76,忘れがち。
脳が燃えている。喩えだけども。
この熱のこもりかたは、よろしくない兆候だ。中毒状態に入ろうとしている。
ようは、死ぬほど【覇王魔窟】攻略にのめり込んでいる。あんまり良くないことだ。楽しすぎて頭がおかしくなる前に、ひとまず帰るとしよう。
【覇王魔窟】500階で攻略記録ポイントを登録。
すると、アリエルさんが脳内で声をかけてくれた。
〔アリア……〕
〔アリエルさん。お久しぶりです。〈鍵〉の件は申し訳なく思います〕
〔〈鍵〉のことはもういいわ。誰が渡したのか推測はできているから。そんなことより──ついに来てしまったのね。500階に。【覇王魔窟】が人間界に生まれ、1023年経つけれど。ソロでここまで上がったのは、あなたが初めてよ。そしてパーティフルメンバーでも、500階まで攻略できたのは、これまでに僅か3つのパーティしかいない。しかもどのパーティも、命からがらだった。あなたのように鼻歌を歌いながら、500階の魔物を叩き殺した人間は、初めて見たわ。というより、あなたは本当に人間なの?〕
厳密には、魔物化してしまっているけども。そのことを、わざわざアリエルさんに話す必要があるかな?
いまは亡きパパは言ったものだ。「娘よ、言わなくていいことは、言わなくてよい」と。
そこで私は、心外そうな顔を作るだけにしておいた。これで、アリエルさんに嘘をついたわけではなくなる。
アリエルさんは納得したのか、話題を変えた。
〔アリア。あなたならば、本当に【覇王魔窟】を完全攻略してしまうかもしれないのね〕
〔頑張りますっ〕
〔だけれども、まだ500階よ。【覇王魔窟】を創られた古代神は、人間の技量を誤解していたの。つまり過大評価していた。分かる、このこの意味が? 上級プレイヤーともなれば、500階越えもざらに出てくると思ったの。だから『彼』は、500階より上こそが真の【覇王魔窟】という認識だった。アリア。ここからが本番といっても、過言ではないのよ〕
ほう。さすがアリエルさんは女神さまだけあるのでは。古代神のことを、わりと親しく『彼』と呼ぶとは。というより同じ次元の神様なのかな。『よし今日は飲みにいこうぜっ!』的な仲間なのか。しかし人間社会に階級があるように、神社会にも似た層はあるのかも。
〔それに〈攻略不可能体〉もいるわよ〕とアリエルさん。
〈攻略不可能体〉がチートすぎて訳がわからないのは、〈倦怠艶女〉さんが体内で眠っている身としては、よーく分かっているけどね。
〔しかし、おかしいですよねアリエルさん。これは前々から疑問に思っていたんですが──なぜそこまで攻略者がいないのに、700階層台にすら足を踏み入れた者がいないのに、〈攻略不可能体〉の噂などが流れていたのでしょうね? まるで内部の者が、外部の者に情報を与えているようです…………………アリエルさん?〕
もうアリエルさんは、私の脳内にいなかった。
帰ろっと。
〈緊急脱出トンカチ〉で、【覇王魔窟】の外へ出る。そこからは《操縦》による飛行で、自宅へ。休耕地を眺めてから、ここのところ留守にしていたから、買い置きがないのを思い出す。近くの町へ行き、買い出し。しばらく、我が家でのんびりしよう。
そうして何日か寛いでいると、
「あっ! 私、ギルマスだったよっっっ!」
すっかりカブギルドのことを忘れていた。
うーむ。いけませんね。興味がないことを失念する悪癖、これは昔からだよ。
そういえば10歳のとき、近所の男の子に告白され、すぐ断るのも悪いから「明日の10時、ポート墓地で待っていてくれる?」と返したんだった。そこで断るつもりで。当然ながら、男子など興味はないので。そう興味がなかったので──断るためボート墓地に行くのも忘れていたよ。いまさっきまで。
《操縦》で飛翔し、《電光石火》で加速。王都に向かう──その途中、大草原に変な集まりを見つけた。
なんと《小鬼》の大軍勢が、ぞろぞろと歩いているのだ。隊列を組んでいるのか、微妙な間隔で。
おかしい。《小鬼》は、【覇王魔窟】内の魔物であり、外には出られないはずなのに。まぁ、おとぎ話とかでは有名どころではある。私も【覇王魔窟】内で本物を見る前から、子供のときの絵本とかで知っていたし。
とりあえず急降下し、この《小鬼》さんたちが【覇王魔窟】の魔物かどうか確かめるため、〈スーパーコンボ〉で一体の頭をコツンとした。とたん魔素に還る。
やはり、【覇王魔窟】の魔物かぁ。
だけど、どうして外の世界に? しかもこんな大軍勢で。ざっと5万体はいたよね。それにこの先には王都がある。
5万体もの《小鬼》が王都に入ったら、とんだ大迷惑だよね。
ここは申し訳ないけど、《小鬼》さんたちには魔素に還ってもらうとしよう。
5万体もいるので、ちょっと時間がかかりそうだけど──
攻撃範囲の広い《波動砲Lv.3》・《阿吽竜巻》・《氷雪豪雨》を同時発動。私自身も《電光石火》で軍勢内を飛び回り、ぶつかって《小鬼》たちを撃破に撃破。
そうして大軍勢を全滅させると、すべては魔素に還るので、大草原もすっきりした。
それから王都まで飛んで行く。上空から見ると、なんだか王都内が騒がしかった。守備隊も門のほうに集まっているし。
カブギルド内に入ると、ここもハチの巣をつついたような大騒ぎ中だった。なんだろうと思っていたら、ミリカさんが私を見つけて、駆け寄ってくる。
「アリアさん、いいところに! いま王都は、前代未聞の危機にさらされているっ!」
「はい?」
「《小鬼》の大軍勢が、この王都に向かっているという報告があったんだ。王都は迎え撃つため、可能な限りの兵を動員するつもりだ! 我々も参戦しようアリアさん!」
《小鬼》の大軍勢? あれ、それ、さっきの?
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