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みいつけた  作者: 紙とペン


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6/9

 力が消えた後、誰もすぐには動けなかった。

 廊下には、割れたスマホだけが落ちていた。

 画面には録画中を示す赤い点が残っている。ひび割れたガラスの向こうで、黒い映像が揺れていた。音声だけが生きているのか、スピーカーから小さな雑音が漏れている。

 

 ざあ、ざあ。

 

 風の音にも、水の音にも聞こえた。

 あるいは、誰かが暗闇の中で息をしている音のようにも聞こえた。

「力……?」

 笑が小さく呼んだ。

 返事はなかった。

 呼んではいけない。

 さっき真壁はそう言った。名前を呼ばれても返事をするな、と。

 けれど、こちらから呼ぶことも危ないのかどうかは分からない。分からないからこそ、透は笑の肩に手を置いた。

「今は、やめよう」

 笑は唇を噛んだ。

「でも、力が」

「分かってる」

「分かってへん」

 笑の声が震えた。

「分かってたら、止められへんやん。探しに行かなあかんやん。今、あいつ一人やねんで」

 透は何も言えなかった。

 笑の言うことは正しい。

 力は一人で消えた。どこにいるのか分からない。怖がっているかもしれない。怪我をしているかもしれない。助けを求めているかもしれない。

 それでも、今すぐ暗闇の奥へ飛び込むことが正しいとは思えなかった。

 ただ走れば助けられるというのなら、とっくに走っている。

 けれど、ここではそうではない。

 久遠館では、見えているものと聞こえているものとを、そのまま信じられない。

「真壁さん」

 透は言った。

「力はどこへ行ったんですか」

 真壁は遊戯室の前に立ち尽くしていた。

 懐中電灯の光は畳の上の赤いビー玉を照らしている。数えきれないほどのビー玉は、さっきまで一斉に転がっていたのが嘘のように静止していた。

 その部屋の奥に、悟の姿はもうなかった。

 力だけではない。

 悟も、消えていた。

「分かりません」

 真壁は答えた。

 その答えに、透の中で何かが切れかけた。

「また分からないんですか」

「透」

 笑が止めるように言った。

 だが、透は続けた。

「さっきから、真壁さんは危ないって言うだけです。行くな、開けるな、返事するな。でも、何が起きるのかは言わない。どうすれば助かるのかも言わない」

 真壁は何も言わなかった。

「本当に知らないんですか。それとも、知ってるけど言えないんですか」

 廊下の空気が重くなる。

 笑は透と真壁を交互に見ていた。

 真壁は少しの間、黙っていた。

 そして、落ちているスマホに視線を落とした。

「まずは、その記録を確認しましょう」

「記録?」

「力さんが撮影していたのでしょう」

 真壁はかがみ、スマホを拾おうとした。

「待ってください」

 透は反射的に言った。

 真壁の手が止まる。

「それは力のスマホです」

「ええ」

「勝手に触らないでください」

 真壁は透を見た。

 表情はいつものように静かだった。

 だが、目の奥に疲れが見えていた。

「では、あなたが」

 透はうなずいた。

 廊下に膝をつき、力のスマホを拾った。画面のひびが指に引っかかる。ケースの角が少し欠けていた。

 録画はまだ続いていた。

 透は停止ボタンを押した。

 画面に、保存中の表示が出る。

 それを待つ数秒が、異様に長く感じられた。

「部屋へ戻りましょう」

 真壁が言った。

「ここに長くいるべきではありません」

「力は?」

 笑が言った。

「力を置いて戻るんですか」

「探すために戻るのです」

「どういうことですか」

「むやみに歩けば、こちらが見つける前に、向こうに見つけられます」

 真壁の言葉に、笑は黙った。

 向こう。

 それが悠真のことなのか、この館そのもののことなのか、透には分からなかった。

 三人は来た廊下を戻った。

 さっきまでよりも、廊下はさらに長く感じられた。床板を踏むたび、手首の鈴が鳴る。

 

ちりん。

 ちりん。

 

