第10話:観測者、宝石箱の大砲を作成、でも完成したのは鞄でした
◇ 始まりの町 エウレカ
核生成施設の重厚な扉が開き、そこからスキップで飛び出してきたのは、満面の笑みを浮かべたシロロだった。
「うふふふへへへへ……可愛い……可愛い!
カワイイーー!!!」
彼女が大切そうに抱きしめている「それ」を見て、待っていた僕たちは言葉を失った。
「か、カバンて……。え? カバンって武器枠なの? え?」
ドドンパが目を白黒させている。
シロロの手にあるのは、パステルピンクの生地に、縁を涙型の宝石で彩られ、大きなリボンがついた
可愛らしいポシェット(鞄)だった。
どう見ても、これからショッピングに行く女子大生の装備だ。
「……ふっ。想定通りだ」
僕は腕を組み、涼しい顔で頷く。
(……か、鞄だと!?
僕は『飲み込んで撃ち出す大砲や銃』になると予測していたのに、システムはまさか『収納具』そのものを武器枠で出力したのか!?)
内心の動揺を隠しきれない僕をよそに、フゥが興味津々にシロロへ近づいた。
「……ねぇシロロ。この石、入れてみてちょうだい。
あ、これも。これも、それからこれも……」
フゥは足元の石ころを次々と拾い上げる。
「えへへ、可愛くないねこの石。ふっふっふ、可愛くなれー♪」
シロロはポシェットの口を開け、石を放り込んだ。
ポムッ♪
ファンシーな効果音と共に、ポシェットから何かが飛び出した。
それは、ラメが散りばめられたキラキラした物体や、黒く輝くカットジュエル、そしてオランダの涙の形をしたキャンディだった。
「!!!」
フゥがそれを拾い上げ、解析スキルを使う。
「……この飴、『キャンディ爆弾』ってなってるわ」
——
【解析:キャンディ爆弾】
• 効果: 衝撃を与えると、内部に圧縮された応力が解放され、ガラス片と爆風を撒き散らす。
• 属性: 刺突 / 爆発 / キュート
——
「……驚かないぞ。俺はもう驚かない。ペンに掘削機にカバンを武器にしたパーティだ。今更なにも驚く必要ないよな!!」
ドドンパは声のトーンとは裏腹に遠い目を、していた。
「……ふっ。何を入れても『変換』されるのか。実に興味をそそるな」
僕はポシェットのデータを詳細観測する。
——
【シロロ専用武器:宝石変換鞄】
• 種別: 鞄(武器)
• ランク: ログ・デザイン級 (キュート)
【 ログ構成】
・ファーネス・ミミックの真核
・黒曜石
・オランダの涙
・ [シロロ]の装飾
【パッシブ効果】
[射出]
・鞄の中にアイテム及び素材を入れると《溶解》→《ガラス化及び熱現象》→変換され《射出》が可能になる。
・射出は宝飾化、変換した素材によって威力がは変動する。
・射出せずに、変換だけする事も出来るが売却はできない。
・隠し効果を発動した状態で射出するとSTRが+30される。
・ダメージ値計算が通常とは異なる為、取扱注意。
・鞄の中身は熱い。
※カワイイ指数値で変動します。
【隠し効果:宝飾武装化】
ポシェットに入れた物を“宝石兵器”として武装化する。
• 火薬を入れる
┗ ガラスコーティングされたピンク色の「キャンディ爆弾」
• 熱湯を入れる
┗ 光を乱反射する「グリッター・ラメ熱湯ビーム」
• ただの石を入れる
┗黒曜石でカットされた「星型の弾丸」
※見た目可愛さマシマシ、殺傷能力マシマシです。
——
「……はっきり言って、かなり最強だ」
カワイイ指数値とは何だ?全く意味がわからない。
しかし僕が評価を下すと、シロロはVサインを作った。
「でしょー! 可愛いは正義! 最強! ふーー♪」
「ボソッ……僕の資金力があれば、あれ(火薬などの危険物)を大量に買って、絨毯爆撃も可能か……」
「おいイオリ、今物騒なこと呟かなかったか?」
新たな火力を手に入れた僕たちは、一旦解散することにした。
「僕は冒険者バザーへ行く。市場の動向を確認したい」
「了解。じゃあ俺たちはギルドでランク測定してくるわ。
ボス討伐と第3エリア到達で結構ポイント溜まってるはずだしな」
「30分後に、広場のカフェ『木漏れ日亭』で合流だ」
⸻
冒険者バザー。
第3エリア解禁から数時間が経ち、市場は活気に満ちていた。
「さて……出すか。そろそろいいだろう」
僕は端末を操作する。
昨日、仕込んだ『ただの水』と『ボロボロのフード』。
第3エリアの熱対策として需要が爆発している今が、売り時だ。
「検索……『ただの水』」
画面に表示された検索結果を見て、僕の指が止まった。
【最安値:299G × 6,898個 出品者:ジィサン】
「……?!」
僕は目を見開き、さらにもう一つを検索する。
「検索……『ボロボロのフード』」
【最安値:199G × 778個 出品者:ジィサン】
「……値段は上がっている。だが……」
僕が想定していた売り出し価格より、僅かに安い。
そして何より、この出品数。
解禁直後の混乱期に、これだけの数を揃えて市場に放流している?
