第7話:観測者、鏡の舞踏(ミラーボール)を観測
◇
平日の夜。
始まりの町「エウレカ」。
仕事終わりのサラリーマンや学生たちでごった返す噴水広場で、僕たち4人は集合していた。
「……ねえ、これ見て」
集合するなり、シロロが不満げに空中ウィンドウを僕たちに見せてきた。
表示されているのは、冒険者端末から見れる『アルケ掲示板』の雑談スレッドだ。
——【掲示板】——
【スレッド:変人目撃情報 Part2】
1:名無しの冒険者:ID:moba_01 /xx月xx日 (金) 18:30
> >なんか素材?アイテム?を蹴ってる3人組を発見。
> >第2エリアの奥で、霧の中をサッカーみたいに蹴り進んでた。
> >
2:名無しの冒険者:ID:vet_05
> >それあいつだろ、エウレカ草原で噂になってたやつ。
> >「蹴り変人」とその取り巻きじゃね?
> >
3:名無しの冒険者:ID:new_03
> >なにどゆこと?PK集団?
> >
4:名無しの冒険者:ID:moba_01
> >よくわからんけど、真核蹴ってるらしい……??
> >あと、なんか光るフード被った男が「俺は灯台だ!」って
> >叫んでたとかいう目撃情報も……あれマジで何かの儀式か?
> >ホラーなんだが。
—————————
「……これを見て。この変な3人組って……」
シロロがジト目で僕、フゥ、そしてドドンパを順番に指差した。
「君たち……よね?」
僕、ドドンパ、フゥの3人は、それぞれ別の方を向いて誤魔化そうとしたが、当然誤魔化しきれてはいなかった。
「……ふむ。次の第3エリアは『火山』と『浅瀬』だ。
水の需要が爆発する。今のうちに市場の『ただの水』を買い占めておくか……」
僕はブツブツと独り言を言いながら、バザーの相場をチェックして視線を逸らす。
「……ふふ。可愛いわね、私の霧石……。
この螺旋の削り出し、何度見ても飽きないわ……」
フゥはニヤニヤしながら、手元の無骨なドリル『霧穿ち掘削器』を愛でて現実逃避している。
そして、ドドンパは。
「へっ、掲示板でも話題かよ。……
『蹴り変人とその取り巻き』、ねぇ……」
彼は新しい指揮棒『風導戦術タクト』を見つめ、深々と溜息をついた。
「……遂に俺も『変人』の仲間入りか……。まともな戦術士で売ってたはずなんだがなぁ……」
「事実だろ。諦めろ」
僕が淡々と告げると、彼はガックリと項垂れた。
「……まぁ、そうか。あの濃霧の中、必死に真核蹴っ飛ばして走り回ったんだ。……否定はできねぇよな」
それを見たシロロの堪忍袋の緒が切れた。
「ええええ!! 何それズルい!
私がいない間にそんな可愛くて(?)強いの作ってたの!? 仲間はずれ反対ー!!」
シロロの絶叫が広場に響く。
「フゥちゃんも! ドドンパさんも!
私だけ初期装備なんて許さないからね! なんで誘ってくれなかったの!?」
「……騒がしいな。お前が勝手に寝たんだろう」
僕はウィンドウを閉じる。
「だが、ちょうどいい。新武器の試運転だ。
行くぞ、第2エリアボス『ミストエンシェント』へ」
「ボス!? いきなり!?」
「ああ。第3エリア『ラーヴァシャロー』はまだ運営のロックが掛かっていて入れないが、入場に必要な『称号』は今のうちに取っておく。……解禁ダッシュを決めるぞ」
⸻
◇第2エリア『ミストヴェイル』 ボスエリア
ボスゲート。
転送された先は、視界もままならないほどの濃霧に包まれた広大な森だった。
ズズズズズ……!
地鳴りと共に、霧が集束する。
現れたのは、霧で構成された巨大な古木『ミストエンシェント』。
無数の根と、霧の幻影を操る第2エリアの支配者だ。
「シャァァァ……!」
ボスが咆哮すると、霧が一気に濃くなり、ボスの姿がかき消えた。
さらに、周囲に5体、10体とボスの分身が出現する。
「うわっ、どれが本物だ!? 全部同じに見えるぞ!」
ドドンパがタクトを構える。
霧による視界不良と、分身による幻惑。
これがこのボスの厄介なところだ。
普通なら長期戦は免れない。
だが――
「……ふん。可愛くない」
不満げな声が響いた。
シロロだ。
彼女はボスではなく、この「映えない」空間そのものを睨みつけていた。
「こんなジメジメした真っ白な霧とか、全然テンション上がらないし! 敵が見えないとか卑怯だし!」
彼女はポーチからキラキラした粉(装飾用パウダー)を取り出すと、杖を派手に振り回した。
「もっと可愛くしてあげるー!
スキル『装飾』・スプリンクルッ!!」
キラキラキラキラ……!
