泣き出したおばさん
僕がコーヒーを飲んでいるとおばさんが戻って来て、先ほどと同じように僕の横に腰をかけた。
「ありがとう・・・遠慮なく、お父さんとアキちゃんの仏壇に供えさせてもらいました」おばさんは、深々と僕に頭を下げた。
「でも、あれを返すために、わざわざこんな遠くまで来させてしまって・・・迷惑かけてしもうて・・・本当にごめんなさい」おばさんは、もう一度僕に頭を下げた。
僕は冗談で「本当に迷惑やったわ・・・授業もサボったし・・・」と言った。
その僕の冗談を真に受けたおばさんはびっくりしてこちらに顔を向けると「えっ!・・・授業もサボらせてしもうたん・・・? ごめんなさい。本当にごめんなさい・・・・・・」と言って、再び深く深く頭を下げた。
その様子に僕は「冗談ですよ・・・気にすることなんかないよ、授業なんていっつもサボっとるし。それに、ここまでのドライブは結構楽しかったし・・・」と慌てて自分の冗談を打ち消した。
そんな僕の言葉を聞いても、おばさんは下を向いたまま頭を横に振り「本当にごめんなさい・・・ウチ、バカやから・・・・・・どう謝ったらええか、他にええ方法が思いつかんで・・・・・・」おばさんは下を向いたまま本気で泣いているようだった。
僕への謝罪だけでなく、これまでの色々な悲しい出来事が、この謝罪をきっかけに、一気に頭の中に蘇ってきたのかもしれない。
「ごめん、ごめん、謝るのは俺の方や・・・冗談やから・・・本当にごめん」と大げさに笑っておばさんの肩を抱き寄せた。『僕への行為を謝るよりも、おばさんは、その前に、もっとつらい思いをしていたのに・・・』と思うと、僕も、つられて涙がこぼれた。
おばさんは、僕の胸に顔をうずめて泣きじゃくった。
しばらくして落ち着いてきたので、僕はおばさんを僕の胸から離し、「コーヒー冷めてしまうから、飲もう・・・」と言ってコーヒーに口を付けた。
本当は、そのまま、おばさんに口づけをしたかったが、それは後の大事な時に取っておこうと思ったのだ。
おばさんは、「うん」と言って、まだ流れる涙を白い細い指で拭うと、コーヒーカップに口を付けた。
僕は、コーヒーを飲みながら、プロポーズはどこか雰囲気のある場所でしたいと思い「これ飲んだら、どっかドライブに行こう」とおばさんを誘った。
おばさんは、「夕方からは、人が来るから、それまでに戻って来れるのなら」と、僕の提案を受け入れてくれた。
コーヒーを飲み終わると、おばさんは「服着替えてくる」といって二階に上がって行った。
僕は、「先に車に行っとくね」と声をかけ、おばさんの家を出た。
僕は、僕のオンボロ車の室内を急いで綺麗にし、ダッシュボードに入れていた指輪を自分のブレザーのポケットに入れた。
僕は、これから海の見える場所に行って、おばさんに自分の思いを伝えたのち、ポケットから、そっとこれを取り出し、おばさんの目の前で箱を開け、おばさんの白い細い指を手に取って、箱の中の指輪をその美しい指に入れキスをする・・・・・・そんな風にこれからのことを妄想していた。
おばさんを感激させる計画は完ぺきだった。
あとは、おばさんが僕のプロポーズを受け入れてくれるかどうかだけだった。




