喪中の葉書
その後、僕は大学を卒業し、地元の役場の職員となり、そこで知り合った女性と結婚をした。一男一女にも恵まれて、人並みの幸せな家庭を築くことができた。その子供たちも社会人となり、僕が退職の歳を迎えた年末だった。
唯一、おばさんとの繋がりと思っていたリョウちゃんとの年賀状のやり取りで、喪中の葉書が届き、その年の夏におばさんが亡くなっていたことを知った。
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『今年八月に 母 小川和子が永眠いたしました 本年中に賜りましたご厚情を深謝いたしますとともに明年もかわらぬご指導ご交誼のほどお願い申し上げます』
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僕は、急いでリョウちゃんに電話をした。
そして、次の休みの日、リョウちゃんの家に行く約束をした。
リョウちゃんは、自分の夢をかなえ、大学を卒業してから弁護士になり、法律事務所を開いていた。
「いや~、久しぶりですね。今日はすみません。遠いところ、わざわざ」リョウちゃんの家を訪ねると、リョウちゃんは明るく僕を迎えてくれた。
「どうぞ、どうぞ、中に入って下さい」僕は、挨拶もそこそこに、招かれるまま、リョウちゃんの自宅に入った。
「ゴメンね、お母さんが亡くなられたの知らなくて」僕は、買ってきたお土産を渡しながら言った。
「こんな、気を使っていただくなくてもよかったのに、すみません・・・」リョウちゃんは、快くお土産を受け取ってくれた。
僕はリビングに通され、そこのソファーに腰を掛けた。
リョウちゃんの奥さんがコーヒーとお菓子を運んできてくれた。
リョウちゃんが奥さんに僕を紹介してくれた。「こちらが、ケンジさん。幼馴染の・・・」
「初めまして、小川の家内です」おばさんに負けないくらいの美人の奥さんだった。
「よく、お母様が『ケンちゃん』、『ケンちゃん』て言ってましたわ」奥さんは、ほほ笑んで話してくれた。
「へぇ~、私のことを覚えていてくださったんだ・・・光栄だな」未だにおばさんが僕のことを気にしていてくれたのを聞いて、僕は少しうれしくなった。
「覚えているも何も、最後の方は僕のことを『ケンちゃん』って間違えて呼んだり・・・子供の時も『ケンちゃんみたいに勉強せんと』とか『ケンちゃん見習ろうて』とか、息子でもケンちゃんに嫉妬するくらいでしたよ・・・」リョウちゃんが大笑いしながら言った。
そんな、他愛もない話をしながら、その話が一旦間が開いた時を見計らい、僕は香典袋を取り出した。
「今さらで、申し訳ないんだけど、これを仏壇に供えさせて」僕がそう言うと、リョウちゃんは大きく手を横に振り「いやいや、そんなんは気にせんとって下さい。葬式も身内だけの家族葬やったし、御香典は誰からも貰ってないんで」そう言って、受け取ろうとはしなかった。
「いや、今さらでかえってご迷惑なのは重々承知の上で、言ってるんで・・・どうか、お仏壇に供えさせてください」僕は、懇願した。
そんな僕の願いに最終的にはリョウちゃんも折れ、「そうですか・・・、どうもすみません。
遠いところ来ていただいた上に・・・それなら、仏壇で拝んでやってください」そう言ってくれた。
僕は、仏壇のある和室に通された。
おばさんの遺影はとてもきれいだった。
僕は仏壇の前で手を合わせると、自然と涙がこぼれた。
しばらく、じっと手を合わせ、仏壇の前で不謹慎だとは思いながら、昔あったおばさんとの出来事を思い出していた。
僕が仏壇の前でずいぶん長い時間手を合わせていたので、リョウちゃんが心配して呼びに来てくれた。




