づいてきた。
笑は座卓の前に座り込んだ。
「透、すごいな」
「何が」
「あんなふうに真壁さんに言えるの」
「怖いからやで」
「怖いから?」
「怖いから、知らないまま行きたくないんや」
透は力のスマホを見た。
電源は落ちている。
何度ボタンを押しても、もう反応しなかった。
あの動画の中で、力の声が言っていた。
おまえが鬼やで。
透は自分の手首の鈴を見た。
ちりん。
少し動いただけで鳴る。
鬼。
見つける役。
悠真は、誰かに見つけてほしいのか。
それとも、誰かを見つけて連れていきたいのか。
「なあ、透」
笑が小さく言った。
「私、力のことも悟のことも助けたい」
「うん」
「でも、本音言うと、透まで消えたらどうしようって、そればっかり考えてる」
透は笑を見た。
笑は俯いていた。
「男の子と遊びたがるって、真壁さん言ってたやん。透も男やん。次、透やったらどうしようって」
「僕も考えたよ」
「やんな」
「うん」
「それでも行くん?」
透はすぐには答えられなかった。
行く、と簡単に言えるほど強くはない。
行かない、と言えるほど薄情にもなれない。
しばらく考えてから、透は言った。
「笑が止めたら、たぶん行かれへん」
「え?」
「僕一人なら無理やと思う。怖すぎる。でも、笑が一緒に来てくれるなら、行ける気がするわ」
笑は顔を上げた。
「それ、私に責任押しつけてない?」
「ちょっとな」
「最低やな」
笑は少しだけ笑った。
泣いた後の、弱い笑顔だった。
「でも、ええよ。私も一人やったら無理やし」
二人は少しだけ黙った。
力と悟がいないだけで、部屋はこんなにも広い。
さっきまで四人で食事をした場所なのに、今はまるで別の部屋のようだった。
そのとき、襖の向こうから足音が聞こえた。
ゆっくり近づいてくる。
大人の足音。
真壁だ。
そう思ったが、透は油断しなかった。
この館では、声も姿も信じきれない。
「どなたですか」
透は訊いた。
足音が止まった。
「柳田です」
低く、かすれた女性の声。
次いで、真壁の声がした。
「私もおります」
透は襖を開けた。
真壁と柳田が立っていた。
柳田は先ほどと同じ紺色の作務衣姿だったが、表情は夕食のときよりも硬かった。顔色が悪い。目の下に影がある。
「お話があると伺いました」
柳田はそう言って、部屋に入った。
真壁は襖の近くに座った。
柳田は座卓を挟んで透たちの向かいに正座した。
「何をお聞きになりたいのでしょうか」
柳田が言った。
その声は、真壁よりもずっと直接的だった。
愛想はなく、嘘をつくのが苦手そうな声だった。
「久遠館のことです」
透は言った。
「真壁さんが話していないことを聞きたいです」
柳田は真壁を見た。
「どこまで話したんですか」
「悠真くんのことは」
真壁が答えた。
「施設のことも、少し」
「そうですか」
柳田は小さく息を吐いた。
「では、もう隠しても仕方ありませんね」
真壁は何も言わなかった。
柳田は透たちに向き直った。
「真壁は、悪い人ではありません」
それは、真壁をかばう言葉だった。
だが、透には分かった。
その言葉の後には、必ず逆の言葉が続く。
「ですが、真壁は自分を許していません」
「悠真くんの失踪のことでですか」
「はい」
柳田はうなずいた。
「悠真くんが施設から消えた夜、当直だったのは真壁でした」
透は真壁を見た。
真壁は目を閉じている。
「悠真くんは、その日の夕方から落ち着きがなかったそうです。何度も玄関へ行き、誰かを待っていた。真壁が訊くと、『おじさんがくる』と答えたそうです」
「おじさん?」
笑が訊いた。
「久遠館を手に入れた男ですか」
「当時はまだ、完全には手に入れていませんでした。ただ、久遠館の債権や土地の話に関わっていた人間です」
「名前は?」
透が訊いた。
