78,〈擬態幻魔ミミクリーデビル〉。
ここで王宮というと、それは王都中央の領域を示す。
小さな町なら数個は入る規模で、この国を動かす人たちだけが、立入を許されている。私が先日行った王城は、王宮のさらに中心にあり、厳密には王がいるのはそこ。
で、非公式な拷問機関があるのは、王宮の地下らしい。
「非公式といいますが、つまり王政府からは認可を受けている機関ですよね。すると、それもギルドですか」
「はい先生。王政府が飼っている非公式ギルドとしては、暗殺ギルドとともに歴史があるそうです」
私は、ロクウさん、ミリカさん、サラさん、ベロニカさんと移動を開始している。
ところで、なぜカブギルドにいたときは不在だったベロニカさんが、気づけばパーティに参加しているのか。さらにいうと、なぜ私に抱きついており、ミリカさんはいつも通り殺意を抱いているのか。つきつめて考えても仕方ないことは、多いのである。
ところで『カブギルドは王宮内に情報網を築いている?』疑惑は当たりだったらしい。ロクウさんは地下道に入り、迷わず進んでいる。つまり拷問ギルドの本拠地を、すでに掴んでいるわけだ。私が【覇王魔窟】で500階攻略している間に、またも急速に力をつけているカブギルドさん。
地下通路を進んでいくと、隠し扉があり、そこからさらに深くへと通路は傾斜していた。ロクウさんの説明では、この先に拷問ギルドがあるという。《小鬼》に擬態した『何か』が連れて行かれたのも、そこだろうと。
私は隠し扉の入り口から、先の暗闇を眺めた。
「王政府は、もっと平和なギルドを飼うべきですね。モフモフギルドとか。モフモフしたものを愛でるギルドです。あぁ、カブギルドではなく、モフモフギルドにするべきでした。そうしていたら今頃は、もっと地方ののんびりした町で、平和な羊を飼っていたのに」
「羊ですか、先生?」
「羊の毛を、一度は刈ってみたいんですよ。モフモフでしょう」
「モフモフですな、先生」
私はロクウさんを見やり、それからベロニカさんを見た。
「なぁに、ダーリン?」
ダーリン呼びを地味に定着させてきたベロニカさん。
ベロニカさんは強化武器である大鎌〈死神のそよ風〉を装備していた。武装Lv.は126。ロクウさんの強化武器である刀〈時雨晩〉の武装Lv.は187。
私は最後にミリカさんへと視線を戻す。
「アリアさん、私の顔に何かついているのだろうか?」
このメンバーだと、非戦闘員のサラさんを除けば、ミリカさんだけが〈開華のタネ〉によるスキルツリー覚醒者。つまりLv.上限は99か。正直なところ、3桁にいっていないのならば、ここから先に連れていきたくない。
「いえ、ミリカさんの意志の強さを考えると、ここで残るように言っても拒否するでしょうね?」
「当然だ、アリアさん」
「う~~~~ん、ごめんなさいっミリカさんっっ!!!」
魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を軽く振って、ミリカさんに直撃。吹っ飛んだミリカさんは、すっかり気絶していた。
「サラさん。ミリカさんをカブギルド本拠地まで運んでください。それとギルドメンバーに、緊急事態だと宣言し、備えさせてください。何に備えるのかは、私もまだよく分からないですが。このサブイベント、ろくなことにならない予感がします」
「わ、分かりましたっ!」
サラさんが、気絶中のミリカさんを抱き上げて、来た道を戻っていった。
それを見届けてから、ベロニカさんが珍しく真剣な表情で、
「アリアがここまでするなん、よっぽどね」
「先に言っておきますけど、最悪のシナリオとして《小鬼》に擬態した『何か』が〈攻略不可能体〉だった場合、私たちは全滅しますからね」
「〈悪鬼羅刹〉とかいうのにボコられた身だから、覚悟はあるよ。けど、それならミリカも連れて行ってあげたら良かったんじゃない?」
「いえ、そこは〈攻略不可能体〉でなかった場合にも、強敵であることは間違いはない。その場合、最低ラインとして、武装Lv.3桁は欲しいというわけです」
それにミリカさんは、次期領主さんなので、こんなところで死なせてはダメだ。私、ベロニカさん、ロクウさんは──正直、ここで死んでも、さほど世の中的には困らないので。
「では、先に進みましょう」
ロクウさんが先導して、地下通路を進む。ふむ。実にダンジョンっぽい。そして拷問ギルド本拠地に到着。そこでは、変てこな光景。巨大なネズミが、20体ほど。食べ物をあさったり、交尾したりしている。
ベロニカさんが顔をしかめた。
「うー、ドブネズミ、嫌い。可愛くない」
ロクウさん、抜刀。
「こんなところにも魔物が?」
「魔物──なんですかねぇ? 確かに、こんな巨大ネズミ、通常の生態系では生まれませんが」
近くにいた巨大ネズミを眺めていると、半分裂けた衣服がまとわりついているのに気づいた。どうやら、他の巨大ネズミたちも、同じように身体には半分裂けた衣服。つまり、衣服を着ている状態で、身体が膨張した──よって結論としては。
「この巨大ネズミさんたちは、もとは拷問ギルドの人たちだったようですね」
「なんですと!?」
「えぇ、うっそ! 最低ね、それは」
と、ロクウさんとベロニカさんが驚愕中。
私は視線を動かして、片隅の暗闇を眺めた。《小鬼》が一体、愉しそうに巨大ネズミたちを眺めている。
私はまず巨大ネズミの一体を抱き上げてから、《小鬼》に歩いていき、挨拶。
「はじめまして。アリアです」
《小鬼》に擬態している『何か』さんは、私を見やって、ゴブリンにしては親しみやすい表情をした。
「オイラは〈擬態幻魔〉。よろしく、なっ」
「よろしくです──何階の方ですか?」
「うーん、995階だけどー」
すると、やはり〈攻略不可能体〉だよね。
私は、抱きかかえていた巨大ネズミをさらに高く持ち上げて、〈擬態幻魔〉さんに見せた。
「この巨大ネズミさんを、もとの人間に戻してくれませんか?」
〈擬態幻魔〉さんは、ニヤニヤ笑うだけである。
さて──私は、いま抱えている巨大ネズミを、『仲間』と認識する。その『仲間』が巨大ネズミに変えられており、〈擬態幻魔〉は元に戻すつもりはない。
これを、『私の仲間が攻撃を受けている』と解釈するならば──
すでに『私は〈擬態幻魔〉とのバトルに突入している』と解釈できないか?
その解釈が受け入れられるならば、《耕作:熟練者》の発動条件は、この段階で満たされる。
いけるか、この理屈で?
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