表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/131

第8話:観測者、静かなる収穫(ハーベスト)


 第2エリアのボス戦を終え、僕たちは始まりの町「エウレカ」の噴水広場に戻っていた。


 戦いの興奮が冷めやらぬ中、一番最初に口を開いたのはシロロだった。


「むぅ〜……。可愛くない!  全然可愛くなかった!!」


 彼女は頬を膨らませ、不満を爆発させる。


「ボスはただの木だし! 霧でジメジメしてるし! 

最後のキラキラ(ミラーボール)がなかったら評価1だったよ!」


「まぁまぁ、シロロちゃん落ち着けって。終わりよければすべて良しだろ?」


 ドドンパが苦笑しながら宥める。


「それに、俺らには先生がいるだろ? 

なぁイオリ、シロロちゃん用に何かいいアイデアないのか? 次のエリアも過労死させられるんだ、飴くらいやってくれよ」


 視線が集まる。


 僕は空中に展開したウィンドウを操作しながら、淡々と答えた。


「……今はまだ、ないな」


「えー!!!! 仲間外れ継続?!」


 シロロが叫ぶ。


「ひどい! イオリくんのケチ! データの鬼!」


「……慌てるな。今週末には第3エリア『ラーヴァシャロー』が解禁される。火山と浅瀬の複合エリアだ。

そこには高熱を喰らう特殊なエネミーと、急激な温度差を利用できる環境がある。……それを利用して少し『実験』をしてみたい」


「え?  じっけん?」


「ああ。それが成功すれば……お前のその無駄な装飾デコの数々を、物理的な『宝石』として撃ち出せる、最高にカワイイおもちゃ(兵器)が作れるかもしれないな」


「……!」


 シロロの瞳が輝きだす。


「宝石……!  おもちゃ箱……! やる!  私やる!!」


「現金な奴だ。……週末まで英気を養っておけ」


 その様子を横目に見ていたフゥが、ふと思い出したように僕に尋ねた。


「……そういえば、イオリさん。貴方の分の『真核』はどうしたの? 私とドドンパさんは生成コンバージョンしたけれど……」


 今回のボス『ミストエンシェント』からは真核は落ちなかったが、前回のスライム周回中に手に入れた予備の真核(暗闇で放置した未加工品)が、僕の手元にはある。


「あれか。あれはまだ寝かせておく」


 僕は答える。


「真核のシステムと価値が広まりきってからだ。最適なタイミングで、欲しがる誰かに売り叩く」


「……ブレないわね」


「ああ。……すまないが、一旦僕はやることがある。ここで失礼する」


 僕はパーティを離脱しようと背を向ける。


 すると、シロロがパッと表情を明るくした。


「あ、じゃあ解散? ねぇフゥちゃん、ドドンパさん! 