柳田は真壁を見た。
真壁は小さくうなずいた。
「黒瀬という男です」
柳田は言った。
「黒瀬隆文。町の外から来た実業家でした。観光開発だの地域再生だの、口では立派なことを言っていましたが、要するに久遠館の土地と温泉権が欲しかったのでしょう」
黒瀬。
初めて出てきた名前だった。
透はその名前を心の中で繰り返した。
久遠宗一郎。
美沙。
悠真。
真壁。
柳田。
そして黒瀬。
少しずつ、人間関係の輪郭が見えてくる。
だが、見えれば見えるほど、怖さは増していく。
「黒瀬は悠真くんに近づいていたんですか」
「ええ」
柳田の声が硬くなった。
「父親を亡くしたばかりの子どもに、大人の男が優しくする。遊ぼうと言う。お菓子を渡す。ビー玉を渡す。悠真くんは、すぐになついたそうです」
「最低や」
笑が低く言った。
「そうですね」
柳田は否定しなかった。
「黒瀬が本当に悠真くんを利用しようとしていたのか、それとも少しは情があったのか、私には分かりません。ただ、悠真くんにとっては、父親の代わりでした」
父親の代わり。
その言葉は重かった。
悠真は実の父親に遊んでもらえなかった。
その父親は死んだ。
母親も死んだ。
そして現れた、父親に似た男。
遊ぼうと約束してくれる男。
その男が、もし久遠館を奪おうとした張本人なら。
悠真の中で、愛情と憎しみは分けられなかっただろう。
「黒瀬はその日、施設に来る予定だったんですか」
透が訊いた。
「いいえ」
柳田は首を振った。
「正式な予定はありませんでした。けれど悠真くんは、来ると言い張ったそうです。『おじさんが、むかえにくる』と」
「迎えに?」
笑の声が震えた。
「どこへ連れていくつもりだったんですか」
「久遠館です」
柳田は言った。
「悠真くんは、久遠館に帰りたがっていました」
「でも、施設の子どもを勝手に連れ出すなんてできないですよね」
「普通はできません」
「じゃあ、黒瀬は来なかった?」
「来ていないことになっています」
柳田の言い方が引っかかった。
「ことになっている?」
「記録上は、来ていません」
「本当は?」
柳田は唇を結んだ。
「真壁さんは、その夜、施設の門の外で黒い車を見たそうです」
真壁は黙っていた。
「黒瀬の車ですか」
「おそらく」
「警察には?」
「言いました。ですが、証拠はありませんでした。監視カメラも今ほど多くない時代です。車を見たというだけでは、どうにもならなかった」
「黒瀬は否定したんですか」
「ええ。自分はその夜、町にはいなかったと」
「アリバイは?」
「ありました」
「作ったんですね」
透が言うと、柳田は少しだけ驚いた顔をした。
「あなた、本当に中学生ですか?」
「そうです。ただ、アリバイを作ったと考えるしか話が合わないと思っただけです」
透は自分でも少し驚いていた。
怖いのは確かだが、話を聞くほど頭が回り始めていた。
目の前の怪異を何とか理解したい。
それが幽霊でも、人間でも、両方でもいい。
筋道が見えれば、怖さに呑まれずに済む気がした。
「黒瀬は、久遠館を手に入れたんですか」
「一時的には」
柳田が答えた。
「宗一郎氏の死後、久遠家にはこの久遠館を建てたときの借金が残りました。美沙さんも亡くなり、悠真くんは施設へ。権利関係は複雑になり、黒瀬はそこへ入り込んだ」
「じゃあ今の主は黒瀬なんですか」
「いいえ」
柳田は首を振った。
「黒瀬は長く持てませんでした」
「怪奇現象で?」
「それもあります。黒瀬が久遠館を改装しようとした頃から、事故が続きました。作業員が階段から落ちる。図面が消える。夜、重機のエンジンが勝手にかかる。池に赤いビー玉が浮かぶ」
笑が肩を震わせた。
「でも、それだけではありません」
柳田は続けた。
「黒瀬自身が、おかしくなっていったそうです」
「おかしく?」
