『学生街』での話
喫茶店とはなっていたが、大学近くの学生相手の茶店なので、食事のメニューが多く、しかも食事物は若者向けに家庭的でボリュームもあった。
僕は「もう一人連れが来る」と顔見知りのマスターに告げて、リョウちゃんが来るのを待った。
「お待たせしました」リョウちゃんは、ずっと走って来たようで、息が少し切れていた。
「ゴメンね。友達大丈夫だった?」僕は、友達との昼食を断らせたことを再度わびた。
「大丈夫ですよ・・・ケンちゃん、何か注文したんですか?」
「いや、これからや・・・」
「何にしようかな・・・?」そう言ってリョウちゃんはメニューを広げた。
「ケンちゃんは何にするんですか?」そう僕に訊ねてきたので、僕はいつも食べている「日替わり定食にする」と言った。
「じゃあ、僕も同じにしよう」と言って、マスターに「日替わり、二つお願いします」と大声で注文した。
その様子に「よく、この店来てるの?」とリョウちゃんに訊ねた。
「いえ、入学したての頃に、二、三回来たくらいかな?」とリョウちゃんは答えた。
「ところで、なんで僕がこの大学入ったの知ってたんですか?」とリョウちゃんは聞いてきた。
『おばさんが僕に会いに来て教えてくれた』と言うと、二人の関係がばれてしまうと思い「最近、リョウちゃんのお母さんが俺の実家に来られたようで、その時、ウチのお袋にリョウちゃんも俺と同じ大学に入学したって教えてくれたみたい。昨日、たまたま家に用事があって電話したら、お袋が教えてくれたんや・・・」と、僕はとっさに嘘の返答をした。
「へ~、ウチの母がケンちゃんの家に行ったんですか・・・?せっかく近くに来たんなら、僕のところにも寄ったらよかったのに・・・母さん、なんも言うてくれんから・・・・・・」
僕は慌てて「平日だったから、授業に出て、リョウちゃんはおらんと思ったんじゃない?・・・『昔が懐かしくなって、急に思いついて昔住んでたところ見に来た』いうて言われてたとお袋は言ってたわ」と嘘話を取り繕った。
「そっか・・・ま~夏休みにも帰ったし・・・ここに来るのも、あそこからなら、それなりに遠いしな・・・・・・それにしても、それで、僕にわざわざ会いに来てくださって、本当にありがとうございます」
僕は、それ以上、リョウちゃんの追及がなくなってホッとした。
・・・が、ホッとしたのもつかの間、またしても、答えを用意していなかった答えようのない質問がリョウちゃんから発せられた。
「そういえば、昔から一度、ケンちゃん聞きたいと思っていたことがあるんですよ・・・」
僕は、そのリョウちゃんの言葉を聞いて何を聞かれるのだろうとドキッとした。
何せ、リョウちゃんには絶対に話すことのできない秘密ばかりを持っていたのだから・・・・・・
「昔、ケンちゃんがウチに遊びに来ていて、ウチの母が、エライ剣幕でリョウちゃんを怒ったことあったでしょう?その時、ケンちゃんも怒って『あの事、みんなに言うちゃる』言うて、ウチの家飛び出したじゃないですか?あれって、何だったんですか・・・?」
僕は、とっさにうまい答えが思いつかず「え~?そんなことあったかな・・・・・・?」と、とりあえず時間稼ぎをした。