その音だけが、自分たちがまだここにいる証拠のようだった。

 透は何度も後ろを振り返りたくなった。

 だが振り返らなかった。

 振り返れば、何かがいる。

 そんな気がした。

 部屋へ戻ると、常夜灯は元通り点いていた。

 さっき消えたはずなのに。

 誰もそのことを口にしなかった。

 布団は乱れ、座卓はずれていた。枕元に置かれていたはずのお守りは、三つだけ残っている。四つ目はない。

 切れたお守りは、真壁が拾った。

 けれど、それが誰のものだったのかは、まだ分からない。

 透は部屋の中央に座った。

 笑は透の隣に座る。

 真壁は襖の近くに正座した。

「動画を見ます」

 透は言った。

 自分に言い聞かせるためでもあった。

 見たくはない。

 だが、見なければならない。

 力が消えた瞬間、何が起きたのか。

 悟は本当にそこにいたのか。

 遊戯室の奥に見えた悟らしき姿は何だったのか。

 少しでも手がかりが欲しかった。

 透はスマホを操作し、最新の動画を開いた。

 再生ボタンを押す。

 画面は、最初から暗かった。

 光がゆれ、長い廊下が映され、次に真壁の背中、透と笑の腕。

 力がスマホを手に持っていたせいで、映像は不安定だった。

 音声に、力の息遣いが入っている。

『さとるー』

 動画の中で、力が小さく呼んでいた。

 その声を聞いた瞬間、笑の目から涙が落ちた。

 透は画面から目を逸らさなかった。

 動画の中で、廊下の奥から悟の声がする。

『ちから、こっち』

 力の手が揺れる。

 画面が真壁の横顔を映す。

 真壁が首を横に振っている。

『返事をしてはいけません』

 次に映ったのは、遊戯室の襖だった。

 古びた襖。

 爪で引っかいたような傷。

 力の息が荒くなる。

 襖が開く。

 懐中電灯の光が中へ入る。

 赤いビー玉。

 無数のビー玉。

 その奥に、膝を抱えた人影。

 悟に見える。

 少なくとも、その場で見た透には悟に見えた。

 だが、動画では違った。

「止めて」

 笑が言った。

 透は一時停止した。

 遊戯室の奥。

 壊れた木馬の横に座っている人物。

 顔は伏せられている。

 服装は悟に似ている。

 体格も悟と変わらない。

 けれど、輪郭が妙にぼやけていた。

 まるで、そこだけ映像が滲んでいるようだった。

「これ、悟か?」

 透は言った。

 笑は答えられなかった。

 真壁は画面を見つめている。

「真壁さん」

 透は言った。

「これ、悟に見えますか」

「……見えます」

「でも、はっきりしてない」

「はい」

「実際に見たときは、僕には悟に見えました」

「私にも、そう見えました」

 真壁の答えは静かだった。

 透はその言い方に違和感を覚えた。

 悟だった、ではない。

 悟に見えた。

 真壁は、目で見たものを断言しない。

 それは慎重だからなのか。

 それとも、過去にも似たことがあったからなのか。

「続けます」

 透は再生を再開した。

 動画の中で、奥の人影が顔を上げる。

 その瞬間、画面全体にノイズが走った。

 

ざざっ。

 