「夜中に、子どもの声がすると言うようになった。寝ていると布団の中に小さな手が入ってくる。廊下で『おとうさん』と呼ばれる。鏡を見ると、自分の後ろに六歳くらいの男の子が立っている」
透は想像したくなかった。
それでも、頭の中に浮かんでしまう。
鏡の中。
大人の男の背後に立つ、白い寝巻きの男の子。
おとうさん。
あそぼ。
「黒瀬は、久遠館を手放しました。その後、町を離れました」
「死んだんですか」
悟なら、そう訊いたかもしれない。
だが、今訊いたのは透だった。
柳田は首を横に振った。
「生きているはずです」
「どこに?」
「分かりません。少なくとも、この町からはいなくなりました」
「じゃあ、まだ真相は分かってないんですね」
「ええ」
柳田は真壁を見た。
「真壁さんは、その後、施設を辞めました」
真壁の肩がわずかに動いた。
「なぜですか」
透が訊いた。
答えたのは柳田だった。
「悠真くんを守れなかったからです」
部屋が静まり返った。
「真壁さんは、自分のせいだと思っています。あの夜、もっと注意していれば。悠真くんの言葉を、ただの子どもの思い込みだと決めつけなければ。黒い車を見たとき、すぐに追いかけていれば。そう思い続けています」
「それで久遠館に?」
「はい。黒瀬が手放した後、この館は誰も引き取りませんでした。取り壊しの話も出ましたが、事故が続いて進まない。町の人も、ここを恐れるようになった。真壁さんは、私財を投じて久遠館を引き取りました」
「悠真くんのために?」
「それだけではありません」
柳田の声は厳しかった。
「自分を罰するためでもあります」
真壁は黙っていた。
その沈黙が、認めているように見えた。
透は真壁を見た。
この人は、久遠館を守っている。
けれど同時に、久遠館に閉じ込められている。
悠真の幽霊と同じように。
罪悪感という、目に見えない鎖で。
「柳田さんは、どうしてここに?」
笑が訊いた。
柳田は少しだけ目を伏せた。
「私は昔、久遠館で働いていました」
「昔?」
「宗一郎氏の時代です。若い頃、仲居としてここにいました」
「じゃあ、悠真くんのことも」
「知っています」
柳田の声が少し柔らかくなった。
「あの子は、よく厨房へ来ました。母親に隠れて、甘い卵焼きをつまみに来るんです。私が見つけると、口に手を当てて、ないしょね、と言う」
柳田の表情が、初めて人間らしく緩んだ。
だが、その緩みはすぐに消えた。
「ただ、私たちは見て見ぬふりをしていました」
「何をですか」
笑が訊いた。
「宗一郎氏が、美沙さんに手を上げることを」
空気が冷えた。
「誰も止めなかったんですか」
「止められませんでした」
柳田は言った。
言い訳ではなく、後悔に似た口調だった。
「宗一郎氏は、この館そのものでした。彼に逆らえば、ここでは働けない。家族を養えない。皆、分かっていて黙っていた。私も同じです」
「悠真くんは、それを見てた」
「はい」
「助けられたかもしれないのに」
笑の声には怒りがあった。
柳田は頭を下げた。
「その通りです」
笑はそれ以上言えなくなった。
透も黙っていた。
大人は、いつも理由を持っている。
仕事がある。
生活がある。
立場がある。
自分だけでは変えられない。
そういう理由だ。
それは嘘ではないのだろう。
けれど、その理由の陰で、子どもは傷つく。
悠真は、きっと大人たちを見ていた。
誰も母親を助けないことを。
誰も父親に逆らわないことを。
誰も自分と本気で遊んでくれないことを。
「悠真くんは」
柳田が言った。
「あの子も、悪い子ではありませんでした」
その言葉は、これまで何度も聞いた気がした。
悪い子ではない。
寂しかっただけ。
遊びたかっただけ。
だが、その子が今、力と悟を連れていった。
悪意がないから許されるのか。
