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85/202

85,脳内麻薬ドバドバ。


【覇王魔窟】というのは、愉しすぎて時間を忘れる場所だ。

 ハマりすぎて、脳が壊れる。


 とくに地下迷宮〈死の楽園〉は、あるていど武装Lv.が上がり『フツー』ランクの魔物を倒せるようになると、もう病みつきになるのだ。

 これは〈死の楽園〉の、独創的な環境世界も大きいだろう。疑似的な太陽はあるが、完全に陽が沈むわけではない。ようは白夜の状態。これが生活リズムを狂わせ、それがいい感じに精神麻痺を誘発する。

 そこに魔物との血沸き肉躍る、または血みどろのバトル、バトル。強化素材、強化素材。レベル上げ、レベル上げ。わぁい、わぁい。


 というわけで、私たちはちょっと頭がおかしくなりつつあった。

 その証拠にサンディさんなんかは、〈大鬼(オーガ)〉に右腕を切断されても、ニコニコしながら、「血がドバドバだねー」と言っていたのである。

 あ、ちゃんと私が止血したけども、右腕はご臨終です。


 とにかく、私たちは愉しすぎて、脳内麻薬ドバドバで、思考力が鈍磨していた。ここでハッと我にかえったのは、頼れるライオネルさん。


「まてよ、嬢ちゃん。俺たちは、なんのためにここに来たんだ? 確か、王を殺すとか何とか言ってなかったか?」


 しかし、私はといえば。


「王ですか? 王がなんだっていうんですか。王など知りません。ね、ベロニカさん?」


〈地下迷宮〉で自生している食用植物ロマンベリーを生のまま食べながら、ベロニカさんが振り向いた。口からは紫色の汁がぽたぽた垂れている。これはロマンベリーの色だ。


「えーと。あたしの女王さまは、アリアだよ~?」


「ほら」


 ライオネルさんが正気に戻ることができたのは、彼がこの〈死の楽園〉に来た目的が大きいのだろう。すなわち、偽りの王を殺した暁の報酬(多額のお金と男爵という爵位)だ。それを得るためには、まず〈死の楽園〉から外に出る必要がある。


「帰るんだ、嬢ちゃん! 王を殺すために、外に出るんだ! この〈死の楽園〉から出るんだ!」


「出ーーる?」


「そうだ」


 このときサンディさんが、左手に聖杖を装備して駆けてきた(利き手は右手だったが、すでに右腕は切断されてなく、衣服の袖が切断面のところで結ばれているのだ)。


「アリアちゃん、アリアちゃん! きたよ! 〈象魔〉大量発生イベント、きたよ!!」


「おお、血沸き肉躍る〈象魔〉さんたち!!」


〈死の楽園〉独自の生態系内でも、〈象魔〉は興味深い魔物だ。〈死の楽園〉中央にある湖から産まれる魔物であり、見た目は象を4倍にしたほど。博識なベロニカさんが言うには、昔に絶滅したマンモスという生物に似ているそうだ。

 そんな〈象魔〉は、定期的に湖から出てくるのだけど、これが群れでやってくる。それこそ500体は毎回いる。それを私たちは勝手に『〈象魔〉大量発生イベント』と呼んでいた。


〈象魔〉さんたちは『雑魚』ランクなので、いまさら誰も強化素材としては役に立たない。だけど大量に出てきてくれるおかげで、大漁に狩らせていただけるこのイベント。とてもワクワクと、愉しいのである。

 私は右手に魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を取って、駆けだす。


「〈象魔〉大量発生イベントを逃す手はないです! いきますよ、サンディさん、ベロニカさん!」


 後方でライオネルさんの「おーーーい!」という制止する声が聞こえたような気がするが、まぁどうでもいいや。〈象魔〉狩りだいっっっ!


 ※※※


 そんな〈死の楽園〉ライフは、しかし呆気なく終わりを迎えた。あるとき──しくしくと泣いているベロニカさんを見つけた。


「どうしたんですか、ベロニカさん?」


「アリアぁぁぁぁあ。あたし、いまとんでもないことに気づいたの。どうして、こんなことに気づかなかったのかな。ああ、ダメ、アリア──ダーリン! いま、あたしに近づかないでぇぇぇ!」


「どうしたんですか? 〈寄生蟲(ワーム)〉が体内に入ったんですか? それなら早く摘出しないと。大丈夫ですよ。サンディさんのときのように、抉って焼いて取り出すのが容易いのです」


「違うの、そうじゃないの! あたし、いま──くさいからっっ!」


「はぁ?」


「何十日間、まともにお風呂入ってないと思っているの、アリア!!!」


 乙女の悲痛な叫びは、無視できないのだ。

 こうして、私たちは〈死の楽園〉を去ることになった。お風呂に入るために!


 ※※※


【覇王魔窟】の外に出ると、ちょうど日が沈むところだった。

〈死の楽園〉とは違って、本物の太陽が、ちゃんと地平線の向こうへ沈んでいく。それを、私たち5人は見つめていた。

 なぜか涙が流れてくる。うう、これはなんか泣ける、泣けるのだ。


 私はパーティメンバーに視線を向けてから、言った。


「えーと。とりあえず、解散しましょう。皆さん自宅に戻り、お風呂に入って、すっかり休みましょう。明日は一日、休暇とします。明後日、王都のカブギルドに集まってください」


 サンディさんもとまらぬ涙のなか、挙手した。


「それで、どうするの?」


「偽りの王を、殺しますよー。えいえいおー!」


「「「「おー!!!!」」」」


 それからサンディさんがハッとした様子で言う。


「え、わたしも参加するの?」



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