第10話:観測者、鞄の中身は溶鉱炉……え?
始まりの町「エウレカ」。
核生成施設の重厚な扉が開き、そこからスキップで飛び出してきたのは、満面の笑みを浮かべたシロロだった。
「うふふふへへへへ……可愛い……可愛い! カワイイーー!!!」
彼女が大切そうに抱きしめている「それ」を見て、待っていた僕たちは言葉を失った。
「か、カバンて……。え? カバン武器枠なの? え?」
ドドンパが目を白黒させている。
シロロの手にあるのは、パステルピンクの生地に、縁を涙型の宝石で彩られ、大きなリボンがついた可愛らしいポシェット(鞄)だった。
どう見ても、これからショッピングに行く女子大生の装備だ。
「……ふっ。想定通りだ」
僕は腕を組み、涼しい顔で頷く。
(……か、鞄だと!? 杖や銃ですらない、「収納具」そのものを武器化したのか!?)
内心の動揺を隠しきれない僕をよそに、フゥが興味津々にシロロへ近づいた。
「……ねぇシロロ。この石、入れてみてちょうだい。あ、これも。これも、それからこれも……」
フゥは足元の石ころを次々と拾い上げる。
「えへへ、可愛くないねこの石……。ふっふっふ、可愛くなれー♪」
シロロはポシェットの口を開け、石を放り込んだ。
ポムッ♪
ファンシーな効果音と共に、ポシェットから何かが飛び出した。
それは、ラメが散りばめられたキラキラした物体や、黒く輝くカットジュエル、そしてオランダの涙の形をしたキャンディだった。
「!!!」
フゥがそれを拾い上げ、解析スキルを使う。
「……この飴、『キャンディ爆弾』ってなってるわ」
【解析:キャンディ爆弾】
• 効果: 衝撃を与えると、内部に圧縮された応力が解放され、ガラス片と爆風を撒き散らす。
• 属性: 刺突 / 爆発 / キュート
「……驚かないぞ。俺はもう驚かない」
ドドンパが遠い目をする。
「ペンに掘削機にカバンを武器にしたパーティだ。今更なにを驚く必要がある?」
「……ふっ。何を入れても『変換』されるのか。実に興味をそそるな」
僕はポシェットのデータを詳細観測する。
【シロロ専用武器:宝石変換鞄】
• 種別: 鞄(武器)
• ランク: ログ・デザイン級
• ログ構成: ファーネス・ミミックの真核 / 黒曜石 / オランダの涙 / シロロのデコ
• 機能: この鞄に入れたアイテムは、ミミックの「消化(溶解)」プロセスを経て、シロロの「デコ(フィルター)」と、オランダの涙の「ガラス化(急冷コーティング)」により、**「見た目は最高に可愛く、中身は殺傷能力マシマシ」**になって射出される。
【隠し効果:宝飾武装化】
ポシェットに入れた物を“宝石兵器”として武装化する。
• 火薬を入れる → ガラスコーティングされたピンク色の**「キャンディ爆弾」**
• 熱湯を入れる → 光を乱反射する**「グリッター・ハイドロカノン(ラメ熱湯ビーム)」**
• ただの石を入れる → 黒曜石でカットされた**「星型の弾丸」**
「……はっきり言って、かなり最強だ」
僕が評価を下すと、シロロはVサインを作った。
「でしょー! 可愛いは正義! 最強! ふーー♪」
「ボソッ……僕の資金力があれば、あれ(火薬などの危険物)を大量に買って、絨毯爆撃も可能か……」
「おいイオリ、今物騒なこと呟かなかったか?」
新たな火力を手に入れた僕たちは、一旦解散することにした。
「僕は冒険者バザーへ行く。市場の動向を確認したい」
「了解。じゃあ俺たちはギルドでランク測定してくるわ。ボス討伐と第3エリア到達で結構ポイント溜まってるはずだしな」
「30分後に、広場のカフェ『木漏れ日亭』で合流だ」
冒険者バザー。
第3エリア解禁から数時間が経ち、市場は活気に満ちていた。
「さて……出すか。そろそろいいだろう」
僕は端末を操作する。
昨日、仕込んだ『ただの水』と『ボロボロのフード』。
第3エリアの熱対策として需要が爆発している今が、売り時だ。
「検索……『ただの水』」
画面に表示された検索結果を見て、僕の指が止まった。
【最安値:299G × 6,898個 出品者:ジィサン】
「……?!」
僕は目を見開き、さらにもう一つを検索する。
「検索……『ボロボロのフード』」
【最安値:199G × 778個 出品者:ジィサン】
「……値段は上がっている。だが……」
僕が想定していた売り出し価格より、僅かに安い。
そして何より、この出品数。
解禁直後の混乱期に、これだけの数を揃えて市場に放流している?
