第6話:観測者、仮初めの日常(リアル)を演じる
2/18 冒頭の観測士スキルの名称を変更しました。
ここでしか使用していないスキルだった為、今後多用するスキルに変更いたしました……笑
◇ 第2エリア、岩盤地帯。
無風地帯の静寂の中、僕は呟いた。
「……そろそろか」
僕は岩の上に座り、端末の時計を確認する。
1時間と10分が経過した。
僕は立ち上がり、少し離れた窪みへと歩み寄る。
外界から隔離するために被せておいた分厚いローブをバサリと退かすと、そこには微かな光を放つ『ミストスライムの真核』が転がっていた。
光も風も、音すらも当たらない暗がりで、ただ1時間。
僕の真核には、狙い通り**『何もしなかった(無・忘却)』**という特殊な記録ログが定着したはずだ。
「……よし」
僕は誰に見せるでもなくその真核を拾い上げ、インベントリの奥深くへと仕舞い込んだ。
全員分の『真核』への環境ログの焼き付け、完了の時間だ。
「おーい! 戻ったぞぉぉ……!」
霧の向こうから、息を切らしたドドンパが走ってくる。
その足元には、彼が蹴り続けてきた真核が転がっている。
「ゼェ、ゼェ……! ここの上昇気流、強すぎるだろ……!
何度崖下に落ちそうになったか……」
「だが、その風圧がお前の真核には必要だ」
僕は膝に手をつくドドンパに近づき、彼の足元で淡い緑色の光を放つ真核へ視線を落とした。
【観測士スキル:詳細観測】
真核の蓄積ログを確認する。
強烈な『風』のログ、エリアの環境ログ『霧』。
それに加え、ドドンパが頭に被り続けていたシロロのデコレーション『真珠色のフード』が放つ『光』のログも、環境記録としてしっかりと刻まれていた。
「……いいだろう。風の力と、ヘイトを集める『灯台(光)』としての機能が完璧に焼き付いた」
「おいお前、俺が必死に守ってきたシロロちゃんの『デコ』を、最初から素材(光源)扱いしてたのかよ……」
「当然だ。あの目障りなピカピカを利用しない手はない」
「悪魔かお前は……」
そんな軽口を叩いていると、反対側の岩陰からもう一人の影が現れた。
「……ふふ、ふふふ……」
フゥだ。
彼女は自分の真核を、まるで壊れ物を扱うように両手で大切に抱きかかえていた。
その真核は周囲の霧を吸い寄せ、ゆらゆらと半透明の靄を纏っている。
「……素晴らしいわ。この重み、冷たさ、そして霧の中で凝縮された硬度……。最高の『石』に育ったわ……」
眼鏡の奥の瞳が、危ない光を放っている。
僕は二人の真核のステータスを最終確認する。
ドドンパの『風と指揮』。
フゥの『霧と石』。
どちらも、僕の想定した『正解』のさらに上を行く、純度の高いログが完成していた。
「……上出来だ。今日はもう遅い。入り口の石碑まで戻って、街で解散しよう」
「賛成ー。さすがに足が棒だわ」
「……ええ。早くコンバージョン(生成)してあげないと……」
僕たちは転送ゲートを潜り、始まりの町エウレカへと戻った。
時刻は既に深夜2時を回ろうとしていた。
僕たちは足早に『核生成施設』へと向かい、各々2万Gを支払って真核を台座にセットし、武器への変換処理だけを済ませる。
「ステータスの詳細な検証は後回しだ。……明日も仕事があるからな」
簡単な挨拶を交わし、僕たちはそれぞれの光に包まれてログアウトした。
視界の白い光が収束し、次に目を開けた時。
そこは薄暗い、モニターの光だけが明滅する6畳の部屋だった。
「……ふぅ」
僕はヘッドギアを外し、首を鳴らす。
◇ 現実世界 イオリの部屋
AM 2:15。
静寂だけが支配する、僕の本来の居場所。
「……初日は上々、か」
独り言を呟き、机の上の栄養補助食品を水で流し込む。
明日――いや、今日からはまた『現実』という名の退屈なクエストが待っている。
来週には長期有給休暇を申請してあるが、それまでの月曜から金曜までは、社会人としての役割を演じなければならない。
僕はベッドに倒れ込み、泥のように眠りに落ちた。
⸻
◇都内某所のオフィスビル。
翌朝。
「……ふわぁ」
デスクについた僕は、隠しきれない欠伸を噛み殺した。
眠い。
脳の処理リソースの半分がまだエウレカに残っている感覚だ。
「イオリkっ……じゃなくて、矢田島。おはよう」
背後から、聞き慣れた声――いや、聞き慣れた『調子』の声がかかる。
振り返ると、少しぽっちゃりとした体型の男、種末慎二が立っていた。
ゲーム内のイケメンアバター『ドドンパ』の中身だ。
「……おはよう、種末。その呼び間違いはやめろ」
「わりぃわりぃ。しっかしお前、ゲーム内と現実でテンション同じすぎだろ。少しくらい変えろよ」
慎二は苦笑しながら、自販機の缶コーヒーを僕のデスクに置いた。
「くだらん。見た目の違いに、人格の変容など求めていない」
「へいへい。……昨日はサンキューな。おかげで俺も、『正解』ってやつが見つかった気がするわ」
慎二が小声で囁く。
「まあ、『変人』の称号と引き換えにな」
「名誉なことだろ」
その時、オフィスのドアが開き、パタパタと軽い足音が近づいてきた。
「矢田島センパイ、おはよーございまーす!