カフェ行こ! 路地裏にすっごい可愛いお店見つけたの! ケーキが絶品なんだって!」


「お、いいっすねぇ! 行きましょう、俺が奢りますよ!」


「……ケーキ。……岩のように硬いスコーンがあるなら、付き合うわ」


「やったー! 行こ行こー!」


 騒がしくも楽しげな3人の背中が、広場の向こうへと消えていく。


 それを見送り、僕は一人、喧騒の中に残った。


「……さて」


 僕は表情を引き締める。


「そろそろ、情報が回った頃だろう」


 向かう先は、プレイヤーたちの欲望が交錯する場所

――「冒険者バザー」だ。


 僕は人混みをかき分け、バザーの端末を操作する。


 検索ウィンドウに、あるアイテム名を入力した。


【検索:透明な樹液】

 僕が第1日目に「ゴミ」同然の価格(1G)で買い占めた下級素材だ。


 検索結果が表示される。


【最安値:600G、600G、605G……】


「……ふっ、ビンゴだ」


 画面に並ぶのは、数日前とは比較にならない高騰した価格。


 理由は明白だ。


 第2エリアの森の奥、フィールドには珍しくNPCの住む隠れ家が発見された。


 そこで作成できる家具アイテム【木彫りの祈り像】。


 所持しているだけでHP・MPの自然回復量が微増するという、攻略勢にとっては必須級のアイテムだ。


 その作成素材こそが、『透明な樹液×25個』。


 攻略組が第2エリアの奥地に到達し、この情報の封が切られた瞬間、需要は爆発した。


「600倍か。悪くない」


 僕はインベントリを開く。


 そこには、あの時買い集めた在庫が眠っている。


【所持数:25,030個】

 僕は迷わず出品登録を行う。


 ただし、小出しにはしない。

 市場最安値をわずかに下回るラインに、巨大な「壁」を築く。


【出品価格:599G】

【出品数:25,030個】

 確定ボタンを押す。


 ドォン、という重い音と共に、市場ボードに僕の出品が反映される。


『うわっ、なんだこの売り板!?』


『2万個!?誰だこんな在庫抱えてた業者!』


『599Gで蓋されたぞ!これ以上値段上がらねえ!』


 周囲のプレイヤーたちがどよめき始める。


 これらが全て売れれば、手数料10%を引いても……約1,350万G。


「……十分な利益リターンだ」


 これで、希少なレアドロップ素材や、面倒なアクセサリー作成用の素材を、金に糸目をつけずに買い漁ることができる。


 僕は空になったインベントリと、凄まじい勢いで増えていく所持金ゴールドの額を見て、小さく笑った。


「あとは、相場をコントロールしながら待つだけだ」


 バザーを後にした僕は、次なる目的地へ向かう。


 広場に面した大きな建物、「冒険者ギルド」だ。


「いらっしゃいませー」


 受付嬢のNPCが笑顔で迎えてくれる。


「『イオリ』さんですね。冒険者端末をこちらにかざしてください。ランクを測定します」


 僕は言われた通り、端末をリーダーにかざす。


 これまでの討伐記録、特に第2エリアボス撃破の功績が読み込まれていく。


 ピロン♪

【冒険者ランク:D】


「更新を完了いたしました。昇格おめでとうございます!」


 受付嬢がトレイを差し出す。


「こちら、Dランク昇格特典となります」


【入手:アクセサリー研磨剤×5】

 アクセサリーの性能を微調整できる消耗品だ。


 地味だが、バザーで買うとそれなりの値段がする。


「ありがとうございます」


「……いってらっしゃいませ!」


 ギルドを出ると、街はすでに夕暮れに染まっていた。


 オレンジ色の光が、石造りの街並みに長い影を落としている。


「さて」


 僕は伸びをする。


「昨日はボス戦への準備で飛ばしてしまったからな」


 僕は「観測士」としての視界アイを起動した。


 街を行き交うNPCの配置、露店の並び、そしてプレイヤーたちの動線。


 それだけではない。


「……風のベクトルが変わっている。NPCの会話パターンに『暑さ』に関するワードが増加……」


 システム内部ですでに、次のエリア開放に向けた予兆イベントが始まっている。


 普通のプレイヤーなら見逃すような些細な変化。

 だが、僕にとっては宝の地図だ。


「……街の解析マッピングをしに行くか」


 次のエリア解禁まで、あと数日。


 僕の「準備」に、休息という文字はない。

最後までお読みいただきありがとうございます!


第8話いかがだったでしょうか?


ついに、第3話でイオリが「1G」で買い占めていたゴミ素材が、600倍の価値を持つ黄金へと化けました!


1350万Gという莫大な資金を手にしたイオリ。彼にとってお金は目的ではなく、さらなるシステムハックのための「血液」でしかありません。


そして、シロロに予告した『宝石のおもちゃ』とは一体どんな武器になるのか……?


次回は、新エリア解禁に向けて、イオリが街の些細な変化(NPCの愚痴など)から「次の儲け話」を嗅ぎつけ、さらなる独占モノポリーを仕掛けます!


少しでも「転売スッキリした!」「シロロの武器が気になる!」と思っていただけましたら、

下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援をいただけますと、毎日の執筆の最強のバフになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