「……大量に仕入れていた奴がいた、だと?
それも、必要個数に目処を付けての出品……」
出品者名 『ジィサン』。
このムーブは素人のそれではない。
情報を読み、需要を予測し、僕と同じタイミングで仕込みを行っていた「同類」がいる。
出品履歴を見る。
……初期装備の素材、回復薬の原料。
堅実で、かつ相場を熟知したラインナップだ。
(……いや、違う。
この男は、僕が数日前に出品した『透明な樹液(2万個)』の壁を見て、僕の動きを読み切っていたんだ)
(『この業者は必ず次のエリアでも独占を仕掛けてくる』と予測し、僕の売りたい価格の少し下に、あえて先行して壁を作った……!)
「フッ………。」
僕は思わず笑い声を漏らした。
(少しは理解している奴がいる様だ。この広い世界だ、僕だけな筈はない。)
僕の独占市場計画は、見知らぬ老獪(?)なプレイヤーによる高度な盤外戦によって阻まれた。
だが、不快ではない。
むしろ、心地よい緊張感が走る。
「まぁいい。資金は『透明な樹液』で十分に作った。こいつの在庫が売れていき、いずれ値段が落ち着くまで待つか……あるいは」
僕はインベントリの水とフードを見る。
「こうなれば、シロロの変換素材(弾薬)にするのも手だな。……しかし、フードや水を入れたら、あの鞄は何を吐き出すんだ……?」
『オシャ水(聖水)』か?
それとも『絶対防御のドレス』か?
想像がつかない変数を抱え、僕はバザーを後にした。
⸻
30分後。
カフェ『木漏れ日亭』。
「おーいイオリ! こっちこっち!」
テラス席で、ドドンパたちが手を振っている。
テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。
「ランク測定はどうだった?」
「バッチリっすよ! 全員Cランクに昇格!
これでクラン結成の権利もゲットだ」
ドドンパが得意げに冒険者端末のギルドカードを見せる。
「私はねー、フルーツタルト頼んだの!
これ食べると『DEX+5』なんだって! 可愛いし美味しいし最高!」
シロロがフォークを咥えて幸せそうだ。
「……私はスコーン。……硬度が足りないわ」
フゥは相変わらずだ。
「イオリ、お前バザーはどうだったんだ? またボロ儲けか?」
「……いや。今回は『引き分け』だ」
僕が『ジィサン』の一件を話すと、ドドンパは驚いた顔をした。
「へぇ……お前と張り合う相場師がいるのかよ。世界は広いな」
「ああ。だが、次は負けない」
僕はコーヒーを煽り、仲間たちを見渡す。
「武器は揃った。資金もある。ランクも上がった」
僕は次なる指針を告げる。
「次は 『アクセサリー』 だ」
「アクセサリーか。そういえば、バザーで完成品って見かけないよな?」
ドドンパが首を傾げる。
「ああ。現在のシステム仕様上、完成したアクセサリーはプレイヤー間の譲渡やアイテムクラフトが不可能に設定されているからな」
僕は持っているデータを口に出して共有する。
「つまり、手に入れるには『希少猫シリーズ』などがドロップする『核』を自力で探して狩るか、バザーでその『核』自体を買うしかない」
「じゃあ、みんなでそのレアな猫ちゃんを探しに行くの?」
シロロの問いに、僕は首を横に振った。
「いや、時間効率を優先する。正直な所、現在解放されているエリアの希少猫から得られる『核』では、大した物は出来ないという情報が掲示板で出ていた」
「……なるほど。『真核』と違ってプレイヤーの記録を吸い取ったりしないから、作成出来るアクセの能力がほぼ固定されてしまうのね」
フゥが的確に補足する。
「じゃあ、わざわざ倒しに行く必要はないってこと?」
フゥの問いに、僕は頷く。
「ああ。だがあるに越したことはない。……僕には金がある」
僕は淡々と方針を伝えた。
「金に物を言わせて、バザーに流れている『核』を買う」
「おー! アクセいいね! 可愛い指輪とか欲しい!」
「俺は移動速度アップの靴とか欲しいなー」
新たなライバルの影を感じつつ、僕たちは次なる強化へと歩き出した。
まだ名もなきこのパーティの伝説は、ここから加速していく。
最後までお読みいただきありがとうございます!
クラン【Chaos Atelier】が正式に設立されました!
しかし、
リーダーの武器属性が反映される仕様のせいで、ホームの外観はまさかの「巨大なインク瓶」に……(笑)。
当然、シロロによって翌日にはピンク色に魔改造されてしまいます。
最後にすれ違った、ゲートボールのスティックを持つ老人と小さな戦士。
彼らとの出会いが、イオリたちの次なるカオスを引き起こします!
カオスアトリエは初期4人に加えこれからも変態的なキャラが加入してしまいます。
少しでも「インク瓶ダサい!」「ジィサンとすれ違った!」と楽しんでいただけましたら、
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これからもカオス・アトリエをよろしくお願いいたします!