……って、めっちゃ眠そうですね?」
ピンク色のカーディガンを羽織った女性社員、眞島真白。
広報部のエースであり、社内のアイドル的存在だ。
(※読者の皆様には、彼女がゲーム内で世界をピンクに染めようとするあの『シロロ』の中身であるとだけ伝えておこう。
だが当然、今の僕たちがそんな事実を知る由もない)
「……眞島か。おはよう。少し、な」
「もうー、夜更かしはお肌に悪いですよー! クマできてますって!」
彼女は僕の顔を覗き込んでケラケラと笑うと、隣の慎二に向き直った。
「あ、種末センパイもおはようございます!」
「おう、おはよう眞島ちゃん。今日も元気だねぇ」
「当然です! 今日も一日可愛くいきましょー!」
彼女は嵐のように挨拶を振り撒きながら、給湯室の方へと消えていった。
「……元気なもんだ」
「全くだ。……さて、俺たちも仕事の時間といきますか」
(この、現実世界で何気なく言葉を交わしている職場の先輩・後輩関係が、ゲーム内では『冷血観測士』と『カワイイモンスター』としてパーティを組んでいるとは……この時の僕たちは互いに気づいていなかった)
⸻
◇
同じオフィスの少し離れた席。
デスクの隅に、綺麗に磨かれたアメジストの原石が飾られている。
その席の主、津島文華は、誰にも見えない角度でスマホの画面を凝視していた。
『World of Arche』のコンパニオンアプリ。
画面に表示されていたのは、昨夜生成だけを済ませ、今朝アプリで確認したばかりの『愛し子』のデータだ。
無骨なドリル……ではない。
霧のような半透明の水晶が螺旋状に絡み合い、先端が鋭利な杭となった、美しくも凶悪な『採掘具』だ。
——【Weapon Data】——
【名称:霧穿ち掘削器】
• 種別: 手持ち掘削機
• 攻撃力: +10 / INT: +5
• 固有パッシブ: 『霧石の礫』
• 固有アクティブ: 『霧石壁』
• 隠し効果: 『地鳴り記憶』
[フレーバーテキスト]
• 「霧は石を隠し、石は霧を支える。その境界を愛した者だけが、この掘削器の真価を知る。」
——————————————
「……ふふ。可愛い。私の霧石……」
津島はうっとりと画面を撫でる。
昨夜の記憶。
霧の中、足裏で感じた硬度。
それが数値となって結実している。
「おい、津島」
不意に上司の声がかかった。
「……ッ、は、はい!」
彼女はビクリと肩を震わせ、慌ててスマホを伏せた。
「これ、会議の資料。昼までに整理しといてくれ」
「あ、はい……すいません、すぐに」
彼女は眼鏡の位置を直し、普段の大人しい事務員の顔に戻る。
だが、その指先は、デスクのアメジストを愛おしそうになぞっていた。
⸻
昼休み。
社員食堂。
「でさ! 見ろよこれ! やばくね!?」
種末が興奮気味にスマホを突き出してくる。
カツカレーを食べている僕の目の前に表示されたのは、彼の新武器のデータだ。
——【Weapon Data】——
【名称:風導戦術タクト(エアロ・コンダクター)】
• 種別: 指揮棒
• AGI: +10 / INT: +8
• 固有パッシブ: 『濃霧予兆』
• 隠し効果: 『灯台の輝き』
—————————————
「指揮棒だぜ指揮棒! 俺の『戦術士』ってジョブにドンピシャだろ! サッカーで言えばピッチ上の監督だ。
……いや、俺自身がボールになって切り開くのか?」
種末がスプーンを振り回して熱弁する。
「振ると風のラインができて、敵の攻撃軌道を予測したり味方の移動速度が上がるんだと!
これで俺が戦場を支配できるってわけよ!」
僕は水を一口飲み、冷ややかに言った。
「……だろうな。お前の蹴りは上昇気流に乗っていた。風読みのログが『予兆』となり、シロロのフードの輝きが『道標』として焼き付いているはずだ」
「うぐっ……! お前、なんで画面見る前に全部言い当てるんだよ! 自慢させろよ!」
種末ががっくりと項垂れる。
「予測の範囲内だ。……だが、悪くない数値だ。週末の攻略、
期待しているぞ『灯台』」
「へっ、任せとけよ。……あーあ、早く帰りてぇ。来週の有給まであと4日か……」
⸻
定時退社。
僕は帰宅ラッシュの人の波に逆らわず、駅へと向かう。
すれ違う人々は皆、疲れた顔をしている。
だが、僕の足取りは軽い。
現実は仮の宿。
本当の『正解』がある世界へ、帰還する時間だ。
すれ違う人々の群れ。
信号機の赤、青。
それらが一瞬、数値の羅列に見える。
重症だな、と自嘲する。
だが、悪くない気分だ。
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第6話どうでったでしょうか??
二人の武器は指揮棒とドリルでした。
強そう(?)
この武器は二人の……いやフゥの趣味(狂気)を加速させていきます
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「こいつヤバいな」「どうなるか面白そう!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