「……大量に仕入れていた奴がいた、だと? それも、必要個数に目処を付けての出品……」
出品者名 『ジィサン』。
聞いたことのない名前だ。だが、このムーブは素人のそれではない。
情報を読み、需要を予測し、僕と同じタイミングで仕込みを行っていた「同類」がいる。
出品履歴を見る。
……初期装備の素材、回復薬の原料。堅実で、かつ相場を熟知したラインナップだ。
(……古参の商人プレイヤーか? いや、βテストの情報を持つ者か?)
「……ふっ、ふはははは……」
僕は思わず笑い声を漏らした。
「出来る奴、そりゃあいるよな。この広い世界だ」
僕の独占市場計画は、見知らぬ老獪なプレイヤーによって阻まれた。
だが、不快ではない。
むしろ、心地よい緊張感が走る。
「まぁいい。資金は『透明な樹液』で十分に作った。こいつの在庫が売れていき、いずれ値段が落ち着くまで待つか……あるいは」
僕はインベントリの水とフードを見る。
「こうなれば、シロロの変換素材(弾薬)にするのも手だな。……しかし、フードや水を入れたら、あの鞄は何を吐き出すんだ……?」
『オシャ水(聖水)』か?
それとも『絶対防御のドレス』か?
想像がつかない変数を抱え、僕はバザーを後にした。
30分後。カフェ『木漏れ日亭』。
「おーいイオリ! こっちこっち!」
テラス席で、ドドンパたちが手を振っている。
テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。
「ランク測定はどうだった?」
「バッチリっすよ! 全員Cランクに昇格! これでクラン結成の権利もゲットだ」
ドドンパが得意げに冒険者端末のギルドカードを見せる。
「私はねー、フルーツタルト頼んだの! これ食べると『DEX+5』なんだって! 可愛いし美味しいし最高!」
シロロがフォークを咥えて幸せそうだ。
「……私はスコーン。……硬度が足りないわ」
フゥは相変わらずだ。
「イオリ、お前バザーはどうだったんだ? またボロ儲けか?」
「……いや。今回は『引き分け』だ」
僕が『ジィサン』の一件を話すと、ドドンパは驚いた顔をした。
「へぇ……お前と張り合う相場師がいるのかよ。世界は広いな」
「ああ。だが、次は負けない」
僕はコーヒーを煽り、仲間たちを見渡す。
「武器は揃った。資金もある。ランクも上がった」
僕は次なる指針を告げる。
「次は 『アクセサリー』 だ」
僕の持つデータによれば、アクセサリーはプレイヤーがクラフト、バザー出品も不可。核生成のみ。(※初期設定では不可だが、ドロップ品や特定NPC販売はあるかもしれない)。
つまり、自力で手に入れるしかない「ステータス底上げの要」だ。
「最強の武器には、最強の装飾品が必要だ。……行くぞ。僕たちの『正解』を、さらに盤石なものにするために」
「おー! アクセいいね! 可愛い指輪とか欲しい!」
「……石の指輪なら、私が地層から掘り出してみせるわ」
「俺は移動速度アップの靴とか欲しいなー」
新たなライバルの影を感じつつ、僕たちは次なる強化へと歩き出した。
まだ名もなきこのパーティ(クラン)の伝説は、ここから加速していく。
武器種:ペン 武器種:指揮棒 武器種:掘削機 武器種:鞄
変なPT爆誕!!
しかし火力は間違いなくPTトップになりました。
そして「ジィサン」彼は一体何者なのか!!乞うご期待。
僕、「ゑルマ」は同時に「『Legacy online 』君が愛したのは、死んだ僕だった」と言う作品も書いております。 よろしければそちらも読んでいただけると喜びます ブクマもしてやってもいいと思っていただけるだけでもありがたいです。




