おばさんとの最後
車に戻ってエンジンをかけると、再びカーステレオの『オフコース』が流れてきた。
まるで、失意の僕をなじるように、タイミングよく、その当時大ヒットした『さよなら』が流れた。
おばさんが「この歌、悲しい唄やね・・・」とぽつりと言った。僕は、もっともっと悲しかった。
『さよなら~さよなら~さよなら~ぁぁ』という歌詞をバックに車を発進させると、おばさんは、下を向いたまま小さな声で、独り言のように「本当に、よかったんかな・・・?」と言った。
僕は、初め聞こえないふりをしていた。
おばさんも、その後何も言わず、下を向いたままずっと僕の返事を待っているようだった。
僕は、『そんな結婚やめて、俺と結婚しよう・・・この指輪を受け取ってくれ・・・』心の中では、そう叫んでいた。
しかし、口から出た言葉は「好きなんだろ・・・?その人のこと。好きな人と一緒になれるんだから、よかったんじゃない・・・」そんな、心にもない言葉だった。
おばさんは、その言葉を聞いて、僕の方に顔を向けた。その顔は、ここに来る前の自宅で泣きじゃくった時と同じ悲しそうな顔だった。その顔を、無理やり笑顔で取り繕い「そうだね・・・よかったんだよね・・・・・・」と言った。
僕は、顔をまっすぐ前に向けたまま『よかないよ・・・・・・』と心の中で思っていた。
その後はまた沈黙の時間が続いた。
僕は、『このままおばさんの家に着かなければいい』と思いながら運転を続けたが、当然のごとく車はおばさんの家の前まで来てしまった。
おばさんは、「彼が来るまで、まだ少し時間があるから、もう少しゆっくりしていって」と僕を誘ってくれた。
僕も、もっともっとおばさんと一緒にいたいと思ったが、ここで別れないと本当に泣き出してしまいそうで「いや、船の時間もあるから・・・」と言って、車からは降りなかった。
おばさんは、少し悲しそうな顔で「そう・・・・・・」とだけ言うと、それ以上僕を引き留めることはなかった。
「今日は本当にありがとうございました」おばさんは、そう、よそよそしく言って車を降りると、助手席の外に立ち深々と頭を下げた。
僕は、何か言葉を発すると涙がこぼれそうで、運転席に座ったまま黙ってお辞儀をしただけになった。
それが、おばさんと交わした最後の挨拶で言葉だった。
僕は、そのまま、急いで車を発進させた。バックミラーを見ると、おばさんがずっとこちらに頭を下げているさまが、滲んで映っていた。
ブレサーのポケットに入っている指輪が、やけに重く感じた。
せめて、その新しい男性と幸せになって欲しいと思った。




