おばさんの家で
「急に来るから・・・・・・散らかってるけど、とりあえずそこにかけて」
おばさんは、僕をリビングに案内し、急いでソファーの上に置いてあった雑誌や新聞をどかすと、それに座るように言った。
「コーヒーでいい?」おばさんは、僕に何を飲むか尋ねた。
「そんな、気を遣わんでいいよ・・・ちょっと、和子さんに話したいことがあって来ただけだから・・・」僕は、ドタバタしているおばさんに言った。
おばさんは、そんな僕の言葉を無視し、キッチンでヤカンに水を入れると、ガステーブルの上に置いた。
「なあに? 話って・・・・・・」
おばさんは、キッチンの奥から僕に訊ねた。
僕は、こんな状態の時に話せるような内容ではないから「うん、後で落ち着いてから話す」と答えて、先ほどおばさんがどかした新聞を手に取って、何を読むでもなく、とりあえず時間つぶしをした。
しばらくすると、おばさんがコーヒーカップ二つと茶菓子ののったお盆を持って、僕の横に座った。
お盆をそのまま、前のテーブルに置くと、「何もないけど、こんな物でも食べて」と言って、茶菓子とコーヒーをお盆からとって僕の前に差し出した。
「でも、よくここが分かったわね・・・どうやって来たの?」おばさんは、当然の疑問を質問してきた。
「自分の車で来たんだけど・・・そうだ、車その先の広くなってる道に停めたけど大丈夫?」僕は、車の置き場が気になって、ここに来た方法だけを答えた。
「うん、邪魔にならないように停めてたら大丈夫よ。あんまり車も通らないし」
「それよりも、どうやってここが分かったの・・・?」
おばさんは、再び同じ質問をした。
「リョウちゃんに会って、リョウちゃんに住所聞いたんや」と、僕が答えると、「涼太に・・・?」とおばさんは言った。
「でも、住所聞いただけで、よくここが分かったわね」とおばさんが感心して言ったので、「そりゃ、これをお返ししないといけないと思って、必死だったもん」と笑いながら、僕はおばさんが僕のブルゾンの内ポケットにこっそりと入れていた20万円の入った封筒を取り出した。
それを見たおばさんは「いや、それはケンジさんが持っとって」と言って、封筒を持った僕の手を押し返した。
あの時のパブでのことと同じような感じになって来た。
「そんなこと言われても、こんな大金、和子さんからもらういわれはないもん」僕は、強引におばさんの方にその封筒を押し戻した。
「だから、それは、あの時のお詫びだって・・・ケンジさんが受け取ってくれんと、私の気が収まらんのよ」
おばさんも、なかなか強情だった。
やはり予想したとおり、あの日のパブでのやり取りの再現となった。
「だから、あの日は、俺は気持ちがよかったからいいの・・・謝ってもらう必要なんかなくて、むしろ俺の方が20万払いたいくらいや・・・・・・」僕は、分からずやのおばさんに少し苛立ち、声を荒げて強めにその封筒を押し出した。
おばさんは、少し驚いた様子で静かになり、そうして「どうしても、受け取ってくれんのやね・・・・・・」と言って、その封筒を、前のテーブルに置いた。
それを見た僕は「大金なんやから、ちゃんと向こうにしまっとき」と言った。
おばさんは、元気なく「うん」と言うと、その封筒を持って、奥の部屋に行った。
その、うつむいて元気なく『うん』という様子が、まるで小さな子供みたいで、僕にはとても可愛く思え、僕の心に『ブルブル』っという電撃が走った。
奥の部屋で、「ち~ん」という、おりんの音が聞こえた。