彼女が放ったのは攻撃魔法ではない。
ただの「演出用エフェクト」だ。
だが、それが霧に混ざった瞬間、僕の『観測眼』にはハッキリと【状態異常:視覚マーキング】のログが見えた。
「なっ……!?」
真っ白だった霧が、毒々しいほどのショッキングピンクとラメ色に染まり、キラキラと輝き始めた。
「ギャッ!?」
隠れていたはずのボスの本体、そして分身たちが、ピンク色の粒子を浴びてくっきりと浮き上がる。
「霧を……デコったのか!?」
「今だ! 視界は確保された!」
僕は叫ぶ。
「フゥ、足止めだ!」
「はい……! 大地よ、逃がさない!」
フゥがドリルを地面に突き刺す。
ズガガガガッ!
『石壁』が隆起し、ボスの根を分断。逃げ場を塞ぐ。
そこから数分間の『可視化』されたてしまったボスはただの的だった。
着実にダメージが蓄積していき、ボスが怯んだ。
お膳立ては整った。
僕は隣の相棒を見る。
指示はいらない。
戦場の「見え方」が変わった瞬間、彼の『戦術士』としてのスイッチは既に入っていた。
「……へッ。なるほどな」
ドドンパはニヤリと笑い、タクトを掲げた。
「シロロのラメで視界確保、フゥの壁で退路封鎖。……だったら仕上げは、この俺が『光』になるのが一番効率的だろ!」
彼はタクトの隠し効果『灯台の輝き』を発動。
強烈な光が溢れ出す。
「イオリ! 射線の計算は頼んだぞ!
……総員、俺の輝きに続けェェェッ!」
ギュンギュンギュンギュン!!
ドドンパが猛烈な勢いで回転を始める。
僕は杖を構え、空間の反射率を瞬時に計算する。
「角度修正、右3度! シロロの放った霧のラメを、光を乱反射させる『レンズ』として中継しろ!」
「応よォォォォ!」
タクトの光がシロロのデコ霧に反射し、全方位にレーザーのような光を撒き散らす。
回避不能の光学兵器。
「な、何これ!? ドドンパさん、めっちゃ綺麗!
……っていうか、これじゃまるで……」
シロロが呆気にとられる。
『俺は……今の俺は……ミラーボールだァァァァァ!!』
自虐的な絶叫と共に、光の弾丸となったドドンパが突っ込む。
分身たちが光の乱反射に焼かれ、最後に残ったピンク色の本体に、回転するタクトが突き刺さる。
ズドォォォォン!!
ド派手な爆発と共に、ミストエンシェントが砕け散った。
『Victory』
ファンファーレが鳴り響く中、目を回したドドンパが地面に大の字になっている。
「……目が……回る……クソッ、これが戦術士の仕事かよ……」
「やったー! 倒したー! 最後めっちゃキラキラしてて可愛かったよー!」
シロロが無邪気に駆け寄る。
「……ふぅ。石と霧、そして光……。計算外の現象だったけど、美しい破壊だったわ」
フゥも満足げにドリルを撫でている。
僕は地面に落ちた報酬を拾い上げる。
『称号:霧を裂く者』
『ミストエンシェントの樹皮』
「……また真核は落ちなかったか。だが、これで第3エリアへの『鍵』は手に入れた」
僕はシステムログを確認する。
『第3エリア:ラーヴァシャローへの通行権限が付与されました』
「よし。これでいつ運営がエリアを開放しても、スタートダッシュが切れる」
僕は3人を振り返る。
光る回転体、デコ職人、石マニア。
どいつもこいつも異常だが……結果だけは最強だ。
「行くぞ。次は『熱』との戦いだ。……シロロ、お前のその『デコ』、次のエリアでも過労死するほど使ってもらうぞ」
「えっ? ……なんか嫌な予感するんだけど!?」
新たなエリアへの扉が開くのを待ちながら。
僕たちの「狂気」の準備は整った。
さて、頃合いか。バザーの確認をしなくては。
リリースから少し時間が経ち、第2エリアの情報も出回ってきた頃だろう。
あのアイテムが化けるぞ。
(さぁ、収穫の時間だ。)
第7話いかがだったでしょうか?
ついに初期メンバー4人での初ボス戦でした!
一般的には「ハズレ(不遇職)」と言われる装飾士のスキルも、イオリの悪知恵とドドンパの犠牲が合わされば、立派な広範囲・光学兵器に早変わりします。
これからも、彼らがまともに正規ルートを進むことはありません。
システムの穴を突き、理不尽な環境を押し付け、自分たちだけの『正解』をハックして見つけ出す冒険が続いていきます!
次回は街へ戻り、いよいよイオリが序盤に仕込んでいた「あの投資」が爆発します!
1Gで買い占めたゴミが、凄まじい黄金へと変わる瞬間をぜひお楽しみに!
少しでも「ミラーボール笑った!」「このパーティのハックもっと見たい!」と思っていただけましたら、
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これからもカオス・アトリエの面々をよろしくお願いします




