焦った作り話
「ありましたよ・・・多分、ケンちゃんは小6頃じゃなかったかな・・・?僕がジグソーパズルに夢中になってて、ケンちゃんのこと無視してたから、ケンちゃんが怒ったんじゃないかと、ずっと気になってたんですよ」
「お袋は、台所でケーキ落として、お皿割ってたし・・・僕にもめったに怒ったことのないお袋が、他人のケンちゃんにあんな風に怒るなんて、びっくりしましたよ」
僕は、何と言ってごまかそうか、頭の中はそればかりで、リョウちゃんがいろいろ言ってる言葉など耳に入らなかった。
学校で、宿題を忘れてきた時のように、頭の中は真っ白であった。
「ねぇ・・・ケンちゃん、何があったんですか?ケンちゃんだけが知ってる、お袋の秘密って何だったんですか・・・?」
リョウちゃんの問いかけは、いよいよもって確信に迫って来た。
焦った僕は切羽詰まって「白石のおっちゃんておったろう?」と、つい口走ってしまった。
「白石のおっちゃん・・・?あぁ、いましたね・・・あの酒屋の・・・・・・」
「僕、あの人のことはあんまり好きじゃなかったなぁ・・・時々、ウチにも来てたことあったんやけど・・・・・・今から思えば、お袋、あの人と浮気してたんじゃないのか?って思うような時もあって・・・まぁ、お堅いお袋がそんなことすることはないだろうなとは思うんだけど・・・・・・」
「その、白石のおっちゃんが絡んでるんですか?」
リョウちゃんは、単刀直入にそう聞いてきた。
僕は、つい「白石のおっちゃん」の名前を出してしまったことを目まぐるしく色々なごまかし話が駆け巡る頭の中で悔いた。
悔いながら、リョウちゃんが「あのおじさん、好きでなかった・・・」と言ったことで、即興の嘘話を作り上げた。
「リョウちゃんのお母さんがウチに来て、ウチのお袋と茶飲み話をしていたのを隣の部屋で聞いてしもたんよ。その時、ウチのお袋との話の中で、白石のおっちゃんのことが話題に上がって、ウチのお袋が、『あの人、スケベで、イヤよね』と言うたのにつられてリョウちゃんのお母さんも『私も、あの人は苦手です』言うのを聞いて・・・その時、二人が、俺のいたことに気付いて、俺のお袋に、『今、言よったことは、誰にも言うたらいかんよ』って言われて、内緒の話になったんやけど・・・それを、『皆に言うちゃる』言うたんよ」
とりあえず、僕は適当な事情説明をした。
「えっ・・・その程度のことで、ウチのお袋、あんな剣幕で怒ったんですか・・・?」
「まぁ、それだけじゃなくて、僕がケーキを急いで取ろうとして、お皿落として割ったから、余計、怒られたんだと思うよ」
僕は、さらに適当な話を追加した。
「そういえば、お袋は、結構、体裁ばっかり気にしてたからな・・・白石のおっちゃんの悪口言ってたなんてことが他の人に耳に入るのは耐えられんかったんかもしれんですね」
リョウちゃんは、妙に僕の作り話に納得した。
その時、「お待たせしました」と言って、マスターの美人の娘さんが僕たちの注文していた定食を持ってきた。
「うわ~、うまそう、冷めないうちに食べようよ・・・」
僕は、自分の窮地をとりあえず救ってくれた娘さんと定食に感謝した。