顔が見えず、声だけが入る。

『遅い』

 それは悟の声に聞こえた。

 だが、少し違う。

 音が歪んでいる。

 高い声と低い声が重なっているようだった。

『ずっと待ってたのに』

 笑が両手で口元を押さえた。

 動画の中で、真壁が鈴を鳴らす。

 ちりん。

 その直後、画面の端に何かが映った。

「今の」

 透は巻き戻した。

 もう一度見る。

 画面の右端。

 遊戯室の入口のすぐ横。

 一瞬だけ、小さな手が映っていた。

 白い子どもの手。

 襖の陰から出て、すぐに引っ込む。

「いる」

 笑が震えた。

「ここにいる」

 透はもう一度再生した。

 今度は画面を凝視する。

 小さな手。

 確かに映っている。

 だが、その手が出ている場所はおかしかった。

 遊戯室の中ではない。

 廊下側。

 つまり、透たちのすぐ近く。

 あのとき、悠真は遊戯室の奥にいたのではない。

 すぐそばにいた。

 透は背中に汗が流れるのを感じた。

 動画は続く。

『それ、きらい』

 幼い声。

 真壁の顔が強張る。

『おじいちゃん、またじゃまするの?』

 ここで、透は動画を止めた。

 真壁を見る。

「おじいちゃん」

 透は言った。

「悠真くんは、あなたをそう呼んだ」

 真壁はすぐには答えなかった。

「聞き間違いではありません」

 透は続けた。

「動画にも入っています」

 真壁は目を伏せた。

 笑も真壁を見ている。

「真壁さん」

 笑が言った。

「あなた、悠真くんとどういう関係なんですか」

 部屋の外で、風が鳴った。

 窓が小さく震える。

 真壁は長い間、黙っていた。

 そして、ようやく言った。

「私は、悠真くんの祖父ではありません」

「じゃあ、何で」

「そう呼ばれていた時期がありました」

「施設で?」

 透が訊いた。

 真壁の目がわずかに揺れた。

 それが答えだった。

「やっぱり」

 透は小さく言った。

「あなたは、悠真くんがいた施設の人なんですね」

 笑が息を飲んだ。

 真壁は否定しなかった。

「……かつて、児童養護施設で働いておりました」

「職員ですか」

「施設長でした」

 その言葉は、静かに落ちた。

 透は拳を握った。

 やはり隠していた。

 自分のことを旅館の主や大資産家と言い、町を守るために久遠館を続けていると

 真壁はそう説明していた。

 だが本当は、悠真が消えた後の人生に深く関わっていた人物だった。

「どうして最初から言わなかったんですか」

 透の声は硬くなった。

「それを話せば、皆さまは私の話を信用しなくなると思いました」

「隠した方が信用できません」

「その通りです」

 真壁は深く頭を下げた。

「申し訳ありません」

 笑は黙っていた。

 透も、すぐには言葉が出なかった。

 謝られても、力と悟は戻らない。

 それに、真壁が何をどこまで隠しているのか、まだ分からない。

「悠真くんは、私がいた施設に来ました」

 真壁は話し始めた。

「父を失い、母を失い、親戚からも距離を置かれ、久遠という名前ごと世間から避けられていました。彼はまだ七歳でしたが、あの子は、泣きませんでした」

「泣かなかった?」

「はい。最初の数日、彼は一度も泣きませんでした。怒りもしませんでした。食事もほとんど食べず、夜も眠らず、ただ窓の外を見ていました」

 真壁の声は、先ほどの昔話よりも明らかに重かった。

 これは聞いた話ではない。

 見た話だ。

 真壁自身の記憶なのだ。

「ある日、私は彼にビー玉を渡しました。赤いビー玉です。昔ながらの、ガラスの中に白い筋が入ったものです」

 透は座卓の上を見た。

 ビー玉はない。

 だが、あるような気がした。

 赤い光が、まだ部屋のどこかに残っているようだった。

「あの子は、それをとても気に入りました。少しずつ他の子どもたちと遊ぶようにもなりました。特にかくれんぼが好きでした」

「だから、おじいちゃん?」

 笑が訊いた。

「私は当時、今よりは見た目も若かったのですが、子どもたちからはそう呼ばれることがありました。悠真くんも、いつの間にか私をそう呼ぶようになりました」

「それで、悠真くんはどうして失踪したんですか」

 透は訊いた。

 真壁の表情が硬くなった。

「その日は、夏祭りの前日でした」

「夏祭り?」

「町の小さな祭りです。施設の子どもたちも楽しみにしていました。悠真くんも、行きたがっていた」

「行けなかったんですか」

「はい」

「どうして」

 真壁は答えに詰まった。

 その沈黙に、透はまた嫌なものを感じた。

 真壁は何かを選んでいる。

 どこまで話すかを。

「悠真くんは、ある男に会いたがっていました」

「男?」

「父親に似た男です」

 笑が眉をひそめた。

「どういうことですか」

「施設の行事に協力していた男性がいました。地元の有力者で、寄付もしてくださっていた。悠真くんは、その人をとても慕っていました」

「父親代わりみたいに?」

「そうです」

 真壁の声がかすれた。

「その男性は、悠真くんと遊ぶ約束をしました。祭りの前日に、ビー玉で遊ぼうと。けれど、その人は来なかった」

 透は胸の奥が重くなるのを感じた。

 あとで。

 また同じだ。

 父親に言われ続けた言葉。

 そして今度は、父親に似た男にも約束を破られた。

「悠真くんは、その日、施設から姿を消しました」

「その男を探しに行ったんですか」

「そうかもしれません」

「その男は誰ですか」

 真壁は黙った。

「真壁さん」

 透は強く言った。

「力と悟が消えてるんです。隠さないでください」

 真壁の手が膝の上で震えた。

「その男は、後に久遠館の権利を取得した人物です」

 透は息を止めた。

「つまり、それって」

「前から久遠館を欲しがっていた男です」

