僕の後輩になったリョウちゃん
その後、リョウちゃんも今年、僕と同じ大学に合格した話を聞いた。
そして、昨日の昼、ウチを訪ねて、ウチの母と色々話をしたことも・・・
「昔のことがいろいろ懐かしくなって・・・昨日、昔住んでた借家を見に行ったんよ・・・もう、私らが住んでた家はなくなって更地になってて・・・・・・そのあとケンジさんの実家を訪ねたの」
「ケンジさんのお家も、きれいに建て替えられてたね・・・」
僕の実家は、ちょうど僕が高校生になった時に、隣の家が空き家になったのを機会に、その家を買い取り、二つの家を取り壊して、庭のある家に建て替えていたのだ。
おばさんは、さらに話を続けた。
「ケンジさんのお母さんにケンジさんが地元の国立大学に行ってるっていうのを聞いて、『リョウタも今年同じ大学に入学しました』って言ったら、おばさん、ケンジさんの下宿先も教えてくれて・・・『リョウちゃんに教えてあげたらええわ』って言うて・・・」
「リョウタじゃなく、私がケンジさんに会いに来てしもうた・・・・・・」
おばさんは、そう言っていたずらっぽく笑った。
「へ~、そうだったんですか・・・?リョウちゃんも、俺と同じ大学・・・?」
「何学部ですか・・・?」と聞くと、「法学部、弁護士になりたいんやって」とおばさんは答えた。
「へぇ~・・・すごいな」その後は、しばらくリョウちゃんの話で盛り上がった。
少し、話の間が開いたので、僕は、あれ以来、ずっと気になっていたことを今聞かなければという気持ちになっていた。
が、直接ストレートに聞く勇気もわかず、とりあえず、リョウちゃん以外の家族の近況を聞くことにした。
「そのほか、皆さん、お変わりないですか?」
そう聞けば、引っ越ししてから産まれたであろう子供のことも話に出るのではないかと思った。
「うぅうん・・・・・・」
おばさんは、今までの明るい表情から一転して静かに首を振った。
「ウチのお父さん、3年前に亡くなったんよ・・・夜のご接待でお酒飲んで、家の近くでタクシー降りて道を渡ろうとしたところを後ろから来た車にはねられて・・・・・・」
「お父さんって、リョウちゃんのお父さん・・・?」僕は、そのおばさんの返答に、いらぬことを聞いてしまったと後悔しながら訊ねった。
「うん・・・・・・即死やった・・・私らが病院行った時には、顔中血に染まった包帯ぐるぐる巻きで・・・・・・もう、息してなかった」
「お父さんも、私も中学しか卒業してないんよ・・・だから、あんまりいい仕事が無くて・・・・・・」
「私もお父さんも父親が戦争からの帰還兵で、ウチのお父さんは戦争で負傷して右腕が無かったの・・・それで、まともな仕事もできず、昼間っからお酒呑んでウチの母や私たちに怒鳴り散らしてた・・・その時は、お父さんが憎くうてたまらんかったけど、今から思えば、お父さんも辛かったんだろうと・・・・・・」
「だから、母が一人で、私と妹の二人を抱え、必死に家庭を支えてくれた。私は、本当は仲の良かった友達と同じように高校にも行きたかったけど、貧乏やったし、そんな母を見ていると、とてもそんなことは言えんかった。父も私が中学の時に亡くなってしもうたし・・・・・・」
「私が工場入った時、お父さんは二年先輩やった。お父さんも、私と同じような境遇で、それで中学卒業してすぐに働きに出た言うてた」
「私も中卒やいうんで、いろいろ面倒見てくれたんよ・・・その頃の女工さんは中卒の人が多かったんやけど、そんな中でも、私は一番かわいがってもろうた」
「そんな、何も分からん私に、一生懸命いろんなこと教えてくれるお父さんが私も好きになってしもうて・・・・・・今のリョウタがお腹に宿ったんよ。その時、お父さんは『神様からの授かりもんや』言うて、本当に喜んでくれた・・・『結婚しよう』言うて・・・・・・」
「私はまだその時17やったから迷うたんやけど、お父さんの『どんなことがあっても、絶対に俺がお前を守るから』いう言葉に結婚を承諾したんよ・・・本当にうれしかった」
「でも、出来ちゃった婚なんで、ウチの母は相当反対して・・・『この恥知らず』言われて・・・それまで、私のこと怒ったことなんかなかったけど、その時初めて怒られて・・・駆け落ち同然で結婚したんよ・・・あの頃は私もお父さんも若かったからできたんやと思う・・・だから、私ら結婚式も新婚旅行にも行ってないんよ・・・毎年ある地区の旅行が新婚旅行みたいなもんやった・・・・・・」
「・・・なのに、私・・・その旅行でもお父さん裏切るようなことして・・・・・・罰が当たったんよ・・・」
おばさんは、顔を伏せて、涙を流した。
僕は、おばさんの言った「お父さんを裏切る・・・」と言う言葉に自分自身の責任も感じ「ごめんなさい・・・・・・」と言った。
「うぅうん・・・ケンジさんは謝ることなんかなんもない・・・悪いのは全部私なんやから・・・・・・」そう言って、おばさんは僕をかばってくれた。
「いけんね、せっかく、久しぶりにケンジさんに会えたのに、こんな暗い話してしもうて・・・・・・」しばらく、二人とも黙り込んでしまった。
僕は、その暗い雰囲気を変えようと、勇気を出して、引っ越ししてから産まれたであろう赤ん坊のことをわざと明るい声で訊ねた。
「和子さん・・・和子さんが引っ越しするとき、妊娠されてたでしょ? 今日は一緒じゃないん?」
「アキのこと・・・?」おばさんは、伏せていた顔を上げて訊ね返した。




