79,擬態の極み。
〈小鬼〉に擬態?中の〈擬態幻魔〉さんが、にやにや笑いのまま、視線を下げた。
私の足元には、耕地ができている。だが発芽こそしたが、スキル実への成長が遅い。遅々たる速度。『熟達者』をもってしても、〈攻略不可能体〉相手だと厳しいのかぁ。
「面白いスキルだねぇ」
ロクウさんが前に出て、刀を閃かせようとする。
「拙者がお相手す、ぐぁぁぁ!!」
ロクウさんが壁にめり込む勢いで吹っ飛んだのは、私が魔改造鍬〈スーパーコンボ〉で、割と本気で叩きつけたため。ベロニカさんが、唖然とした様子で言う。
「えーと、どうしたのアリア?」
「弟子をこんなところで死なすわけにはいきませんからね。とりあえずベロニカさん、ロクウさんを連れて、ここから退散してください。あとのことは、私に任せて」
私の有無を言わせぬ口調に、ベロニカさんは納得してくれたようだ。気絶中(本日二人目)のロクウさんを連れて、撤退してくれた。ここで〈攻略不可能体〉さえ出てこなければ、ロクウさんにも戦ってもらったのだけど。こればかりは仕方ない。私だって、何秒持つことか。
いまのところ私がまだ生きているのは、〈擬態幻魔〉がその気になっていないからだろう。それにしても──私がたどり着くべき〈攻略不可能体〉対策スキルとは、『敵のチートスキルを封じる』スキルでは? そんなスキルパネルがあるかは不明だが。初見殺しばかりでは、身がもたない。
ふと足元を見ると、スキル実の本葉が腐っている。栽培失敗か。
まだ巨大ネズミ(元拷問ギルドの人さん)を抱えていたので、放り捨てる。私もネズミは好きではない。農作物の敵だし。
「【覇王魔窟】ルールを違反しすぎですね。あなたといい、このまえの少年くんといい。〈悪鬼羅刹〉のことですが」
〈擬態幻魔〉は肩をゆすってから、片手のビール瓶をあおって、ごくごく飲んだ。
「昔は、いい子にしていたんだけどなぁ。最近、あんまりにヒマすぎて。オイラたちはね、感覚的にはあんたら人間の100年が、1年くらいの感覚なわけ。創造主の言いつけで、10年と感じる間は待機していた。まぁ、あんたらの世界での約1000年だね。とっころが、だーれも来ないんだからさ。それでも、いまだに待機している奴もいるし、ひたすら惰眠をむさぼっている奴もいる」
と、私を指さしてきた。いや、私の体内で惰眠をむさぼっている〈倦怠艶女〉さんを。
「で、あなたは外の空気を吸いにきたわけですか」
「そーだねー。はじめからプランがあったわけじゃないんだよ。ただここまで来て、思ったね。この国の王様に成り代わろうと」
「王の姿に擬態するわけですか」
「オイラの固有スキル《擬態遊戯》は、ただ姿を似せるだけじゃあないんだ。成り代わった相手の、記憶や人格までコピーできる。まぁ人格については、もちろんオイラの人格に上書きするわけではなくて、『元の人格ならばこう考えるだろう』という認識ができる、という意味だけどねぇ」
「《擬態遊戯》、発動条件は?」
〈擬態幻魔〉さん、たぶんチャーミングな笑み(いま擬態しているのがゴブリンなので、気持ち悪いだけだけど)。
「食べること──と言ったら、ビビっちゃう?」
「うーん。別に。しかし、お喋りさんですね。国王に成り代わるなんていうプランを、私に話して聞かせるなんて。これは、私を口封じしないとですね? 私が生きていちゃ、困るでしょう。あなたの成り代わり策を、聞いちゃったわけですし」
やれることをやるとしよう。
《鎧装甲:地獄》+《怠惰心地》+《視界不良》で、可能な限り自身の状態を上げる。ここからの戦略は──《阿吽竜巻》を使って、〈擬態幻魔〉の視界をくらまし、《地破嵐打》を叩き込む。ちなみに《阿吽竜巻》は、敵が格下でないと、敵の体内から発動することはできない。
さて。こっちは臨戦状態だったのに、なぜか大爆笑で返された。
「オイラは平和主義者だかんさ。〈倦怠艶女〉っちのお気に入りのベッドを破壊して、彼女の逆鱗に触れるつもりはないんだなぁ」
いやぁ、〈倦怠艶女〉さん。私の守護女神(当人にその自覚はなしでも)。
「それにさ、人間さん──あんた、話さないだろ? オイラがこれから国王に成り代わっても。まぁ親しい仲間には話すだろうけど、公表などさせないだろう? どうなんだい?」
うーむ。〈攻略不可能体〉というのは、本当にこれまでずっと、【覇王魔窟】内で大人しくしていたのだろうか? 中にはそういう〈攻略不可能体〉もいるのだろうけど。
たとえばこの〈擬態幻魔〉さんだ。この〈攻略不可能体〉さんの洞察力からして、もっと大昔から、それこそ私が生まれるずっと前から、人間社会に遊びに来ていたのでは?
とにかく〈擬態幻魔〉の言うとおりだ。
仮にこのまま王に成り代わられたからといって、余程のことがない限りは、公表に踏み込まないだろう。
たとえば王に成り代わって、ラザ帝国に宣戦布告するとか。そういう傍迷惑なことさえしない限りは。ちょっと国内が混乱させられる程度の政策変更ならば、静観するでしょう。
なぜって、『魔物が王に成り代わっている』という訴えを信じてもらえるかどうかの話ではない。
信じてもらったら、それはそれで困るのだ。
王が、魔物なのだ。しかも、人間レベルでは撃破不可能の化け物なのだ。どうしろというのだ? どうもできないのだ。国民全員で夜逃げでもするの? それこそ、国家崩壊の事実だよね。
うーむ。最悪、私は墓場まで持っていくぞ。
私は溜息をついた。
「じゃ、私は帰ります。あんまり無実の人を殺さないでくださいね」
「コイツらは、か弱いオイラを拷問にかけようとしたから、こうしたまで。自業自得。基本、オイラは無益な殺生はしないからさ」
「では、また」
「ばいばーい♪」
私は〈擬態幻魔〉に背を向けて、歩き出した。
いやぁ、困ったなぁ。なぜって、明日にはもうアーテル国王は、本物の王ではなくなっているだろうから。
そして今のところ、私にそれを阻止するすべはないのだ。
これは、国取りを本気で検討する必要が出てきてしまった。
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