 笑の顔色が変わった。

「じゃあ、その人が、久遠さんの悪い噂を流したんですか」

「確証はありません」

「でも、疑ってるんですね」

「はい」

 真壁は初めて、はっきりとうなずいた。

「宗一郎氏が妻に暴力を振るっていたことは、おそらく事実です。彼は決して良い父、良い夫ではありませんでした。けれど、横領や不正の話には、不自然な点が多かった」

「旅館を奪うために、噂を流した」

 透が言った。

「可能性があります」

「悠真くんは、それを知っていたんですか」

「分かりません。ただ、子どもは大人が思うより、よく見ています」

 真壁は窓の方を見た。

 暗いガラスに、くたびれた横顔が映っている。

「悠真くんは、その男性を慕っていた。同時に、憎んでいたのかもしれません。父に似た人。遊ぶと約束してくれた人。けれど、父の旅館を奪ったかもしれない人」

「ぐちゃぐちゃですね」

 笑が小さく言った。

「はい」

 真壁はうなずいた。

「本当のことは、いつもぐちゃぐちゃです」

 その言葉を聞いて、透は悟の言葉を思い出した。

 話がきれいすぎる。

 本当のことは、もっとぐちゃぐちゃしてるやろ。

 悟は正しかった。

 少なくとも、そこまでは。

「でも」

 透は言った。

「その話と、今の僕たちに何の関係があるんですか。どうして悠真くんは、力や悟を連れて行くんですか」

 真壁は透を見た。

「悠真くんは、男の人と遊びたがります」

 部屋の空気が冷えた。

「父親と遊べなかったから?」

「それもあるでしょう」

「それだけじゃない?」

「父に似た人に、もう一度約束を守ってほしいのだと思います」

 透は言葉を失った。

 父親。

 父親に似た男。

 男子中学生三人。

 透、悟、力。

 そのうち二人が消えた。

 残っている男は、自分だけ。

 その事実に気づいた瞬間、透は足元から冷たくなった。

 笑も同じことに気づいたらしい。

「透……」

 笑が透の腕をつかんだ。

「大丈夫」

 透は言った。

 大丈夫なはずはなかった。

 それでも、そう言うしかなかった。

 そのとき、力のスマホが勝手に再生を再開した。

 誰も触れていない。

 画面が暗いまま、音声だけが流れる。

 

ざあ、ざあ。

 

雑音の奥に、力の声が聞こえた。


『おーい』


 笑が立ち上がりかけた。

 透が止める。

 スマホの中で、力が笑っていた。


『こっち、めっちゃ広いで』


「力?」

 笑が声を出しかけて、口を押さえた。

 力の声は続く。


『悟もおる。大丈夫や。透、笑、早く来いよ』


 透はスマホを見つめた。

 画面は真っ暗なままだ。

 映像はない。

 声だけ。

 確かに力の声だ。けれど、何かが違う。

 力はそんな言い方をしない。

 笑を危ない場所へ呼ぶとき、あんなに軽く誘わない。

 あれは力の声を使っているだけだ。

 そう分かっているのに、胸の奥が揺れた。

 本当に力だったら。

 助けを求めていたら。

 悟もそこにいるなら。


『なあ、透』


 スマホの中の力が言った。


『おまえが鬼やで』


 その瞬間、画面に映像が戻った。

 暗闇の中に、廊下が映っている。

 古い襖と赤いビー玉。

 そして、遠くに立つ二つの人影。

 一つは力のように見えた。

 もう一つは悟のように見えた。

 二人は廊下の奥で、こちらに背を向けている。

 画面の奥から、子どもの声がした。


『じゅう、かぞえて』


 透の手首の鈴が、ひとりでに鳴った。

 

ちりん。

 ちりん。

 ちりん。

 

真壁が叫んだ。

「見てはいけない!」

 だが、遅かった。

 透は画面を見ていた。

 スマホの中の廊下の奥で、力と悟らしき二つの影が同時に振り返った。

 その顔は、どちらも真っ黒に塗りつぶされていた。

 ただ、口だけが白く笑っていた。


『もういいよ』


 動画が止まった。

 スマホの電源が落ちる。

 部屋は再び静まり返った。

 透の手首の鈴だけが、まだ震えていた。


 ちりん。

 ちりん。


 笑が泣きながら言った。

「もう嫌や……」

 真壁は目を閉じた。

 そして、低い声で言った。

「今夜のうちに、見つけなければなりません」

「力と悟をですか」

「はい」

「見つけられなかったら?」

 透が訊くと、真壁は答えなかった。

 その沈黙が、答えだった。

 透は力のスマホを握った。

 ひび割れた画面は冷たかった。

 その冷たさの向こうで、まだ子どもの声が残っているような気がした。


 おとうさん。

 あそぼ。

 じゅう、かぞえて。


 透はゆっくり息を吸った。

 怖い。逃げたい。

 でも、逃げられない。

 このまま朝を待っても、きっと何も解決しない。

 力も悟も戻ってこない。

 悠真も、誰にも見つけてもらえない。

「行きます」

 透は言った。

 笑が透を見た。

「透」

「探しに行く」

「私も行く」

「危ないで」

「一人で残る方が無理」

 笑の目は赤かった。

 けれど、その奥には決意があった。

 怖がっている。

 泣いている。

 それでも、一緒に行くと言っている。

 透はうなずいた。

 真壁は二人を見た。

「今から向かう場所は、離れです」

 その言葉に、部屋の空気がまた重くなった。

 撮影禁止であり、真壁が、何度も危険だと言った場所。

「そこに、何があるんですか」

 透が訊いた。

 真壁は静かに答えた。

「宗一郎氏の部屋です」

 風はなかったのに、窓の外で、池の水面が揺れた。

 その波紋は、まるで誰かが暗い水の上でビー玉を転がしたように、丸く、赤く、広がっていくように見えた。

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