子どもだから仕方ないのか。
透には分からなかった。
「でも、今の悠真くんは危険です」
柳田は続けた。
「真壁さんは、まだあの子を救えると思っています。でも私は、そう簡単ではないと思っています」
「柳田」
真壁が初めて口を挟んだ。
「いいえ、言います」
柳田は真壁を見た。
「あなたは優しすぎます。あの子が寂しかったことも、傷ついていたことも事実です。でも、あの子はもう、生きていた頃の悠真くんではありません」
真壁は何も言わなかった。
「この館に残っているものは、悠真くんの寂しさだけではない。宗一郎氏の後悔、美沙さんの絶望、黒瀬への憎しみ、私たち従業員の罪悪感。そういうものが全部、この館には染み込んでしまっています」
柳田の声は震えていた。
「だから、今聞こえる子どもの声が、本当に悠真くんだけのものなのか、私には分かりません」
透は息を飲んだ。
それは、考えていなかった。
幽霊は悠真。
そう決めつけていた。
けれど、もし違うなら。
悠真の形を借りた、別の何かがいるのなら。
「じゃあ、力と悟は」
笑の声が震えた。
「助かるんですか」
柳田はすぐには答えなかった。
「助けに行くしかありません」
それは答えではなかった。
だが、嘘でもなかった。
真壁は静かに立ち上がった。
「時間がありません」
今度は、透も引き止めなかった。
必要なことは聞けたが、残された謎はまだ多かった。
黒瀬や宗一郎の遺書、悠真の失踪の原因など真壁がまだ隠していることはあった。
だが、それでも今は先へ進むしかなかった。
「柳田も来てくれるか」
真壁が訊いた。
柳田はうなずいた。
「もちろんです」
柳田はそう言って、懐から古い鍵束を取り出した。
いくつもの鍵が、銀色に鈍く光っている。
「離れへ行くなら、私が必要です」
「鍵ですか」
透が訊いた。
「ええ」
柳田は鍵束を握った。
「宗一郎氏の部屋は、今も閉じられています」
「誰が閉じたんですか」
透が訊くと、柳田は短く答えた。
「美沙さんです」
その名前が出た瞬間、窓の外で何かが揺れた。
風ではない。
池の方から、かすかな音がした。
ぽちゃん。
水面に何かが落ちる音。
全員が窓を見た。
暗いガラスの向こうに、池は見えない。
けれど音は続いた。
ぽちゃん。
ぽちゃん。
何かが一つずつ、水に投げ込まれている。
柳田が窓に近づき、障子を少し開けた。
外の闇が流れ込んできた。
池の方に、赤い光がいくつも浮かんでいた。
赤いビー玉だった。
水面に浮かぶはずのないビー玉が、蓮の葉の間でぼんやり光っている。
一つ。
二つ。
三つ。
そして、その向こう。
池のほとりに、小さな人影が立っていた。
白い寝巻きの男の子。
その隣に、もう一人。
背の高い影。
力か、悟か。
暗くて分からない。
男の子は、こちらを見上げていた。
そして、口を動かした。
声は聞こえなかった。
けれど、透には何と言ったのか分かった。
――はやく。
次の瞬間、池の赤い光が一斉に消えた。
部屋はまた、静けさに沈んだ。
柳田は障子を閉めた。
真壁は鈴を握りしめている。
透は立ち上がった。
笑も立ち上がった。
もう、行くしかない。
離れへ。宗一郎の部屋へ。
悠真が父親を待ち続けている場所へ。
柳田の鍵束が、かすかに鳴った。
ちゃり。
その音に重なるように、廊下の奥から子どもの声がした。
「おとうさん、まだ?」
透は息を呑んだ。
そして、初めてその声から逃げずに、廊下の方を見た。
「行こう」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
笑に。
真壁に。
柳田に。
消えた二人に。
それとも、見つけてほしくて泣いている、あの子に。
四人は部屋を出た。
久遠館の夜は、さらに深くなっていた。




